ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

After You’ve Gone Ⅳ

2013-10-10 23:25:57 | Weblog
alt という文字がある。コードネーム、主にドミナント7THについている文字だが・・。これはオルタード・・・変化音?というか、幹音に対しての派生音というような意味合いだ。簡単に言えば12個の音のうちトナリティーに関わる7つの音以外の音、スケール以外の5つの音、・・・そう捉えてほぼ正解だ。この5つの音をテンションとして和声の中に使えるのは稀な例を除いてほとんどドミナント7THのコードの時。この5つの音、そして「alt」という言葉をちょっと考えてみよう。楽曲はおおきなひとつのトナリティーに縛られているが、部分的にはいろいろなトナリティーに移っていく場面もある。そして一時的には7THの連続で目まぐるしく調性が動く場面もある。半音階的なコードに対して、縦関係だけ考えてのオルタードというのは、表記としてはしょうがないことではあるが、演奏する側はその意味をちゃんと把握する必要がある。というのはオルタードテンションが5つの音ではなくて幹音である7つの音の方であるケースがよくあるからだ。7と5が逆転するわけだ。これは、ひとつひとつコードを精査すればわりと簡単に解決することではあるが、問題は人間の耳が「alt」を感じるのはどういうケースか?ということだ。これには時間の芸術としての音楽の特性が大きく関わってくる。つまり人間が音楽を聞くのはある程度の時間、記憶しながら聞いているということだ。だから時間の流れのなかで調性を見出し、それからはずれると「alt」と感じる。縦関係は実はあまり関係がないのだ。こういうことは、実はインプロヴィゼーションをある程度体験するとすぐに発見できることでもある。楽譜の表記というのはあくまでも音楽を伝える指針であって真意を理解しないと正しい演奏に結びつかないものなのだ。

After You’ve Gone Ⅲ

2013-10-09 13:07:33 | Weblog
テンションの考えかたには色々ある。というか、テンションという音楽用語自体がジャズの世界のものなのだ。基本的には和声の機能を変えずに加えられる音のことだ。だから倍音列という自然現象が大きく関わってくる。倍音があまり出ないというか、基音のピッチが聞き取りやすいものを楽器の素材として音楽に使っているわけで、だから楽器によって出る倍音の量はかなり違う。個人差もある。具体的には奇数倍音の量に大きく左右される。ここでテンションのいわば「使用ルール」をどう設定するかという問題になってくる。上のほうへ行くと倍音は全ての音が発生しているという事実もある。でも音楽のルールとしてそれを全部許していたら収拾がつかないのだ。だからどこかで線引きをする。内声にトライトーンを含まないコードは9度、11度、♯11度、トライトーンを含むものは、4度と長7度音以外は許す。音楽を作るのに許すもなにもないのだが、この言葉にかみついていたらテンションというジャズのルールの真意が分からなくなってしまう。どんなルールにも特例はある。それは人間社会の常識だ。だけど、誰が発案したでもなくみんなの合意で決まったものというのはそれなりに価値があるのだ。いわば音楽の「道徳」だ。だから一応テンションのルールに則ってサウンドを組み立て、そのあと「特例」を考える。そうしないと最初からなんでもありでは混乱するだけだ。でもルールを絶対のものと考えて融通がきかないのも困る。音楽の決まりは知ってなければだめだけど、あまり縛られるのもよくない。ルールの本質を理解して柔軟に対応するしかないのだ。

After You’ve Gone Ⅱ

2013-10-07 13:28:54 | Weblog
優位二声部の動きをみてみよう。コードとしてはサブドミナントからサブドミマイナーつまり基音から6度音に当たる内声が半音下行しているわけだけど、トップノート、つまりメロディーラインはルートの長7度音から長6度音に下がるというシンプルなものだ。そしてその形を全体に4度下げる。つまりトニックのコードでそれを繰り返す。当然トニックの次にⅥ7をつかってはいるが・・・。そして今度はまたメロディーは4度上がって頭と同じ高さに行く。そこではⅡ7、Ⅴ7を和声として使っている。そしてまた4度下がってコードはトニック、サブドミナントに戻るためのⅠ7、これで前半は終わり。つまり、この曲はかなりアカデミックな構造がもとになっていることがわかる。もちろん最初の二声部に長7度を使うのが20世紀のフィーリングではあるが・・・。やはりインプロヴィゼーションの素材になる、ジャズスタンダードになり得る曲はこのぐらいの筋が通ってないと生き残らない。即興演奏はそういう宿命なのだ。ゆっくり考えてる時間がない。すぐ反応するためにはミュージシャンは素材となる楽曲にそういう頼れるものを望んでいるということだ。じっくり考えるということは人間にとって絶対必要なことで、長い長い時間、考えぬいて人間はいろんなものを作ってきた。でもその基になる閃きは一瞬のもので、インプロヴィゼーションはその閃きを凝縮したものかもしれない。

After You’ve Gone

2013-10-06 13:42:55 | Weblog
1918年Tumer Laytonの作品、Marion Harrisのヴォーカルで最初にリリースされたようだ。作られた年を確認に調べたら思ってたのよりだいぶ古かった。でもあっという間にジャズスタンダードとして多くのプレーヤー、ボーカリストに好まれるようになったようだ。形式はA-B-A-C、でいいか?Cの部分はちょっと長い。数は4、4、4、8。でもいろんなクッキングをするうちダブルテンポでやるのがごくポピュラーになり小節数でいうとそれぞれ倍になってる認識だ。ポピュラー曲をクッキングする目的はもちろんその曲をジャズにする、スウィングさせるということだ。ダブルテンポにすると、メロディーのテンポは変わらずに曲のテンポが倍になるから当然リズミックにスウィンギーになる。それがジャズの手法なのだ。この手法でクッキングされてそのダブルテンポのやり方のほうが普通になってる曲もいっぱいある。実際の演奏に関してだが、この曲のイントロは最後にトニックに落ち着いて、Ⅰ7を入れないと頭にいけない。とくに歌は歌えない。この曲を知ってないとアウトだ。サブドミナントからスタートする曲はイントロを作るのに、必ずひと工夫要る。ドミナントからでないと入れない曲もある。もちろん一番大事なポイントである、曲の最初のメロディーの都合もある。イントロ(前奏)を作るのだからその楽曲をちゃんと知っていなければ出来ないのはしょうがないことだけど、知っていなければいけない曲数が多すぎるし、キャリアのないピアニストにはホントきつい。もちろん知らないこととそのミュージシャンの才能や将来性とは関係ないことで、コツコツ覚えていけばそれでいいことなのだけど、幅広く覚えていこうという態度は絶対必要だ。やはり知識を広げることで音楽の教養も深まる。自分の志向ではないものに興味はない、と若いときから開き直るのは結局自分で自分のクビをしめることになる。

After You've Gone
Bmg
Bmg

Isn’t It Romantic Ⅳ

2013-10-02 16:34:25 | Weblog
この曲の7,8小節目などによく現れるコード進行だが、ⅠからⅥに移行したりするときのことについて・・・。もちろんメロディーラインによることにはなるが、Ⅰ-Ⅱ-Ⅲ-Ⅵというふうに順次進行を間にはさむことはよくある。それと同時にドミナント7THで半音下降するリハーモナイズも頻繁に用いられる。このふたつの考えかたの違いはなんだろうか?音楽的な相違点は明らかだ。順次進行にするとトナリティーがはっきりする。7THの半音進行だとトナリティーがあいまいになる。それと同時に前者は全音階的、後者は半音階的になる。どちらが良いという問題ではない。曲想、場面によって使い分ける、それしかないのだ。同じ曲を、過去に全音階的な和声でリハーモナイズしてあったものを半音階的にしたり、それに飽きてまた逆のことをやったり・・・。この裏にある人間の感性を理解する必要はあると思う。人間の脳は刺激や快楽を求め続けるのだ。音楽の12音という限られた素材の中で和声面での刺激といえば必然的に半音階的和声ということになってくる。でも素材の数が限られていいるからすぐに行き詰って、刺激にも慣れて今度は倍音列に沿った簡素な響きを求めるようになる。このいわば「揺り戻し」も快楽のひとつだ。要するに音楽のハーモニーという範囲内ではこの行為を繰り返す習性がある。古典派の巨匠たちもこの人間の欲求を十分承知して楽曲を作っていた。ただ数百年前はその振れ幅が小さかった。個人差はあるにしても18世紀の人間と21世紀の人間では社会から受ける刺激の強さや周りの状況の移り変わりのスピードから感じるストレスの強さは違うはずだ。音楽はその人間が周囲から受けるさまざまな情報に対する、感性の返事なのだ。そしてそれは和声構造に明確に現れる。