ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

Estate Ⅱ

2015-04-23 03:08:28 | Weblog
この曲の和声構造を解読するのは、そんなに大変なことではない。でも良い演奏をするためにヴォイシングを考えアレンジを模索するのはそれ相当の労力が必要だ。ヴォイシングは曲を構成している主要な音階の範囲内で行ってもいいし、それ以外で設定してもよい。それはこの曲のような明確な「調性音楽」においても適用される。その理由は、そういう音楽の組み立てかたに、演奏者も聴衆もすでに慣れきっているからだ。かなりのレベルの緊張感がないと、物足りなさを感じてしまう。それが現代人の感性だ。特定のだれかがそうしたのではない。時代が進むにつれ音楽がそうなってきたのだ。ジャズミュージシャンが曲を演奏するために、音の組み立てを考えるときの判断基準は主に「適度な」緊張感だ。テンションという言葉や考え方はシビアに考えたら穴もある。でも現代の音楽の音選びのマニュアルとして、十分な威力がある。テンションに長年関わって使い方を模索していると、それぞれの音の個別の特徴も分かってくるし、理論的な「穴」も埋まってくる。もちろん物事には何でも「奥の奥」がある。音楽の「奥の奥」となると抽象的なものにならざるをえない。それはここでは極力避ける。話がややこしくなる。

Here's to Life
Universal Jazz
Universal Jazz



Estate

2015-04-12 12:13:58 | Weblog
1960年に発表されたイタリアの歌だ。作曲はBruno Martino。歌詞も最初はイタリア語。発表されてイタリアではちょっとヒットしたらしいが、その辺のところは定かではない。その後ジョアンジルベルトの歌によって世界中に知られるようになった。そしてジョンヘンドリックスが英語版を作り、シャーリーホーンもヘンドリックスとは違う歌詞で歌っている。器楽曲としてもたくさん録音されている。ボサノバのナンバーとしてよくヴォーカリストの伴奏をして、なんの抵抗もなく何度もやっていたが、楽譜を書いてみると、小節の数がハンパ。へえ~、という感じだ。形式はA-A-B-Aといっていい形だがそれぞれが7小節というか14小節というか・・・。簡単に言ってしまえば最後をちょっとはしょった形だ。まあこういうパターンもある。ポリフォニーの題材、特にフーガのドウクスを選ぶときなどは旋律に規則性がすごくあったりすると後の展開がやりにくい。そういうメロディーはフーガにはあまり向かない。これは踊ることを前提とする音楽にあまりに慣れてしまっている現代のひとにはちょっと違う価値観にも感じられる。ジャズミュージシャンは激しいリズムの中でインプロヴィゼーションをやる前提で音楽を考えるので小節の数とかが限度を超えたややこしさは受け入れられない。ややこしいというのは要するに奇数ということだ。それがちょっとなら適当な刺激にもなるが、限度がある。インプロヴィゼーションを前提に楽曲を考えるというのが別に絶対的な正しい考え方ではないが、ある意味追いつめられた状況を想像することでその楽曲の整合性みたいなものが見えてくる。この曲は大丈夫、自然にアドリブできて、小節数なんか数えなくてもいい。

フレディ・フリーローダー
日本コロムビア
日本コロムビア


Lulu’s Back in Town Ⅳ

2015-04-07 03:49:18 | Weblog
テンションという言葉はいわゆるジャズ用語で、コードの構成音以外に加えられる音のことだ。これはジャズの和声づけの考えかたとしては非常に合理的だ。倍音はその楽器が作られている素材によって異なるが、現代の楽器全般を考えたらこのジャズの世界のテンションの考えかたがあればことは簡単に済む。テンションのことを総じて言うと、長2度、短2度音程をどれだけ耳が受け入れられるか?ということになる。そこで問題になるのがもとの和音構成で、増4度を含んだコードはその推進力と曖昧さゆえに、多くの長短2度を受け入れるという傾向にある。しかし音楽には横の流れ、つまり調性感がある。この「Lulu's Back in Town」のようなドミナント7thの連続だとテンションを選ぶのにいろんな選択肢が生まれてくる。ピアニストは左手のヴォイシングを考えるうえで常にこの問題と直面している。だからこういうことを考えるのに慣れているといえば慣れているのだが、時が経つとサウンドの好みも変わってくるしその日の気分で強烈な濁りが欲しい時もある。ヴォーカルの伴奏の時はトナリティーをやはり考えざるを得ない。正解というのはない。結局、ジャズをやるには柔らかい頭が要るということだ。ヴォイシングの音を即興的に選ぶというのは、感覚はもちろんだけど、かなり高いレベルの技術も要求される。ジャズプレイの技術というのは、やはり独特なのだ。