日本人がパリに行って、絶対はずせない美術館といえば、オルセー美術館。日本人の印象派好きは、やっぱり、印象派の画家たちが日本好きだから、相思相愛で相通じるところがあるからだと、先日、ボストン美術館展へ行って確信した。
そのオルセー美術館から、名品がどっさり、やって来るというので楽しみにしていた。はじまって、間もない頃、それもみんな休館日かと思い違いする月曜日をねらって行ったから、国立新美術館も空いていて、ゆっくりと観ることができた。まず、展示室の壁の色に感心。部屋ごとに壁色が違う。それが、そこの展示作品とよく合っている。オルセー美術館もそうだから、まるでパリで見ているような錯覚。
次のような章立てになっている。
第1章「マネ、新しい絵画」
第2章「レアリスムの諸相」
第3章「歴史画」
第4章「裸体」
第5章「印象派の風景」
第6章「静物」
第7章「肖像」
第8章「近代生活」
第9章「円熟期のマネ」
一応、この順番に駆け足で、ちらしに採用された代表的な絵を中心に(図録は買っていないので)、紹介と簡単な感想を述べてみたい。
ここの展覧会の副題が”印象派の誕生”だから、はじめにマネを出さないわけにはいかない。旧来のサロンに対抗して、物議を醸した、草上の朝食(1862−63)、オランビア(1863)を描いて、印象派の魁となった。一昨年、パリでこの二つは観ました、えへん。今回は両巨頭はお留守番で、もう少しあとの、”笛を吹く少年(1866)”が来日した。世界一有名な少年というコピーがついているほどだから、ちらしの表紙を飾った。前から横から何度も眺めた。どちらからみても、こちらに視線を向けてくる。1章では、このほかに、マネ夫人をモデルした絵を2枚、見ることができる。そして、バジール作の、マネ、モネ、ルノワールら印象派の面々がアトリエに集合している絵も展示されている。
マネ ”笛を吹く少年”
うすい緑色の壁の部屋に飾られる2章の名品たちは、クールベの”市から帰るフラジェの農民たち”(1850−55)やブルトンの”落穂ひろいの女たちの招集”。そして、何と言っても、ぼくらの世代では名画中の名画、ミレーの晩鐘。よくぞ、おいでてくだされた。東京で観る、晩鐘も格別。壁の色が濃い緑色に変わり、心に染み渡る。
そうそう、ギュスターヴ・カイユボットも、ここの章。”床に鉋(かんな)をかける人々”はパリで初めて見て、好きになった作品。よくぞ、おいでくださった。かんな削りをしみじみとみき。
19世紀の歴史画は、過去の物語だけではなく、同時代の出来事や文学作品のエピソードも画題とされるようになってくる。紫色の壁紙にエリー・ドローネの”ローマのペスト”(1869)やアンリ・ポール・モットのベリュスの婚約者(1885)、メッソニエ”フランス遠征、1814”(1864)などが。
つづいてのお楽しみは(汗)、4章の裸体。 壁紙は赤紫色になって、華やかな裸体画がを浮き出させる。何と言っても、理想化した女体を描く、カバネルの”ヴィーナスの誕生”(1863)が光る。うっとり。同室のクールベの”裸婦と犬”は趣きがだいぶ違うが、現実的でそれまたよし。ギュスターヴ・モローの作品も見られるとは思わなかった。うれしや”イアソン”。ルノワールやセザンヌの裸婦も。
カバネルの”ヴィーナスの誕生”
5章の印象派の風景といえば、やっぱりモネが一番。”かささぎ”。これもパリでぞっこんになった雪景色。かささぎが東京まで飛んできてくれた。雪の色が微妙に違うのに感心。モネは、さらに、アルジャントゥユの景色がふたつ。ピサロも首吊りの家など4点、シスレーも4点、セザンヌ、ルノワールとビッグネームばかり。楽しませてもらった。うすいブルーの壁紙。
モネ”かささぎ”
6章の静物となれば、代表はセザンヌ。スープ入れのある静物。アンリ・ファンタン・ラトゥールの花瓶の菊も素晴らしかった。黄土色の壁紙。
セザンヌ ”スープ入れのある静物”
7章の肖像画は、バゾールの”家族の集い”、ホイッスラーの67歳の母親像、モネの夫人像、セザンヌの自画像、そしてルノワールのダラス夫人。
8章の近代生活では、何といても、モネの草上の朝食。これまで、フランス国外に出ることがほとんどなかったモネの大作を、本展にて日本初公開いたします。木々の細やかなタッチや、女性たちがまとった流行の服に落ちる木漏れ日…モネは戸外でくつろぐ人々という近代的な主題のもと、光を捉える自由な筆致を試み、本作品をもって印象派の誕生へとつながる重要な第一歩を踏み出したのです、という解説。
モネ”草上の朝食”
ドガの、競馬とバレーの舞台稽古もここ。
モネ ”サン・ラザール駅”
終章はマネの円熟期の作品、6点で〆る。 ”ロシュフォールの逃亡”の逃亡する小舟を囲むた大海の波が印象的。
随分はしょった紹介になってしまった。どれもこれも良かったから、はしょるしかなかった。ミニオルセー美術館が六本木に出現した感じ。素晴らしい展覧会だった。ぼくの年間展覧会ベストテン、上位入賞、間違いなし!
札幌にて。避暑のつもりで来たのに、こちらも暑いです(汗)。