ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

Off Minor

2013-05-26 01:29:08 | Weblog
作曲年月日は定かではないが、セロニアスモンクのかなり初期の作品。モンク自身の演奏で何度か録音されている。アルバム「Monk's Music」で、この曲を管楽器奏者が入れ替わりソロをとっているのを聞くと面白い。コルトレーンやコールマンホーキンスもいる。ラッパはレイコープランドだ。もちろん全員当時のジャズシーンのトップクラスのミュージシャンで、モンクの音楽も理解しているとは思うけど、やはりこの曲のインプロヴィゼーションには苦労している。リハーサルをどのくらいやったのか、ライブでも演奏していたのかは分からない。ただしコルトレーンに関しては当時モンクと一緒にやってたし、クアルテットというかたちでモンクのいろんな曲になじんでいたからアドバンテージはあったと思う。それにしてもこの曲を音楽にするのは大変だ。アナライズは比較的簡単だ。裏のⅡ-Ⅴとモンク独特のトップノートの響きが分かれば理解はできる。でも実際の演奏でそれを自分のインプロヴィゼーションに生かすのはかなりの難作業だ。こういう曲をジャズスタンダードと呼んでいいのだろうか?分からない。原曲の個性やインスピレーションを利用して自分の音楽を表現するジャズの面白さと原曲をどう扱うか?というジャズの難しさが同居した曲なんだ。

モンクス・ミュージック
ユニバーサルミュージック
ユニバーサルミュージック

Functional Ⅳ

2013-05-19 01:37:22 | Weblog
セロニアスモンクはジャズの歴史の中でも突出した存在の奇才だ。ジャズはインプロヴィゼーションが根底にある極めて構造的な音楽で、それには12音平均律が前提になっている。モンクの和声は12音でしか成り立たない微妙なものだ。モンクの頭の中にある12音の組み立ての方法論はジャズという音楽の多様性を表現するのにピッタリだったのだ。その独特のハーモニーセンスはブルースの演奏の時にももちろん発揮されている。モンクはトライトーンについてどんな感じ方をしていたのだろうか?彼の中でのブルーノートの存在はどういったものだったのだろうか?こういった音程やハーモニーは説明さえしてもらえば誰でもすぐ分かる。でもそれを自由に自分の音楽の中に使えるようになるのには相当な時間がかかる。それが「ハーモニー」なんだ。増4度や長7度の使い方がサウンドを左右することはしばらくジャズをやってればほとんどの人が気がつく。でもそれを使いこなすのが大変なんだ。簡単には自分の音にならない。人間は自分に対してないものねだりをしがちだ。ああしたい、こうなりたいと思って音楽を組み立ててもそれが自分本来の音かどうかはなかなか分からない。自分のことを客観視するのは至難の業だ。でも他人には意外なくらい簡単にわかられているものだ。だから時には共演者、そして聴衆にも意見や感想を聞いてその中から自分の音楽を考えてみる必要がある。

Functional Ⅲ

2013-05-15 00:38:19 | Weblog
ブルースに機能和声の決まりを全部はめ込んでしまうとかえってブルースらしさはなくなってしまう。それはブルースを演奏すれば誰でも直感的にすぐ分かる。でも全くトラディショナルなブルースコードだけでジャズインプロヴィゼーションが成り立つかといえばそれも疑問だ。ブルースを演奏する時は自由もあるかわりに迷いもつきものだ。でも個々のミュージシャンによって、またバンドによってブルースを演奏する時のコードというかサウンドはわりと一定している。チャーリーパーカーとセロニアスモンクは全然違う。確かオープンドアという店でパーカーとモンクが一緒にやってる有名な写真があるけど、あの時のブルースはどんなサウンドだったんだろうか?そういえばその写真のドラムはロイヘインズだ。まだ現役・・・。世の中には信じられない人がいるものだ。この「functional」はスローブルースだからスローなりの決まりもあるけど、モンクの特徴はサブドミのあと、7小節目と8小節目だろう。Ⅰにもどったあと順次進行で上がってⅢ-Ⅲ♭と降りてくろ。このときⅢ♭がm7THなのだ。モンクはこのサウンドが好きだ。通り道によく使う。確固たる信念、嗜好があれば音楽はその人の個性となって響く。

Functional Ⅱ

2013-05-06 00:55:13 | Weblog
音楽表現というのは「歌う」ということがいわば基本だ。どんな楽器でも歌うことを要求される。でもそれは単音、ひとつの音だ。多声部音楽というのはそれを縦に充実させたというか、複数の音を同時に歌わせて表現する音楽だ。ピアノはたったひとりでそれができる。いくつもの音を同時に「和音」というかたちで自分の主張ができるのだ。なんといってもこれがピアノの最大の特徴だ。ジャズインプロヴィゼーションではその和音の自由度が高い。無数の組立て方がある。ジャズピアニストにとってこのヴォイシングは永遠のテーマだ。ケニーバロンが以前、ピアノを弾く練習はサボっているけど、ヴォイシングの研究だけはずっとやっていると語っていた。根気のいる作業だ。ブルースのヴォイシングは自由の幅が広い。面白いといえば面白いけど、いわゆるコードの「濁り度」の線引きをどこにするのかホントに難しい。その時の自分のフィーリングに合ったコードを的確に押さえるというのは相当鍵盤と「お友達」になっていないと無理だ。「お友達」という言葉、実はこれは亡くなったピアニスト「コルゲン」鈴木宏昌さんに言ってもらった言葉だ。30年以上も前だけど、「コルゲンさん、ピアノの練習ってなにを目指してやればいいんですか?」と訊いたら「鍵盤とお友達になることを目指せばいいんだよ。」と教えてくださった。その通り!