気ままに

大船での気ままな生活日誌

モリのいる場所

2018-10-17 09:37:19 | Weblog

おはようございます。

映画をみたあと、しばらく自分が主人公になったような気分になることが多いが、昨日の映画もそうだった。港南台シネマから我が家まで、画壇の仙人といわれた晩年の熊谷守一のようになって、うつろな視線でふらりふらりと歩いて帰った(汗)。そういえば、こんな最晩年をおくりたい、できれば風貌も白髪、白髭で仙人のように、と若いときに思ったものだ。映画の主人公は90代で二十年も先ではあるが、ぼくの髪はまだ黒々しているし、いろいろと色気も多いので、志半ばで倒れてしまう公算が大きそうだ(笑)。

”モリのいる場所”という映画。熊谷守一の晩年をユーモラスに描いた沖田修一監督、脚本の作品。守一(モリ)は山崎努が、76歳の妻・秀子を、先月、なくなった樹木希林が演じる。

今年の3月、熊谷守一/生きる喜び展を竹橋の東近美で見ているので、彼がどういう風貌で、どのような晩年を送っていたかはおおよそ知っている。ほぼ想像したような生活ぶりが映像化されていた。池袋近くの一軒家に住むモリ夫妻。モリは、毎日、雑草苑のような自宅の庭に出て、一日中、昆虫や植物や石ころを観察して過ごす。蟻は二番目の脚から歩き始める、よくみてごらんとモリを追いかける写真家に教える。きょとんとする写真家(笑)。庭では写生はしないで、絵は夕食後、アトリエで描く。30年間、こういう生活をつづけて来て、何と一歩も外に出なかったという。

小さな生き物や石ころを友達に楽しくすごしてきたのだが、近くにマンションが立つ計画が持ち上がる。そうなると日当たりがわるくなり、生き物の棲家もなくなってしまう。若い画家たちがモリの世界を守ろうと、反対運動をしてくれる。

有名な文化勲章を断るくだりもある。大勢で食事をしているとき、奥さんが電話を受ける。あなた、ブンカチョウというところからブンカクンショウとか言うものくれるらしいよとモリに伝える。みんなびっくり、歓声をあげるが、モリは、そんなものいりません、もらうと人がいっぱいくるから、と答える。奥さんも引き留めずに、いらないそうですよ、とすげなく返事をして、ガチャン。画面が変わり、あ然とした電話口の役人の顔。くすくす。こういう、とぼけたやりとりは樹木希林の真骨頂。

近所の子供さんの絵の評価を問われ、ヘタです、と。でもヘタでいい、無限の可能性があるということと、なぐさめる。守一には数々の名言があるが、そんな言葉が映画の中に散りばめられている。

山崎努はもとから熊谷守一を尊敬していたそうで、喜んでこの役を引き受けた。そのせいか、まるで、守一が天国から舞い降りてきたかのような容貌だし、演技も素晴らしかった。それに、世間一般に無頓着な夫を支えてきた奥さん役の樹木希林の自然な演技にも感心する。実際の奥さんもきっとこんな風だったのだろうと思わせるような。

最晩年の樹木希林の出演映画は3本あるが、”万引き家族”はすでに見ているし、そして、今回の”モリのいる場所”。残すは、”日日是好日”だけとなった。見逃さないようにしなければ。

そうそう、白洲正子が熊谷守一夫妻の印象をこう述べている。それを終わりに載せておこう。

この御夫婦とつき合っていると、
気もはればれと天外に遊ぶ心地がする。
底抜けに明るい絵が、平板に見えないのは、
そこに長い人生を生きぬいた人の、
深い喜びと悲しみの裏打ちがあるからに他ならない。
(別冊太陽 気ままに絵のみち 熊谷守一)

本物の熊谷守一

映画にも出てきた生き物たち。↓

 

鬼百合と揚羽蝶

それでは、みなさん、今日も一日、お元気で。

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