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石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

米国は世界一の軍事大国・武器輸出国:世界と中東主要国の軍事費(7完)

2020-05-22 | その他

(注)本シリーズは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0503WorldRank7.pdf

 

(世界ランクシリーズ その7 2019年版)

(武器輸入額世界一はインド、日本は世界19位!)
(2) 主要国の武器輸入額(2010年~2019年合計額)
(表http://rank.maeda1.jp/7-T07.pdf参照)
(図http://rank.maeda1.jp/7-G07.pdf参照)
 2010年から2019年までの10か年間の武器輸入合計額は世界全体で2,800億ドル強であった。国別ではインドが最も多く同国の輸入額は330億ドル、世界全体の12%を占めている。輸入国第2位はサウジアラビアの254億ドルで世界シェアは9%である。

 第3位は中国の124億ドルであるが、前項でも述べた通り同国は輸出額では世界第5位であり、武器貿易が活発なことを示している。中国に次いでオーストラリア、UAE、エジプト及びパキスタンが輸入額100億ドルを超えている。8位から10位は韓国、アルジェリア、トルコでその輸入額は80~90億ドルである。因みに日本の過去10年間の武器輸入額は41億ドル、年間平均4億ドルであり、世界19位に相当する。日本の場合、軍事費(2019年、476億ドル、第1項参照)に比べ輸入額の割合が小さいのは武器の国産化が進んでいるためと考えられる。

以上

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

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米国は世界一の軍事大国・武器輸出国:世界と中東主要国の軍事費(6)

2020-05-21 | その他

(注)本シリーズは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0503WorldRank7.pdf

 

 

(世界ランクシリーズ その7 2019年版)

6.世界の武器輸出国と輸入国
 ここでは世界の武器の輸出入額を取り上げる。各国の輸出額あるいは輸入額は年度によって大きく変動するため、2010年から2019年までの10年間の合計額について比較検討を行う。

(世界の二大武器輸出国―米国とロシア!)
(1) 主要国の武器輸出額(2010年~2019年合計額)
(表http://rank.maeda1.jp/7-T06.pdf参照)
(図http://rank.maeda1.jp/7-G06.pdf参照)
 2010年から2019年までの10か年間の武器輸出額は世界全体で約2,800億ドル強であり、年間平均では280億ドルであった。国別では米国とロシアが際立って多く、米国の10年間の輸出総額は962億ドル、ロシアは668億ドルであった。世界全体に占める割合はそれぞれ34%及び24%であり、2か国を合わせると世界の武器輸出額の6割弱を占めている。

 米国、ロシアに次いで輸出額が多いのはフランスの182億ドルであるが、米国あるいはロシアの4乃至5分の1にとどまっている。これに続いて輸出額が100億ドルを超えているのはドイツ(158億ドル)、中国(157億ドル)、英国(119億ドル)である。なお次項(輸入額)に触れるとおり中国は輸入額では世界第3位であり武器貿易大国である。

 武器輸出額7位から10位はスペイン、イタリア、イスラエル及びオランダである。上位10か国のうちEU諸国が6カ国を占めており、EUは世界的な武器生産地域であることがわかる。なお上位10カ国は戦闘機、艦船、戦車、ミサイルなど高額な兵器を得意としているため輸出額が膨らんでいる。しかし多くの世界の紛争地域では小銃、機関銃、地雷、ロケットなど小型火器が使われている。中国、ウクライナ(輸出総額53億ドル、世界11位)、南アフリカ(同11億ドル、世界19位)などは、米国あるいはロシアに比べ金額的には少ないが影響力は小さくないと言えよう。

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

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石油と中東のニュース(5月21日)

2020-05-21 | 今日のニュース
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(コロナウィルス関連ニュース)
・ドバイ:ホテル業は健全。Bloomberg報道に反論
(石油関連ニュース)
・コロナ禍緩和の経済復興見込み原油価格アップ。WTI $32, Brent $35
(中東関連ニュース)
・カタール、トルコの外貨スワップ枠を3倍の150億ドルに拡大。トルコ、日本にも枠設定要請か
・イラク、IS指導者逮捕と発表。本人確認巡り情報錯そう
・22日にラマダン明け。23日(土)から休暇
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ExxonMobil、BP、Shell3社は損失計上:五大国際石油企業2020年1-3月期決算速報 (6完)

2020-05-20 | 今日のニュース

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0502OilMajor2020-1stQtr.pdf

 

2.2019年第1四半期以降の四半期別業績の推移(続き)
(6)原油・天然ガス生産量の推移
(6-1)原油生産量(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-68.pdf 参照)
 過去1年間の四半期ごとの原油生産量の推移を見るとExxonMobilが他社を引き離して5期連続でトップを守っている。ExxonMobilの生産量は5社の中でただ1社200万B/D台を維持しており、しかも生産量は増加傾向にあり、今年第一四半期の生産量は248万B/Dであった。ExxonMobilに次ぐ二番手グループはShellとChevronであり、両社の生産量は共に190万B/D前後である。両社も生産量は増加傾向にある。Totalは2019年第1四半期163万B/Dであったが、現在は170万B/Dに達している。BPは5社の中で原油生産量が最も少なく1年前は130B/DでトップExxonMobilの6割であったが、その後も生産量は伸び悩み、今期は131万B/Dにとどまり他社との差は拡大傾向にある。

(6-2)天然ガス生産量(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-69.pdf 参照)
 天然ガスの生産量はExxonMobilとShellの上位グループとBP、Total、Chevronの下位グループの2極に分かれている。Shellの過去1年間の生産量は110億立方フィート(’19 1st Qtr)→101億立方フィート(’19 2nd Qtr)→98億立方フィート(’19 3rd Qtr)→106億立方フィート(’19 4th Qtr)→103億立方フィート(’19 1st Qtr)であり、2019年第3四半期以外は100億立方フィートを超え5社のトップを維持している。ExxonMobilもShellとほぼ同様の軌跡をたどっており、両社の差は10億立方フィート前後で推移している。他の3社は5期を通じて殆ど生産量に変化は無く70億立方フィート台を維持している。

(6-3)原油・天然ガス合計生産量(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-65.pdf 参照)
 天然ガスを石油に換算した原油・天然ガスの合計生産量の推移を見ると、生産量が最も多いExxonMobilは石油換算で398万B/D(’19 1st Qtr)→391万B/D (’19 2nd Qtr)→390万B/D(’19 3rd Qtr)→402万B/D(’19 4th Qtr)→405万B/D(’20 1st Qtr)である。これに次ぐShellはExxonMobilよりも30万B/D前後少ない375万B/D (’19 1st Qtr)→358万B/D (’19 2nd Qtr)→356万B/D(’19 3rd Qtr)→376万B/D(’19 4th Qtr)→372万B/D(’20 1st Qtr)で推移している。

Chevron及びTotalの石油・天然ガス合計生産量は共に300万B/Dをわずかに上回る水準であり、最も少ないBPの生産レベルは260万B/D前後でExxonMobil或はShellの7割弱である。

以上

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

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石油と中東のニュース(5月19日)

2020-05-19 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

(コロナウィルス関連ニュース)

・UAE、外出禁止時間を2時間繰り上げ午後8時から翌朝6時までに変更

(中東関連ニュース)

・サウジ政府系ファンドPIF、ソフトバンク・ビジョン・ファンドに対するマージンローン借入報道を否定

・サウジAl-Barakaグループ創設者Sale Kamel死去

 

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米国は世界一の軍事大国・武器輸出国:世界と中東主要国の軍事費(5)

2020-05-19 | その他

(注)本シリーズは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0503WorldRank7.pdf

 

(世界ランクシリーズ その7 2019年版)

(2013年に日本を追い抜いたサウジアラビアの軍事費!)

5.中東主要国と日本の軍事費の推移(2010年~2019年)

(表http://rank.maeda1.jp/7-T01.pdf参照)

(図http://rank.maeda1.jp/7-G05.pdf参照)

 中東の主要5か国(サウジアラビア、イスラエル、トルコ、イラン及びエジプト)に日本を加えた6カ国の過去10年間(2010年~2019年)の軍事費の推移を比較すると、2010年の軍事費は日本が547億ドルで最も多く、これに次ぐのはサウジアラビアの452億ドルであった。トルコ(177億ドル)はこれら2カ国の3割程度でイスラエル及びイランが130億ドル台で並んでいる。エジプトはさらに少ない44億ドルにとどまっており、サウジアラビアの10分の1にすぎない。

 2011年から2015年にかけてはサウジアラビアの軍事費が急増、一方日本は減少したため、2013年にはサウジアラビア670億ドル、日本490億ドルと逆転した。そして2015年のサウジアラビアの軍事費は日本(421億ドル)の2倍以上の872億ドルに膨らんでいる。この間、イスラエル、トルコ、イラン、エジプト各国の軍事費はイスラエルが増加、イランが減少傾向を示した。但し各国とも大幅な増減は無く、サウジアラビアとの格差が拡大した。因みにサウジアラビアを100とした場合の2015年の各国の軍事費は、日本48、イスラエル19、トルコ18、イラン12、エジプト8であり、中東ではサウジアラビアが突出している。

 2016年から昨年までの間、サウジアラビアの軍事費は減少したが、それでも600~700億ドルの水準にあり、400億ドル台で横ばいを続ける日本との格差は小さくない。またイスラエル、トルコの3倍以上、イランの5倍であり、エジプトに比べると20倍近い格差がある。

(続く)

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前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601 Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642 E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

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ExxonMobil、BP、Shell3社は損失計上:五大国際石油企業2020年1-3月期決算速報 (5)

2020-05-18 | 海外・国内石油企業の業績

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0502OilMajor2020-1stQtr.pdf

 

2.2018年第1四半期以降の四半期別業績の推移(続き)
(4)部門別利益の推移
(4-1)上流部門(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-66.pdf 参照)
 前年の2019年第1四半期の上流部門の利益が最も多かったのはChevronの31億ドルであり、BP、ExxonMobilの29億ドルがこれに続いている。Totalの利益額は17億ドルで5社の中で上流部門の利益が最も少なかったのはShellの16億ドルである。

 続く第2、第3四半期は各社とも利益はほぼ横ばい状態であったが、第4四半期は大きく変動し、トップのChevronが67億ドルという巨額の赤字を計上し一気に最下位に転落した。これに対してExxonMobilの利益は61億ドルに急伸し5社の中で上流部門の利益トップに立った。しかし2020年第1四半期はChevronの利益が急回復しトップに返り咲く一方、ExxonMobilは利益が一桁台の5億ドルに急減し、BP及びTotalを下回った。Shellは過去1年間上流部門の利益が低迷しており、前期、今期の2期連続でマイナスとなっている。

(4-2)下流部門(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-67.pdf 参照)
 2019年第1四半期の各社下流部門の業績は17億ドルの利益を計上したBPをはじめShell、Total、Chevron各社もプラスとなりExxonMobilのみ3億ドルのマイナスであった。その後、第2四半期から第3四半期までは全社が利益を計上、特にShellの第3四半期利益は24億ドルに達し、過去1年間では最も多くなっている。2020年第1四半期は明暗が分かれShell及びChevronが前期比増益となったのに対し、BP、Total及びExxonMobilは減益となり、特にExxonMobilは5社で唯一損失を計上している。 

 過去1年間を通じて下流部門の利益変動が最も大きかったのはExxonMobilであり、2019年第1四半期の▲2.6億ドルから4.5億ドル(’19 2nd Qtr)→12.3億ドル(’19 3rd Qtr)→9億ドル(’19 4th Qtr)→▲6.1億ドル(’20 1st Qtr)と落差が激しい。

(5)設備投資の推移 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-64.pdf 参照)
 5社の四半期ベースの設備投資額はExxonMobil及びBPが毎期ほぼ安定した投資を行っている。ExxonMobilの各期の投資額は69億ドル(’19 1st Qtr)→81億ドル(’19 2nd Qtr)→77億ドル(’19 3rd Qtr)→85億ドル(’19 4th Qtr)→71億ドル(’20 1st Qtr)であり、全期を通じて常に5社で最高の投資を続けている。

同社に次ぐ投資を行っているのはShellであり、その金額は51億ドル(’19 1st Qtr)→52億ドル(’19 2nd Qtr)→60億ドル(’19 3rd Qtr)→67億ドル(’19 4th Qtr)→43億ドル(’20 1st Qtr)と推移している。Chevronの投資額は5社中の3位であるが、各期の投資は40億ドル~70億ドルの揺れ幅がある。Totalは昨年第3四半期こそExxonMobilに次いで高い67億ドルを投資しているが、その他の四半期は40億ドル前後でBPと並び設備投資額は少ない。

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp

 

 

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石油と中東のニュース(5月17日)

2020-05-17 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

・産油国減産で石油価格上昇。Brent $32, WTIは$30に近づく

(中東関連ニュース)

・経済崩壊でレバノンから逃げ出す外国人労働者

・トルコ、ゴーン元日産CEOの逃亡ほう助裁判7月3日予定。求刑8年

・サウジ国富ファンドPIF、ボーイング等値下り優良株総額77億ドル購入。*

・ドバイ、アブダビによる政府系ファンドMubadala救済の報道を否定。*

 

*「世界の政府系ファンド(SWF)」参照。

 

 

 

 

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見果てぬ平和 - 中東の戦後70年(33)  

2020-05-17 | 今日のニュース

ホームページ:OCININITIATIVE 

(英語版)

(アラビア語版)

(目次)

第4章:中東の戦争と平和

荒葉 一也

E-mail: areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

5.アフガン戦争勃発:呉越同舟の米国とアラブ

 70年代前半の束の間の平和と繁栄の時代が過ぎると、後半には中東は俄然きな臭くなる。アラブから少し離れイランとパキスタンに挟まれたアフガニスタンに、1978年、ソ連肝いりの共産主義政権が誕生した。アフガニスタンは古くから交易の要衝であり、19世紀には中央アジアからインド洋を目指すロシアの南下政策に対し、インド洋沿岸沿いにオマーンからインドに至る交易路を確保しようとする大英帝国の東インド会社が激突、そこは「グレート・ゲーム」と呼ばれる紛争多発地帯であった。1970年代初頭に王制が倒れると、ソ連は好機到来とばかりに共産主義政権を支援した。

 

 しかし伝統的な部族社会であり、また強固なイスラーム信仰の国であるアフガニスタンは安定するどころか反政府武装勢力が勢いを増した。劣勢に立たされた中央政府はソ連に援軍を要請、ソ連は国際社会の反対を押し切って1979年に軍事介入に踏み切る。この後、ソ連軍が撤退するまでの10年の間、アフガニスタンは泥沼の内戦を繰り広げるのである。

 

 この内戦で反政府勢力の中心となったのが「ムジャヒディン」である。「ムジャヒディン」とはイスラームのジハード(聖戦)戦士を意味する現地語である。イスラーム・ジハードを掲げるムジャヒディンにとって無神論を唱える共産主義は「悪の権化」とも言える存在である。ムスリム(イスラム教徒)にとって共産主義はキリスト教やユダヤ教よりも認めがたい。

 

ムスリムたちは「キリスト教のGodもユダヤ教のエホヴァも自分たちが信ずるアッラーと同じ唯一の存在(神)である」と信じている。三大一神教最後発のイスラームにとって「唯一神のアッラーはGodやエホヴァと同じ。なぜなら神は唯一の存在だから」である。ついでに言うならムスリムは旧約聖書に出てくる預言者が最初の預言者であり、キリストは最後から二番目の預言者、そしてムハンマドが最後の預言者であると考える。キリスト教ではキリストは神の子であるが、イスラームでは神が子供を生むことは無く、キリストはあくまでも預言者の一人ということになる。そして一神教徒すべてがそうであるように彼らは複数の神は認めない。従って彼らにとって古代ギリシャの多神教は邪教であり、日本古来の「八百万の神」などは野蛮人の信仰と映る。それでも少なくとも「神」の存在を前提としている点で彼ら一神教徒はかろうじて多神教徒を理解或いは容認できるのである。

 

 しかしムスリムたちにとって共産主義の無神論は理解に苦しむどころか悪魔の思想である。唯一神アッラーのためにアフガニスタンのムジャヒディン(ジハード戦士)は共産主義政府に立ち向かった。その闘争に共鳴したのがアラブ諸国のムスリムたちであった。豊かな湾岸産油国のムスリムたちはモスクで礼拝を済ませた後、遠いアフガニスタンのジハード戦士たちのために出口に置かれた義援箱にお金を入れた。ザカート(喜捨)はムスリムの宗教的義務であり、彼らは喜んで寄付したのであった。その性格上戦争を支援するための寄付金は公にすることができず、いくつかの銀行を経てマネーロンダリング(資金洗浄)された。モスクを通じた戦費の調達とその送金方法は後々イスラーム過激派に対する資金ルートに変貌して中東各国政府や欧米諸国を悩ませるのであるが、この当時はむしろ黙認或いは奨励されていた。

 

 さらに米国がこの戦争で反政府ゲリラを支えた。米国は彼らにミサイルなどの武器弾薬或いは軍事衛星で得られたソ連駐留軍の動きなどの機密情報をパキスタンを通じて反政府側に与えたのである。このようにアフガニスタン戦争ではアラブ諸国がヒト(義勇兵)とカネ(戦費)を与え、米国がモノ(近代兵器)とインテリジェンス(情報)を与え、共同してソビエト社会主義政権に対抗したのである。イスラームとキリスト教という真っ向から対立する陣営の共闘体制はまさに「呉越同舟」であった。

 

 両陣営がソビエト社会主義打倒を目指した思想の背景は全く異なる。アラブ陣営には共産主義の無神論に対する強烈なアレルギーがあった。彼らはソ連が「悪魔」の国でありこれを打倒することはジハード(聖戦)であった。そもそもアラブ民族の「血」とイスラームの「信仰」が体にしみこんでいる彼らにはイデオロギーという「智」が入り込む余地はないのである。これに対して米国は自由主義対社会主義、資本主義対共産主義という明確なイデオロギー思考に立ってソ連を打倒し世界の覇権を握ることが目的であった。1975年に泥沼のベトナム戦争を終結し、同じ年に先進国サミット(G7)で世界経済の覇権を確かなものにした米国にとってソ連は最後の敵であり、アフガニスタン戦争はその最前線というわけである。

 

 この戦争でアラブ諸国から多数の義勇兵が参加したが、その最大の人物こそサウジアラビアのオサマ・ビン・ラーデンである。世界中で彼の名を知らない者はほとんどいないであろう。また彼の素性と死に至るまでの経緯も良く知られているが、ここではアフガン義勇兵になるまでの経歴を簡単に紹介する。

 

 ビン・ラーデンは1957年、サウジアラビアのジェッダで生まれた。彼の父親はイエメン出身で若くして聖都マッカの門前町ジェッダに移住、路上の行商から身を起こし、サウジアラビアの初代国王となるアブドルアジズに取り入り、オサマ・ビン・ラーデンが生まれたころはサウジ国内最大の建設財閥になっていた。父親は多数の妻を娶り、ビン・ラーデンは17番目の息子であるが、11歳の時に父親が飛行機事故で死亡、当時の金で3億ドルの遺産を受けたと言われる。彼はその後イスラーム神学校(マドラサ)に入学、過激なイスラーム原理主義に傾倒した。そして22歳の時に義勇兵としてアフガニスタンに入った。アフガニスタンにはサウジアラビアの援助によるマドラサが多数建設され、ムジャヒディン(ジハード戦士)たちはイスラーム原理主義思想に洗脳されていた。そこに3億ドルを抱えてビン・ラーデンが乗り込んだのであるから彼がすぐに頭角を現し、外国人義勇兵のトップに立ったのは当然の成り行きであった。

 

 ソ連駐留軍は次第に追い詰められ1988年に遂に撤退した。アラブ・イスラム諸国はソ連の無神論との宗教戦争に勝利し、米国はソ連社会主義とのイデオロギー戦争に勝利したのである。アフガニスタン戦争はソ連の崩壊をもたらし米国では宗教社会学者のフランシス・フクヤマが「歴史の終わり」なる論文を発表、米国一強時代が出現し、永遠の世界平和が訪れるかのごとき幻想がふりまかれた。

 

 しかしアフガニスタン戦争はそれまで歴史の陰に隠れていた多くの問題が表面化する負の側面も併せ持っていた。米国はソ連の次の目標として中東アラブ諸国に政治の自由化と民主化を強要した。それは自由化、民主化の衣を着た西欧イデオロギーの押し付けであったが、その背後に宗教面のキリスト教福音思想と軍事面のネオコン思想があった。

 

 一方、イスラーム諸国ではイラン革命が勃発、シーア派指導者ホメイニによる宗教政治が出現、これはスンニ派アラブ諸国との対立を生みだし、イラン・イラク戦争につながる。さらに同じスンニ派アラブ諸国の内部で世俗主義と原理主義が衝突、原理主義の内部では更に過激なテロリズム思想が蔓延し手の付けられない混乱を引き起こすのである。

 

 (続く)

 

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今週の各社プレスリリースから(5/10-5/16)

2020-05-16 | 今週のエネルギー関連新聞発表

5/12 国際石油開発帝石

2020年12月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)

https://www.inpex.co.jp/ir/library/pdf/result/result20200512.pdf

 

5/12 Saudi Aramco

Aramco announces first quarter 2020 results

https://www.saudiaramco.com/en/news-media/news/2020/aramco-announces-first-quarter-2020-results

 

5/13 Shell

Shell invests in new Nigeria LNG processing unit

https://www.shell.com/media/news-and-media-releases/2020/shell-invests-in-new-nigeria-lng-processing-unit.html

 

5/14 出光興産

代表取締役および役員等の異動内定に関するお知らせ

https://www.idss.co.jp/content/100031472.pdf

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