テンションという言葉はいわゆるジャズ用語で、コードの構成音以外に加えられる音のことだ。これはジャズの和声づけの考えかたとしては非常に合理的だ。倍音はその楽器が作られている素材によって異なるが、現代の楽器全般を考えたらこのジャズの世界のテンションの考えかたがあればことは簡単に済む。テンションのことを総じて言うと、長2度、短2度音程をどれだけ耳が受け入れられるか?ということになる。そこで問題になるのがもとの和音構成で、増4度を含んだコードはその推進力と曖昧さゆえに、多くの長短2度を受け入れるという傾向にある。しかし音楽には横の流れ、つまり調性感がある。この「Lulu's Back in Town」のようなドミナント7thの連続だとテンションを選ぶのにいろんな選択肢が生まれてくる。ピアニストは左手のヴォイシングを考えるうえで常にこの問題と直面している。だからこういうことを考えるのに慣れているといえば慣れているのだが、時が経つとサウンドの好みも変わってくるしその日の気分で強烈な濁りが欲しい時もある。ヴォーカルの伴奏の時はトナリティーをやはり考えざるを得ない。正解というのはない。結局、ジャズをやるには柔らかい頭が要るということだ。ヴォイシングの音を即興的に選ぶというのは、感覚はもちろんだけど、かなり高いレベルの技術も要求される。ジャズプレイの技術というのは、やはり独特なのだ。