ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

1+1

2006-08-31 05:10:53 | Weblog
ハービーハンコックとウェインショーターのデュオアルバムだ。この企画をやろうとどっちが言い出したのか知らないけど、確実なのはハービーがウェインショーターのファンだということだ。録音状態は最高音楽の内容も素晴らしい。でも難しい。はっきり言ってこの内容のどこがどう面白いかというのは、やってる二人以外は分からないと思う。マーラーの音楽みたいだ。商品になるような音楽じゃない。ビッグネームの2人だからレコーディングされて世界中のひとに聴いてもらえるけどね。これは決してこの作品をけなしてるわけではなくて、グレートな2人とそれを世界に発信したレコード会社を讃えているわけです。この中にはいっているチャールズブロンソンの映画の曲、「ジョアンナのテーマ」、ウェインの「ネイティヴダンサー」でもやってたけど、シンプルでいいね。でもよく聴くと難しい。まあ技術がこのレベルまで行くとそうた易くは理解はできないね。意外と本人達は簡単に考えてたりするんだけど・・・。音楽の聴き方はひとそれぞれだからコメントはできません。ホントに。
音楽を長くやってるとどうしても他人の音楽を深読みしてしまう傾向がある。自分がやってるときは何も考えてないのにね。そう考えると極端な話、ストラヴィンスキーやバルトークの音楽も本人達にとっては「なんでもない複雑さ」なのかな?

Man Child

2006-08-30 05:51:48 | Weblog
'70代半ばのハービーハンコックの作品だ。完成度はすごく高い。実は今はCDは持ってなくて、古~いカセットテープしかない。30年も前に誰かからLPを借りてダヴィングしたやつだ。当時はウェザーリポートの方に夢中でこのアルバムがいい評判取ってたのは知っていたけど、かなりいいかげんに聴いていた。ショーターやスティービーワンダーも参加して金のかかったアルバムだなと、そういう感想しかなかった。ピアノの大野雄二さんと話していたら大野さんがこのアルバムのことを絶賛していて、ボクの反応がゆるかったのか「ピアニストのくせに・・・」みたいな感じであのおだやかな大野さんが切れかかってたのを憶えている。ずいぶん失礼なことをしました。まあ率直にいうと当時のボクはハービーの懐の深さみたいなのが理解できなかったんだ。若い頃は何かに夢中になると、とにかくそれだけだからね。まあそれが若さの強みでもあるけど・・・。ジョーザヴィヌルの音楽以外は受け入れられなかったんだ。今思えば情けない話だ。自分がないんだから・・・。マイルスは当時のハンコックの音楽を明確なディレクションがないと批判めいたことを言っていた。それをどこかで聞いて自分の意見のように自分を納得させていたんだ。とにかく自分が理解できないことを、もっともらしい理由をつけて分かろうとしないのはただの思考停止なんだ。音楽はこれが一番ダメだね。このアルバムの音楽はハンコックのキャリアを象徴するような、幅のひろい良質の音楽だ。いくら若かったとはいえプロのくせに音楽の「音」だけを聞いてその奥にある重要なものに対する想像力が欠けていたのは本当に情けない。

The Piano

2006-08-28 01:58:35 | Weblog
ハービーハンコックが日本のツアーに来た時のついでといったらちょっと失礼かもしれないけど、スタジオに入って録音したソロピアノアルバムだ。この数年前にも日本でソロアルバムをレコーディングしてる。そのアルバムは片面がアコースティックで片面はエレクトリックキーボードをオーヴァーダブして録ってたね。この「The Piano」は録音方法が尋常ではないんだ。当時は「音」に極端にこだわるブームみたいなのがあって、とにかくオーディオマニアの薀蓄が氾濫してた。スタジオで録音するのに、間に何も介さず直接LPの盤に落としてしまうんだ。この方法、なんだっけダイレクトカッティングとかいったけど、この方法で録られたジャズのアルバムが何枚かリリースされてたね。LPの片面を一気に録音するんだ。だから約20分、3、4曲だね。ちょっとミスると、最初の曲からやり直しだ。ボクには絶対できません。こういうことになんの意味があるのか知らないけど、クレイジーだ。時代を感じる。まるで1920年代のレコーディングだ。それでもその頃は1曲だけだからね。ハンコックはよくやったよ。というかよくやってみる気になったね。内容は緊張感が漂っててそれがいいといえばいい。だけど、やはり堅く行ってる。冒険はナシだ。しょうがないね。たぶん2テイクぐらいしかできない。神経がもたないからね。聴くほうは無責任だからちょっとしたミスを期待するところがあるけど、やるほうは違う。あのハンコックですらやはり自分のミスを聴かれるのはいやなんだ。ミスを気にせずに演奏しろというのはよく先輩に言われたし確かに正解だ。今ではボク自身も若いミュージシャンや歌手にしたり顔で言っている。自分はいまだにミスを恐れながら演奏してるくせに。無責任なアドヴァイス、すみません。

Future Shock

2006-08-27 02:30:27 | Weblog
'82年だったか友人の車に乗ってたら、なにかテープをかけていて「これ何?」と聞いたらハービーハンコックの新作でめちゃめちゃ売れてるらしいよというので、まあ買ってみようと、すぐレコード屋に行った記憶がある。まあハービーのサウンドで聞きなれた音ではあったけど、ヒットしてたのは「Rock It」だったんだ。「マテリアル」というユニットを使って、変わった方法で録音したらしい。というのは、先にリズムセクションを録音しておいて、それを聞いて作曲をしたというんだ。それもアメリカの東海岸と西海岸に分かれて。まあジャズファンはこんな話を聞くとひくよねえ。でもよく聞くと小節がはんぱだったり、聞いたことのないリズムパターンがあったり、それもむしろダサイといったほうがいいような感じだ。これはハンコックと一緒に演奏してたら絶対に出てこない類のものだ。それにむしろハービーは惹かれたのかもしれない。よくまあこれをヒット曲に仕上げたよ。ボクはそういう感想だ。音楽の作り方にマニュアルはなくて、過去のクラシックの大家の名曲でも調べてみるといろんなつくり方をされてる。そんなのあり?というようなのもある。でも結果的に芸術になればいいんだ。またそういう考えを否定してプロセスを重視する人もいる。すべてをふくめて音楽は「Anything Goes」なんだ。

V.S.O.P The Quintet

2006-08-24 02:24:30 | Weblog
このバンドはもともと'76年のニューポートでハービーハンコックの特集みたいなのをやって昔のマイルスバンドを再現しようとメンバーに声をかけたけど肝心のマイルスに断られて、代わりにフレディーハバードが参加して、一回きりということでやったバンドだ。でも評判がよかった、という理由でツアーをやることになった。このアルバムは、'77年の日本公演の一週間前にアメリカの西海岸でやったライブ盤だ。日本でやったときには田園コロシアムに聴きに行きました。そのときはFMラジオ局も来てて、その時の演奏を後日放送されたものをカセットに録って、今でも持っています。まあとにかく気になってチェックはしてたね。このアルバムも面白いところはいっぱいある。とにかくひとりひとりたいした腕だからね。それに長い間一緒に修羅場をくぐってきているから、音楽がそんなにとっちらからない。まあ今では想像がつかないかもしれないけど、来日したときは結構大騒ぎだった。それぞれのオリジナル曲を結構ラフに演奏するだけなんだけど、そのいいかげんさが唯一の売りだったんだ。こういうバンドがジャズの良さだといってしまうと、それまでで、別に否定はしない。でもあれから30年たって聴いてみると、やっぱりただのジャズの営業バンドだ。ほかにコメントが見つからない。この頃マイルスは姿を消して3年ぐらい経ってた。このバンドをやろうといったのは誰だか知らないけど結局マイルスをひっぱりだしたかったんだ。誰が説得に行ったのかしらないけど、人選をもっと慎重にしてマイルスの裏をかくような作戦を立てるべきだった。レコード会社のスタッフや親しいミュージシャンなんかじゃ絶対ダメだ。マイルスの好きなフランスの女優に口説かせるんだ。そしたらもしかしたらニューポートに来て吹いていたかもしれない。聴いてみたかったね。でもそうしたらこのバンドは本当の「Very Special Onetime Performance]になって営業はできなっかただろうね。