ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

You And The Night And The Music

2010-11-28 03:07:29 | Weblog
アーサーシュワルツの曲、ハワードディーツと組んで'20年代からたくさんの作品を発表した中の1曲だ。一番のポピュラーな曲といってもいいだろう。演奏も歌も無数のミュージシャンが取り組んでいる。録音も数知れない。この曲はキーはといわれるとマイナーキー、短調だ。でもAーAーBーA'のブリッジに行く前はメジャーになる。まあこれがいいのかな?実際にアドリブの素材として演奏してみるとかなりの慣れが必要だ。メジャーになるところは別として、最後トニックに行ってからまた頭に戻る時につっかかってしまう。まあでも楽曲としては素晴らしい。なにもかもスムーズに流れないほうが面白い時もある。最初のトニックマイナーのところはメロディーラインが半音階的で短6度が出てくる。でもここはピアニストはヴォイシングに6THの音を加えるだろう。多分ほとんどの人は・・。まあちょっとぶつかる感じはするけど、大丈夫!。マイナーキーの長短6度の問題は常にある。これは矛盾ではなくて音楽の縦横の問題だ。つまり縦のコードの積み重ねから言うと長6度の音は耳が充分受け入れるし、横のメロディーラインからいえば短6度は短調らしさを出す大事なエオリア風の6度だ。このケースに限らず縦横の関係で音選びに迷いが出ることはしょっちゅうある。これと決めても即興演奏だと実際には違う場面が訪れて計画通りに行かないこともある。だからいろんな場面を想定しておく必要がある。めんどうなようだけどこれもジャズの演奏に必要な知識と技術だ。そしてまた楽しみでもある。

Big Nick Ⅳ

2010-11-20 02:20:33 | Weblog
ここ数十年の間にジャズアルバムは世界中で星の数ほど制作されてきた。内容は本当にピンキリだ。同じ曲のアドリブは何度もできない。ファーストテイクが一番だとよく言われる。音楽に対する新鮮さ緊張感とかの問題だろう。でもそのバックボーンとなるしっかりした音楽の方向性がなければいくら名手が腕をふるおうとしてもいい演奏はできない。無理だ。そこで制作する側のセンスが問われる。完全なパーマネントバンドがしっかりレパートリーを決めて録音にのぞみ、それをワンテイクでものにする。これが理想だろう。でもそんな状況をつくるにはバンドを作って音楽を練るという長い時間が必要で、それでは業界のスピードに合わないのだ。で、粗製乱造というといいすぎかもしれないけどそれに近い状態が長い間続き、数知れないその場限りのアルバムが制作された。それが原因かどうかは分からないけど、新しいジャズアルバムは売れなくなり、ジャズミュージシャンのレコーディングのチャンスは激減してしまった。べつにレコーディングすることが音楽家の目的ではないけど録音はたとえそれが失敗に終わってもミュージシャンにとっては貴重な体験として残るものだ。後々までプロが認める名盤というのはやはり数はすくない。ジャズレコーディングの現場の状況をいろいろ考えたら仕方のないことだ。でも実はジャズの演奏の本当の名演は録音されていない日々のジャズクラブでのライブで起きるものなんだ。トレーンの演奏も当時毎晩のように行なわれていたクラブでの演奏に真骨頂があった。他の全てのミュージシャンがそうだ。アルバムというのはそういうことを頭の片隅において聞くとジャズジャイアントのすごさが一層よく分かる。

Big Nick Ⅲ

2010-11-11 01:55:32 | Weblog
何を頼りにジャズインプロヴィゼーションをやるのかというのは、すごく難しい問題だ。どこまで自由でどれだけ束縛されるか?フェイクミュージックとしてスタートしたジャズが聞きなれたポップス曲のコード進行やメロディーを基にアドリブしているうちはなんの迷いもなかった。でもインプロヴィゼーションが進化し、即興演奏で聴衆を圧倒するようなジャズジャイアントが出現してからは、より自由な素材を選ぶ傾向が強くなった。そしてインプロヴィゼーションのための楽曲を自ら作曲し、そして演奏するようになった。この「Big Nick」はまさにそれだ。ひとつのキーのトニックとドミナントの繰り返し、ほとんど何の縛りもない。そしてアドリブの腕が試される。アドリブがなしに成り立つ曲ではない。ジャズの演奏は二度と同じことはできない。それを録音し商品として売る。そこには即興でしか存在しない緊迫感そして人間特有のミスがある。それがジャズアルバムの魅力だ。ジャズアルバムの中のミスをほじくりだすほどばかげたことはない。この曲が収録されている、「Duke and Trane」をコピーしていた頃、なぜだか分からない音がいっぱいあった。なんかおかしい?でもアルバム全体を包み込むムードみたいなものにひきつけられてなぜか聞いてしまう。今思えばそれは「愛すべきミス」だったんだ。