ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

The Joy Of Flying

2007-10-09 03:51:55 | Weblog
'78年の暮れにリリースされたトニーウィリアムスのアルバムだ。発売当初はあちこちでよくかかっていた。豪華なジャケットでミュージシャンもオールスターだ。いかにも金がかかっている。でもこの作品は完全にスベッた。あまりにも評判が悪かった。だめだといっている人の言い分は分かる。内容がばらばらだし中途半端でジャズ好きの人にもフュージョンファンにも敬遠されてしまった。おまけにアルバムの最後の曲はセシルテイラーとのデュオだ。トニーのことを知らないひとにとってはなんのことやらさっぱり分からないだろう。でも、でもボクは好きなんだ。アルバム全体の出来や、まして売れ行きなんてどうでもいい。ボクはトニーウィリアムスが好きなんだ。一曲目のイントロでトニーのドラムが聞こえてきただけで、それだけでいい。このアルバムはある意味天才トニーウィリアムスの歴史だ。トニーは間違いなく歴史に残るスーパードラマーだ。でも並んで出てくるほかのドラマーの名前、アートブレイキー、エルヴィンジョーンズ、フィリージョージョーンズ、みんなトニーとはだいぶ年代が違う。トニーは彼らの子供のような世代だ。トニーは18歳でマイルスバンドに入りあっと言う間にスターになった。その後ライフタイムを作り解散し、サイドメンとして最高級の扱いを受けながら、この頃生活していた。このアルバムも最高の人脈を駆使して、作っている。曲もアレンジもいい。ヤンハマーやハービーもいい。でもアルバムを作るというのはまた別の要素が要るということだ。それだけのことだと思う。アマゾンで検索してみてもこのアルバムは在庫切れだ。もう世界にほとんど存在しないのかもしれない。このアルバムで失敗したことで業界内でリーダーとしてのトニーウィリアムスは長い間冷遇された。非情な世界だ。マイルスはこの頃、トニーには今音楽的ディレクションがないと言っていた。たしかにそうかもしれない。音楽には確かな方向性が要る。でもそれは天才トニーはよく分かっていることだ。ごった煮のようなこのアルバムの音楽の中からそれを感じ取るのは至難の業かもしれない。でもボクは許してあげたい。トニーだけじゃない。どんなミュージシャンも長い間にはいろんなものに興味を持つしいろんな音楽をやらざるをえない。ちょっと長くなったからまたにします。


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