ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

Centerpiece Ⅱ

2013-07-27 06:03:05 | Weblog
この曲のメロディーは極めてシンプルだ。1、3、5・・・奇数小節のメロディーは全部一緒、そのあとに2種類のメロディーがあって、4小節で完結する。それが3回。こういうパターンのブルースの曲は無数にある。何気なく聞こえるけど、これがインプロヴィゼーションのインスピレーションを呼び起こす。ブルースという音楽の不思議だ。アドリブもどんな要素でも使える。要素というのは、主にスケールのことだけど、ペンタトニック、ヘクサトニック、ブルーノートを含んだ7音音階、もちろん12音全部自由に使える。そして使う側の演奏者の考えさえしっかりしていれば、全てが正当化される。そして一方で絶対的な小節数、中心になる音、いわゆる「キー」が存在する。その決まりがあって即興で合奏ができる。ジャズの演奏ではごく普通のことだけど、こうやって考えてみると、ブルースという素材をジャズに取り入れたいわば大発見のすごさが分かってくる。ハーモニーの面でも、12音の中で苦労して組み立ててきた和声のルールの上にブルーノートという要素が加わって選択肢の数が上乗せされている。実際に演奏している時の感覚はブルースといったら「なんでもあり」という感じだ。そして人間をリラックスさせてくれる。ブルースの構造や精神がそうさせているのだと思う。ブルースを演るときはブルースのその包容力に甘えればいいのだ。

Centerpiece

2013-07-24 02:36:34 | Weblog
Harry Edisonが書いたブルースだ。Jon Hendricksのつけた歌詞もある。名演奏もたくさん残されている。このブルースはオリジナルというか、演奏はほとんどA♭でやる。ブルースはいろんなキーでやるからそれぞれ根気強く練習してマスターするしかないけど、今回は技術論ではなくてキーについてちょっと・・・。12音平均律というのは文字通り12音を平等に扱うことを旨としているわけでそれが音楽の表現の幅を広げてきた。幼少のときに音楽教育を受けた人の一部が獲得する「絶対音感」は単なる周波数の記憶システムで、逆に「音」を感じる聴覚システムが人類にとっての危険察知のためのものであることをむしろ証明している。絶対音感は確かに音楽をやっていく上で有利なものである時もあるが、音楽の才能とは全く関係がない。むしろ12音平均律を考えた場合不便になることもある。その他、キーに関してネックになっているのが楽器それぞれの特性だ。とくに弦楽器には解放弦が、そしてピアノには黒鍵がある。だから楽曲はいろんな事情でキーを決められているのだ。では純粋に音楽的に考えたらキーはなんでもいいかといったらそうではなくて、絶対的な要素として人間の聴覚能力の範囲があるということだ。個人差や年齢で違いはあるけど聞こえる周波数の下限上限が決まっているのだ。そして音を音楽として聞ける範囲、和音を和音として聞ける範囲も決まっている。その中に音楽を詰め込もうとするからキーの選択肢が狭められてくる。コードを弾く時、音域を無視しては絶対に弾けない。その限界の中でその音楽に合った良いものを探さなければいけない。だから逆にヴォイシングの種類に限界はないのだ。

Hottest New Group in Jazz
Sony
Sony

Memories Of You Ⅳ

2013-07-15 01:58:28 | Weblog
ジャズの演奏は実際にはいろんな状況でやらなければならない。場所もそうだけど、バンド編成だ。ピアニストの役割はバンドの人数というか楽器の編成で大きく変わってくる。どうすればいいか?誰も教えてくれない。たまにピアノはここはこうしてくれ、という時もあるけど、ほとんどはピアニストの裁量にまかされている。だから個人差がかなりある。それを客観的に全体を聞いていいか悪いかでそのピアニストの評価が決まってしまう。リズムやテンポによってどこに弾いたらいいかもわからないし、どんな音を選んで組み合わせて弾いたらいいのかもわからない。まさに右往左往だ。ジャズのバンドを始めると最初はずっとそんな感じだ。でもこの右往左往こそが正解なのだ。ジャズミュージシャンは演奏の場で即興で作曲しアレンジしているのだから。自分のやるべきことがそんなに簡単に分かるわけがない。むしろ迷って困って冷や汗をかきながら演奏するという過程がないと自分のやり方は見つからない。この自分のやり方を見つけるということが実は最重要なことで、最高の楽しみでもあるのだ。ジャズのヴォイシングはいわばマニアックな世界でなかなか理解してくれる人はいないかもしれないけど、自分の感性にあった響き、音楽を自由に探って発見できる素晴らしい世界なのだ。おまけに失敗も許される。これがなかなかいい。めげる必要は全くない。自分の響きは何時か見つかる。

Memories Of You Ⅲ

2013-07-08 02:36:29 | Weblog
ジャズの世界で言うリハーモナイズという考えかたは、ジャズミュージシャンだけのものというような特別なものではない。和声進行という要素ができてからは音楽家のイメージの中に常にあったものだ。呼び方がいろいろあるだけだ。でも傾向としてのジャズサウンドを得ようとすると、一定の方向性が必要になってくる。ルートをトナリティーからはずすこととメロディーとルートの音程関係を精査することだ。精査というとちょっとあいまいな言い方かもしれないが、これには独特のバランス感覚が要る。この音程を中心にということができないのだ。あまりにも難しい問題なので機会があるごとに意見を述べたいと思う。でももうひとつの条件、ルートをトナリティーからはずすというのは結構すぐ理解できる。そしてジャズを日常的に演奏しているミュージシャンにとってはごくごく普通のことで、特別にリハーモナイズといわれても「ああ、そうですか」というぐらいのことだ。4度進行と半音下降を自由に入れ替えることぐらいは、ジャズの演奏の初歩だ。でもそれがそとから聞くと7音音階と半音階システムが絡みあったジャズサウンドに聞こえる。ジャズが即興的でなおかつ構造的な音楽だと言われるゆえんだ。これは理解しやすくてすごく効果的な音楽技法なのだ。今、一般化されているジャズメソードには必ず最初にこの方法論が書かれてある。これはちゃんと理解すれば全く正しくて効果的な技法なのだ。

Memories Of You Ⅱ

2013-07-02 03:33:04 | Weblog
この曲のメロディーは完全にトナリティーに沿った7音だけでできている。5度の幅で飛んで高くなるところはあるけど、歌うことにはなんの障害もない曲だ。コードもⅡ7、Ⅶ7、サブドミマイナーなどは含まれているけど、ブリッジで平行調に行くだけでトナリティーからはずれた転調はない。でもジャズスタンダードとしてプレーヤーをインスパイアーする力を持っている。もちろんオリジナルコードでも十分だけど、この曲をアナライズしたらジャズミュージシャンだったらリハーモナイズしたくなるだろう。そしてその場所はいっぱいある。で、またいろんなコードを受け入れられる曲なのだ。ジャズの世界では日常化していることだけど、増4度の入れ替え、いわゆる一番代表的な代理コードだけでもこの曲はニュアンスがずいぶん変わる。別に決めなくても即興的にできる。ジャズは形のない音楽だ。だから完成形もない。増4度の出し入れやテンションは演奏しているその時に決められる。失敗も気にしなくていい。ジャズをつまらなくするのはなによりも型にはめようとする気持ちなんだ。