ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

So Many Stars

2013-12-10 10:25:40 | Weblog
セルジオメンデスの作品、ブラジル’66の中に収録されたのが最初でリリースは’67年だ。歌詞はアラン&マリリンバーグ。このアルバムはヒット曲満載のアルバムだ。2000年代の入ってリリースされた「Timeless」というメンデスの集大成のようなアルバムの中にも、このアルバムからの曲が複数入っている。もちろんこの「So Many Stars」も・・・。ちょっと特殊なかたちではあるが・・・。というのはこの最初の収録の時のイントロダクションの部分、つまり楽曲のアレンジに近い部分をフィーチャーした形になっているのだ。確かにこのイントロはいい。この曲は頭がドミナントベースのサブドミナントで始まる。つまりサスペンデッドされた音だ。イントロは同じ形のトニック音ベースの同じコード、それとその全音下のコード、ちょっとややこしいからコードネームで書いてみると・・・キーはD♭なので、D♭ベースのBmajとBがベースのAmajだ。そして曲の頭はA♭がベースのG♭maj。もちろんトップノート云々という要素はあるが、ボーカルのためのイントロとしてはかなり奇抜だ。でも素晴らしい。実際にコピーしてやってみたことがあるが、歌手はスムースにスタートできる。これはアレンジに絶対的自信を持っているひとの仕事だ。もちろん曲そのものも素晴らしい。ブラジルが生んだアメージングジャズピアニスト、そして、偉大なバンドリーダー、音楽プロデューサーでもあるセルジオメンデス。半世紀以上にわたる彼の業績はすでに彼をレジェンドと呼ぶにふさわしいものにしている。

ルック・アラウンド~恋のおもかげ
ユニバーサル ミュージック クラシック
ユニバーサル ミュージック クラシック


In Walked Bud Ⅳ

2013-12-09 07:39:15 | Weblog
この曲の最初の4小節はお決まりのクリシェ(cliche)で始まっている。このクリシェという言葉は直訳すると「型にはまった」というような意味だ。あまりいい感じではない。でもよく考えると機能和声の各声部の動きはいわば「cliche」の連続だ。「お決まり」のサウンドを最初から否定するのは良くない。そのサウンド、コード進行、内声の動きの必然性、必要性をちゃんと理解してから破壊したければ破壊すればいい。clicheの音楽上の一応の定義はコードが変わらない時、というふうになっているが、これは受け取りかたの問題で、内声が半音変化しただけでもコードは変わると言えば変わるし、ベースラインの変化であれば、明確に和声が変わると言ってもいい時がある。それはあまり問題ではない。要するにクリシェという現象を、よくある数種類のパターンだけと思って固定化して捉えるか、もっと幅広くいろんな場面でおこる対旋律の変化と捉えるかという問題だ。音楽構造というのは、想像以上に固定化されていて、「お決まり」のパターンが多い。それは実は即興演奏の場面でも現れる。ピアニストのカンピングのトップノート、ベーシストのウオーキングライン・・。もちろんある限られた場面ではあるが、即興で自由にやってはいるのだが、独特の感性がそうさせてしまうのだ。クリシェがとても自然で美しく感じられる時がある。それは当然のことで、クリシェというのは12個の音の組合せ方を探っているうちに人間が探り当てたいわば宝物なのだ。その時は迷いなく「型にはまった」ものを演奏すべきだ。それがその時のベストのインプロヴィゼーションなのだから。

In Walked Bud Ⅲ

2013-12-08 08:17:24 | Weblog
ジャズインプロヴィゼーションを定義づけるのは難しいが、一番近い音楽形態といえば、ヴァリエーション・・・変奏曲だろう。和声進行に従って音楽を作りかえる・・・ジャズを最初に聴いてそのことに気づくひとも多いと思う。もちろんインプロヴィゼーションはそんなに簡単に括れるものではないがその着眼はほぼ正しい。変奏曲は作曲の練習課題として最初に取り組むものだ。そしてそれ自身、作品として十分通用する。もちろんできが良かったらという話だが・・・。変奏曲にはいろんなパターンがある。和声にそったメロディーフェイク、リズムの形や伴奏形の組み換え、和声そのものの組み立て直し、そしてそれを楽器編成を変えておおがかりなものにすることなどだ。広げていったらきりがない、でもこれこそが「Composition」という言葉にもっとも近い行為なのだ。基になるアイデアやメロディーの切れ端などいわばいちから楽曲を組み立てる時も作曲の過程には、この「変奏」という作業は欠かせない。つまりジャズインプロヴィゼーションに近い行為は作曲には絶対必要になってくるということだ。ジャズの世界でよく行われる「Change」、アドリブを前提にした曲の作りかえは立派な変奏曲、Compositionなのだ。で、問題はその出来上がりが作品としてどうか?ということだけだ。原曲を超える芸術性を持っているのか?たんなるイミテーションか?見届けるのはその一点だ。純粋に音楽的に考えるとこうなるわけで、盗作や著作権の問題と同じフィールドで考えられることではないのだ。

In Walked Bud Ⅱ

2013-12-07 06:25:45 | Weblog
ポップス曲のコード進行を利用して楽曲をいわばリニューアルする手法はモダンジャズの初期から度々行われている。これは変奏曲という意味合いとはちょっと違う。変奏曲ももとの曲をフェイクするということでは一緒だが完成形をまずイメージしていろいろコンポジションをする、そのためにはメロディーはもちろん和声もそして調性の長調と短調を入れ替えたりもする。でもジャズの楽曲はまずインプロヴィゼーションを念頭に置く。ジャズの演奏に合うようにするにはどこをどう変えるかどう残すか?そこがポイントだ。だから必然的にこの作業はジャズミュージシャンの特権になってしまう。アドリブを念頭におくと作り変える時にもいろんな微妙な問題が浮上してくる。この曲の場合はAの部分の後半の処理とB・・サビの部分だ。「Blue Sky」のサビはなんとかしないとアドリブに苦労するし、ベーシストがけっこう困る。まあなんとかはなるけど・・・。Aの部分も原曲の平行調のマイナーからメジャーに戻るくだりがいわば古めかしすぎてモダンジャズのインプロヴィゼーションに合わない。もちろんそういうサウンドが好きならそのままでいいのだが・・・。モンクは偉大な「Jazz Giant」だ。ジャズプレイに必要な楽曲のインスピレーション、構造を知り尽くしている。出来たものを分析し、解説するのは誰でもできる。でもなかなか思いつかないのだ。まあこれは音楽全体に言えることかもしれない。

In Walked Bud

2013-12-06 08:40:13 | Weblog
「バドパウェルがやってきた」・・・1947年に発表されたセロニアスモンクのこの曲は1968年のモンクのアルバム「Underground」でジョンヘンドリックスが歌詞をつけて歌っている。それ以前からすでにスタンダードとして存在していたが、「Underground」というアルバムがインパクトが強く、ヘンドリックスの歌も良くてより有名になった。基になっているコード進行は「Blue Sky」だ。そっくりそのままというわけではない。A-A-B-AのAの部分でもわずかに手を加えている。Bの部分はだいぶ違う。サブドミマイナーを使う発想は同じだけど・・・。ヘンドリックスの歌詞はジャズジャイアントをたたえる内容だ。登場人物はディジーガレスビー、そしてOP・・オスカーペティーフォード、ドンバイアス、そしてもちろんモンク、パウエル。ヘンダーソンがむしろモンクの身になって人物を選んだ感じだ。モダンジャズピアノ・・・ビバップ・・・バドパウエル・・・一体、ほぼ同義語だ。モンクもやはり年下の天才バドを認めていたのだろう。お互いにどういう情報交換をしていたのか知るよしもないが、まさにビッグ2だ。この曲が発表された1947年というとモンクは30歳、モンクはそれ以前に盛んに曲作りをしていた。ジャズのクラシックスタンダードとも言える楽曲がこのころすでに出来上がっていた。その後何度もいろんなミュージシャンに演奏され録音されて現在にいたっている。Irving Berlinの作った曲がモンクのインスピレーションにヒットしてスタンダードとして残る、これはジャズの世界に限ったことではないけど、音楽の世界に盗作云々はナンセンスとも言えるのだ。

アンダーグラウンド+3
セロニアス・モンク,チャーリー・ラウズ,ラリー・ゲイルズ,ベン・ライリー
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル