ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

Come Sunday Ⅳ

2014-12-21 02:14:35 | Weblog
フェイクという言葉がある。比較的新しい英語の音楽用語として捉えていいと思う。ジャズの世界ではよく耳にする。この考え方自体は古くからある。変奏曲の考え方そのものだ。変奏曲の作り方にマニュアルはいっさいない。人に教えたり教わったりはできない。その人の持っている音楽教養が全てだ。フェイクというぐらいだから何かを作り変える。和声であったりメロディーの音程要するに音そのものであったりする。そしてもうひとつ大きな要素がリズムだ。リズムフェイクという要素はジャズインプロヴィゼーションの非常に大きな部分を占める。半拍や一拍前に後ろにずらすだけで音楽のニュアンスは大きく変化する。過去の大家の変奏曲の作品などにはその要素がふんだんに盛り込まれている。もちろん変奏曲以外の曲にもたくさんある。音楽は時間の芸術だから当然といえば当然のことだ。ジャズインプロヴィゼーションはとにかくスウィングさせることを目的にしているから、リズムフェイクはシンコペーションを多用することになる。そしてスタッカート。アドリブはとにかく即興だからどこでどうしてとか計画をたてている暇はないけど、熟練してくるとリズムフェイクのセンスも向上してくる。そして忘れてはならない、休符。どこでうまく休むかのコツも掴めてくる。音楽技法というのは多種多様で、裏をかくいわばジョークみたいなものも大切な要素だ。ここぞというちょっとしたクライマックスに休符を使う、これは実は大家の作品にはまれにあることで、非常に効果的なこともある。このセンスはジャズインプロヴィゼーションにも応用できる。アドリブをここまで余裕を持ってやれるというのは大変なことではあるが、エリントンのピアノにはそういう音楽を知り尽くした「洒落」がふんだんに盛り込まれている。音楽を作る要素に休符は欠かせないのだ。

Come Sunday Ⅲ

2014-12-14 02:36:46 | Weblog
デュークエリントンのことはどう呼んでいいのかわからないところがある。ピアニスト、作曲家、バンドリーダー、すべてにおいて一流だ。こういういわゆるマエストロは本当に数少ないけど存在する。ジャズプレーヤーの演奏スタイルというのは、作曲家の音楽の特徴と同じ範疇にはいる。でもそれを確立するためには、楽器の練習や演奏経験など大変な重労働が必要になってくる。デュークはオーケストラのバンドリーダーという本当の重労働をこなしながらピアニストとしても個性的なスタイルを持つまでになった。ちょっと信じられないことではあるが・・・。デュークのピアノスタイルのファンは多い。それもレジェンドと言われるピアニストでなおかつデュークエリントンのピアノのファンだという人がたくさんいる。そしてその音楽アプローチに影響を受け自分の音楽にも影響が及んでいる。要するにデュークエリントンという人物はジャズのど真ん中にいる人だということだ。この「Come Sunday」を評価するのにいろんな言い方があるとは思うが、これはデュークの音楽を感じ取れるひとかけらのヒントであることは確かだ。数多くの才能のあるジャズズミュージシャンがこの曲を高く評価している。いろんな音楽要素が合体している、いわばいろんな文化の融合だ。これこそがジャズの特権でもある。

Come Sunday Ⅱ

2014-12-07 02:13:30 | Weblog
インプロヴィゼーションをやるための最重要な情報はコード進行だ。ソロを割り当てられるとまずコードを見る。そしてそのつながりを理解しようとする。ジャズプレーヤーの性だ。コードというのは2つ以上の音の重なりでその構成音が問題であるわけだけれども、進行となると話は変わって来る。それぞれのコードの繋がり、楽曲の中での役割・・・いろいろある。つまり横の繋がりに注目しなければならないのだ。そしてそのコード進行をもとにアドリブをやるということは、コード進行のアナライズや変奏曲の作曲を強制的に即興でやらされているようなものだ。かなりハードなトレーニングだ。でも同じコード進行を何度もやっていると、その中にある繋がりの必然性や芸術的価値を感じられるようになってくる。コード進行というのはただ単に滑らかさを求められているものではない。過度な滑らかさは退屈のもとだ。より新鮮な進行を求めようとすると、各声部の飛躍や転調、大胆な半音階法など、いわゆる高度な作曲技法が必要になってくる。そういうものは確かに難解で最初はとっつきにくいけど、分かりだすとその新鮮な美しさにワクワクするようになる。インプロヴィゼーションを繰り返しやることでその喜びは倍増する。デュークサウンドはまさにそれだ。自分でやってみてそれからデュークやエリントンオーケストラの演奏を聴くと、よりその素晴らしさが実感できる。