作品名 : 歴層
作者名 : 赤荻 賢司
季節を分けるという「節分」です。
この日が来ると私には生涯忘れることのできない思い出が蘇ってきます。
今から20年以上も昔のことですが、当時の勤務先の職場で大勢の部下を抱えた責任ある立場
にある時のことでした。
その部下の中に知識技能は当然のこと、職業人として常にピカイチの評価のあったK君という
社員がいたのですが、ある節分の日の帰宅途中の地下鉄内で彼が窃盗をはたらき警戒中の警
察官に現行犯逮捕されるという事件がありました。
翌日出勤してそのことを警察からの連絡で知ったのですが、誰かの質の悪い悪戯かと思ったく
らい彼の行為を全く信じることが出来ませんでした。
しかしながら事の真相は如何ともし難く、その道のプロに現行犯逮捕されたのでは釈明のしよ
うがありません。
結局、彼は起訴となり会社の規則に基づいて解雇処分を受けました。
裁判でも執行猶予は付いたものの有罪判決を言い渡されました。
解雇以来、彼との音信は途絶えてしまいましたが、一瞬の許されない行為に生涯の禍根を残し
た「節分の日」になると恐らく彼には特別な日として思いだしていると思うと同時に、私にとって
も色々な意味で大変苦い思い出が蘇ってくる日になっています。