ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

Blue Moon Ⅲ

2010-08-21 23:23:39 | Weblog
演奏にはどういう心構えでのぞめばよいのか?難しい問題だ。かけだしの頃は先輩には軽く「場数」だから、とばかり言われた。まあ正しいアドバイスだろう。人前での演奏にかかせないのは「場数」だ。でも「場」といってもいろんなところがあるし、共演するいろんな相手がある。ジャズの世界はとにかく即興演奏をうまくこなさなければいけないからああしようこうしようという計画はまったく役にたたない。どんなにこなれたいつもの曲をやっていても毎回違う展開になるから、その時起きたことにその場で対応しないとまともな音楽にならない。だからあがったりしている場合ではない。緊張感と集中力は必要だけど・・・。プロになってしばらくたって演奏の心構えがちょっと分かり始めた頃、クラシックの大家ルービンシュタインの言葉にふれたことがある。「ショパンを弾く時はポケットから準備してきたものを取り出すように弾いてはだめだ。その日その時に感じるフィーリングで演奏しないと音楽が死んでしまう。」ああクラシックも一緒なんだ、とよく分かった気がした。でもこれも実践できるまでにはやはり「場数」がいる。音楽の演奏で気になるのはミスをすることだ。でもこれもキャリアをつんで客観的に音楽を聴けるようになると聴衆というのはそういうことはたいして気にしていないことが分かってくる。それにミスが音楽の良し悪しを決めるものではない。まあそれでも「場数」の中には手痛いミスやひどい演奏も含まれる。しょうがない。全てを含めて「場数」だ。

Blue Moon Ⅱ

2010-08-06 03:09:48 | Weblog
この曲の構造は明確だ。A-A-B-Aの形、Ⅰ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴを繰り返す形、ブリッジはⅡーⅤ-Ⅰを2回やってその形を短3度上げ、Bの最後は5度上に一度落ち着く。コード進行だけだったら憶えるのに1分もかからない。でもいい曲だ。Aの部分はある程度のリハーモナイズをして演奏するのが通例だ。アートブレイキーがジャズメッセンジャーズらしいアレンジでレパートリーにしていた時代があった。うまく増4度を使ったリハーモナイズをしていた。いろんなクッキングに耐えられる曲だ。メロディーや歌詞はもちろんきっちり憶えないといけないけど、コード進行は憶え方が違う。やはりこれがジャズ独特の憶え方なのかもしれない。クラシックの名曲を暗譜する作業は大変だけどそれはそれなりに音楽を理解する助けになる。でもジャズの演奏を長くやっていると和声に対する考え方が変わってきて曲のコードをインプロヴィゼーションを前提に憶えるくせがついてしまう。そういう憶え方でないといろんな演奏に対応できないからだ。自然にそうなってくる。そしてコードの押さえ方は知らず知らず年月とともに変わってくる。違った響きが欲しくなってくるんだろう。何年か経つと自分では気付かずに同じ曲を違ったヴォイシングでやっていたりする。「和音はしばしば全くその性格を変えるので、今日では転回しうるものとは考えられない。」・・・これはヒンデミットの言葉だ。つまり厳密には転回しただけでコードは変わってしまうというのだ。もちろんこれが絶対正しい見方ともいえない。でも音楽構造にはこういう考え方すらあるのだ。そう考えるとジャズの演奏は毎回全く違うコードでやっていることになる。ジャズミュージシャンのコードの認識の仕方、憶え方、なかなか言葉で説明するのは難しいけど、それは即興演奏の中で身につけた「生きるための方法」で、ボクはとても正しいと思っている。