ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

線と色彩 Ⅱ

2006-12-26 06:04:24 | Weblog
絶対音感と共感覚についてちょっと・・・。絶対音感という言葉はもうわりと世の中に認知されている。要するに聞こえてくる音が今世界中で基準となっている12音の中の何なのかが分かる、周波数が相対的にではなく絶対的なものとして認識できる能力ということだ。何歳以下でしか得られないとか、どういう訓練が必要だとかいろいろデタラメな風評があるけど、まあ小さいときに音楽教育をうけないとダメなことは確かでピアノを習ってた人に圧倒的に多いのはしょうがないことだ。10000人にひとりとか言われているけど、日本人に異常に多いという統計もある。もうめんどうくさいから結論から言おう。絶対音感と音楽の才能は全く関係がない。絶対音感のないひとからみたら本当に超能力みたいに思われるからだろうけど、音楽をやっていく上で必要なのは絶対音感より正確な相対音感だ。絶対音感というのは単なる周波数の記憶遺伝子の働きで、それが開発されてるかどうかということだ。もうひとつ共感覚というのは医学用語で音だけじゃなく匂いや触感を色彩と関連づけて感じる感覚のことだ。これも2000人に一人とか言われているけど、定かじゃない。でもいままで接した、特に音楽大学にいるピアノの学生はこの絶対音感と共感覚を両方持ち合わせている人が結構いる。音を聴くとなんの音かがわかり同時に「色」を感じるんだ。ボクも両方持っている。自分の脳が特殊なのかと、MRI検査までやったことがある。本を読んだり医学関係者と話したりしたけど、結局脳に関することは未解明なことが多いんだ。「絶対音感」という本がベストセラーになったりしてたけど、まったくの取材不足、研究不足でガックリきた。あんなもんでいいのかねえ。この分野の研究が進まない理由はただひとつ、世の中に必要とされていないからだ。要するにどうでもいいことなんだ。エイズウィルスの研究とは人類にとって重みが違う。絶対音感があるのに音楽で喰うのを諦めたひとがたくさんいる。この人たちが扱いにくい。自分が才能があると勘違いしてるからだ。才能があると思うんだったらプロでやってみろ。音楽を創り、発信するのがプロだ。音が分かったところでなんだ。音大の聴音テストが楽なだけだ。これは自分への檄のつもりです。

線と色彩

2006-12-24 02:39:56 | Weblog
これはレコード評ではありません。音楽の基本的な考え方についてです。ちょっとでも音楽を勉強したことのある人ならピンとくると思うけど、線というのはメロディーライン、色彩というのはハーモニーのことだ。一応はそう考えてもいいと思う。この言い方は音楽を絵画に例えて分かり易く説明しようとする時によく使われる。バッハの2声のインヴェンションは線的で、ドヴュッシーのピアノ曲は和声を重視した音楽で色彩の音楽だ。こう説明されると分かり易く感じるけど、ずっと長いこと違和感があった。だって線と色彩の境目がわからない。2声と3声がその境目なのかなあと初期の頃は思っていた。でもジャズプレイを何十年か重ねるうち、音楽の種類の境目はひとつの音か2つ以上の音かだと確信を持つようになった。ヒンデミット博士もそういっている。そして最近マーラーの言葉でより確信を深めた。「音楽は対位法が全てであり音楽にハーモニーは存在しない。」そうなんだ。ハーモニーという言葉は何かの根拠を示す言葉としては抽象的すぎる。まして音楽を絵画に例えて説明するのはいわばごまかしだ。ボクはハーモニーというものを2つの音の音程だと思っている。それがいくつか組み合わさっているだけだ。つきつめていえば対位法は和声法でもあるわけだ。別のもの、特にこの場合は絵画という芸術に例えることで、一応の納得は得られるかもしれないけど、音楽を創っていくときに具体的に考えだすとその説明のあいまいさに気が付く。なんでも例えればいいもんじゃない。もうすこし書きたいのでまた次回このテーマで・・・。

We Three Ⅲ

2006-12-23 03:10:13 | Weblog
このアルバムについてのホントにどうでもいいようなことだけど、コアな情報がある。これはボクが発見した。まあでもこのアルバムに詳しいひとなら分かることだけど・・。ある時ライブハウスの仕事の休憩時間にこのアルバムがかかった。うれしくなって聴いていたら2曲目の「Sugar Ray」のサウンドにちょっと違和感を感じた。フィニアスのソロになったらいままで何十年も聴いてきたテイクと違う。ああこれはボーナストラックの入ったCDなんだ、と思って聴いていたら次は3曲目の「Solitaire」になってしまった。店の人にこのアルバムのジャケットを見せてもらったら、「Sugar Ray」はこのテイクしか入っていない。曲数はLPと同じ。これはどういうことだろう?そのときは周りに話の通じそうな人がいなかったのでだまっていた。それは3年前のことだ。今年になって別の店で同じことが起こった。その時はとなりにベースの桜井くんがいたので、話したら「そういえばそうですね」となった。うちにあるCDは輸入盤で内容はLPと同じだ。ふたりでこうなった原因を探ってみた。結論は、日本のレコード会社のディレクターか編集の時に関わったエンジニアがミスったんだろうということになった。オリジナルテープにはボツにした、要するにミュージシャンが出さないでくれといったテイクもはいっている。最近はそれをセールスのために平気で公にするのが日常化している。ミュージシャンが死んだのをいいことに・・・。なんか情けない。このアルバムは版権はどこがもっているんだろう?それにしても仕事が雑だ。ボツにしたテイクを間違えて入れてしまったんだ。よく聴いてみるとボツにするのは当然の感じのテイクだ。リズムがばらけている。それをチェックできる人がレコード会社の中にはいない。せっかくの名盤なのに・・・。この間違いCDを持っている人はかわいそうだ。

We Three Ⅱ

2006-12-19 03:17:55 | Weblog
フィニアスがどうやって音楽を学び、ピアノを習得したのか、全然知らない。確か最初のジャズタレントのアイドルはバドパウエルだと書いてあった。まあでもこのレベルの人にはあまり関係ない。彼はなんの病気だったのかそれすらはっきりした情報はない。何度も活動を中断し、復活しまた中断する。それの繰り返しだった。飛びぬけた才能を周りが放っておくわけがなく、いろんなミュージシャンが彼を表舞台にひっぱりだそうとした。でもすぐだめになる。理由はわからない。ボクがライブを聴いたとき、何歳だったんだろう?とにかくマイクを持ってちょっとしゃべるんだけど歯が抜けてて、もぞもぞとなにを言ってるのか全くわからなかった。でも見方を変えてみると、ジャズという音楽そしてジャズビジネスが存在したからフィニアスニューボーンというピアニストが世に知れ渡ったわけで、ジャズが彼を救ったのかもしれない。ジャズミュージシャンという職業がこの世にあってよかったよ。どんなに勉強してもどんなに練習してもあんな風にピアノが弾けるようになるのは、地球上で数人だろう。マジで・・。彼は黒人としては手は小さい方だ。それにかなりビックリした。まあ今では限られたミュージシャンやファンの間でのコアな存在になってしまった。このアルバムを何百回も聴いてるというミュージシャンは結構いる。よくこんないい録音を残しておいてくれた。ロイヘインズに感謝だ。

We Three

2006-12-17 23:57:20 | Weblog
このアルバムはロイヘインズのリーダーアルバムだ。ロイは素晴らしい。とにかくシャープにスウィングする。ドラムソロも最高だ。全編スティックを使っている。バラードでも・・・。まあなにかの意図があるんだろう。こんなに素晴らしいドラムのロイヘインズのアルバムではあるんだけど(本当にロイには申し訳ないことだけど)このアルバムはピアノのフィニアスニューボーンがその天才ぶりを発揮した名盤として有名なんだ。フィニアスは脅威の新人としてデヴューしてたし、これまでにも何枚かリーダーアルバムを吹き込んでいる。でもこのアルバムはロイヘインズとポールチェンバースという最高のリズムセクションとやれるというのとサイドメンであるという気楽さがリラックスにつながっているのかもしれない。とにかくピアニストの教科書だ。'77年にフィニアスが来日したとき聴きに行ったけど、まあ普通のミュージシャンのわくからはずれた人だなあという印象だった。レコードから受ける印象よりはるかに個性的で、数少ないジャズジャイアントのひとりだなと思った。フィニアスの吹き込んだレコードは少ない。今ではショップにはほとんど置いてない。しかたないこととはいえ寂しい。プロのピアニストにはフィニアスのファンが本当に多いんだ。このアルバムはチョー貴重なアルバムといっていいと思う。