ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

The Meaning Of The Blues

2015-05-27 01:28:55 | Weblog

1957年、Bobby Troupの作品、歌詞はLeah Worthが書いている。この曲に最初に接したのは、マイルスの「Miles Ahead」だ。このアルバムの制作年には注意を払っていなかったが、チェックしてみるとリリースされたのは1957年、つまり最新の楽曲をレコーディングしているのだ。Julie Londonも同じ年に歌ってアルバムをリリースしている。当時のジャズ界というか音楽業界の新陳代謝の良さみたいなのが垣間見える。ジャズアルバムがまだドル箱の時代だ。この曲はブルースではない。形式はA-A'で32小節、マイナーキーでメロディーは長い音符が続く。マイナーのトニックコードのところは5度やルートを半音で移行させてクリシェを伴うのがお決まりのハーモナイズだ。これで十分。アレンジはどうやってもいいようなものだが、あまり早いテンポはこの曲には合わない。ジャズスタンダードにはスローバラードでやったり超アップテンポでやったりそのどちらにも適応する曲もある。どちらでやるか?これは好みの問題だ。でもある程度はこのぐらいかな?というテンポの縛りがある曲もある。ジャズの初心者だった頃、同じ曲が演奏者によってテンポが極端に違うのに驚いた。そしてなにより同じミュージシャンがやる日によって同じ曲を全く違うテンポで演奏することにも驚いた。訳が分からなかった。でもその理由の全ては自分自身が何度も演奏することによって理解できた。一言で言うと「気分」なのだ。なんの台本もない、この無責任さがジャズの「ヒップさ」の一端でもある。



スタンダーズ VOL.1
キース・ジャレット,ゲイリー・ピーコック,ジャック・ディジョネット
ユニバーサル ミュージック


Estate Ⅳ

2015-05-17 02:46:55 | Weblog
この曲は全体を通じて特別なトナリティーの変化はない。いわゆる劇的な「転調」はない。ブリッジのところでメジャーにはなるが・・・。平行調の入れ替えやピボットコードを使ったいわゆる「近く」の調への移行があるだけだ。人間の聴覚は思ってる以上にアバウトだ。当然といえば当然で、危険察知のために備わった聴覚という能力を音楽のためにいくらトレーニングしても限界はある。ただ、やはり音楽家は小さい頃から長年12個の音になじんでいるからそのそれぞれについての聞き分けや認識の能力が高いわけだ。音程に関して言えば、倍音のない音源だとそれぞれの音の「距離」いわゆる音程は感じかたがかなりあやふやになる。そこには12音平均率に存在する音程の近親関係はない。3個以上の音を使う和音ではもっと聴覚のあいまいさが表面化する。それが代理コードを生みピボットコードに繋がり「転調」という音楽の劇場に到達する。段階上に区切られた一見確固としたものに思える12個の音、そしてそれを聞く人間の曖昧な聴覚。この両方があって音楽は成立している。これが音楽の最大の「パラドックス」だ。音楽の感じ方ほど個人差のあるものはない。この話題で議論するのはつらい。他人の感覚が分からないからだ。音楽について話すことはよくある。ひとの意見も聞こうとはする。でも本当のところは分からない。

Estate Ⅲ

2015-05-05 00:26:57 | Weblog
楽曲を複雑、単純という物差しで評価するのは、音楽の本質とはかけ離れているからあまりよくない。でも音楽的内容をシンプルに表現するのは音楽家の使命でもあるし、それが表現者としての資質にかかわる問題でもある。やはり芸術表現はシンプルが一番だ。主要なモティーフの音程関係やリズムパターンを耳が記憶することによって人間は音楽を認識する。それは垂直関係、水平関係両方に言えることだ。楽曲にとってその重要な要素(旋律的、和声的な)をいかにシンプルな形で展開していけるかによって楽曲の伝わり方が変わってくる。この「Estate」はその点素晴らしい。単純なモティーフの変奏が機能和声のうえに流れるように組み立てられている。これは記憶しやすい。楽曲に形式を持たせようとすればこれは重要な要素になる。そしてその要素をもとに展開するインプロヴィゼーションにとっても必要不可欠な情報となる。即興演奏をしているとき、ミュージシャンはいろんな「種類」の記憶力を使っている。それがなければ、インプロヴィゼーションを「音楽」にすることはできない。インプロヴィゼーションはある意味、常に「新曲」だ。でも何らかの記憶を使わないとひねりだせない新曲でもある。音楽は時間の芸術だ。だからこそ人間の持つ記憶力を使って音楽を作り、評価をしているのだ。「感覚」と言われているものと紙一重のところもあるが・・・。

AMOROSO (イマージュの部屋)
ダブリューイーエー・ジャパン
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