石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

和平合意で急速に深まるイスラエルとUAEの関係(2)

2020-10-29 | その他
(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0517UaeIsraelPeaceAccord.pdf

1.政治外交関連
 まず政治・外交関係を見ると、UAEは8月30日にイスラエル・ボイコットの解除を宣言した 。イスラエル・ボイコットは1948年のイスラエル独立時(第一次中東戦争)にアラブ連盟加盟のアラブ諸国がイスラエルとの完全断交を決定したものであり、これにより空路、海運をはじめ外交、通商、文化スポーツを含む一切のイスラエルとの関係が断絶された。このボイコットは米国のユダヤ系企業も対象となり、中にはコカ・コーラの輸入販売を禁止する国もあったほどである。

 9月3日にはアメリカユダヤ人委員会(AJC)がUAEに事務所を開設することを発表した 。UAEのアブダビではイスラームのモスク、キリスト教教会に加えユダヤ教会シナゴーグの三大一神教の礼拝施設「アブラハムの家(Abrahamic Family House)」の建設が昨年始まっており 、AJC事務所の開設により在米ユダヤ人は宗教に加えUAE及びその周辺アラブ産油国の富裕な資本家たちと大手を振ってビジネスができるわけである。

 9月24日には両国のエネルギー担当大臣がエネルギー・インフラ事業協力について協議 、また10月6日には東西ドイツ統一記念式典参列の機会に両国外相がベルリンで会談している 。和平協定Abraham Accordは10月12日にイスラエルが 、10月19日にはUAEが批准して 正式に成立した。

2.電話回線及び航空便の開設


 和平合意直後の8月17日にはまず両国間に電話回線が開通した 。次に手を付けられたのは航空便の開設であり、8月31日には早速イスラエル航空のテルアビブ-アブダビ第一便が飛んでいる。この便にはクシュナー米大統領顧問(トランプ大統領娘婿)が乗り込んでおり、イスラエル政府代表団を引率する形でアブダビ空港に降り立ったのである 。
 
 ユダヤ教徒のクシュナーは2019年6月、アラブの経済的発展を手土産にイスラエルとの和平案Peace of Prosperityを引っ提げて中東諸国を歴訪している。しかしその内容があまりにもイスラエル寄りであったため、アラブ側が一斉に拒絶 、その後彼は一時中東外交の表舞台から降りていた。今回のイスラエルとUAEの二国間合意を足掛かりにアラブ各国を個別に撃破する戦術であり、実際にUAEに続き、バハレーン、スーダンが和平に踏み切っている。トランプ大統領再選のための点数稼ぎが外交面で成果を上げたことは間違いないようである。(但し、この程度のイスラエル支援策が米国の、特に福音派支持層の得票増加につながるかどうかは甚だ疑問であるが。) 

 9月4日にはテルアビブと商業都市ドバイを結ぶ貨物便開設が発表され、イスラエル航空はボーイング747型機で農産物、ハイテク製品などを運ぶと述べている 。10月19日にはアブダビ空港からテルアビブ向けの旅客第一便が飛び立ち 、10月20日には両国政府間で旅客便週28便、貨物便同10便を運航する旨の取り決めがなされている 。コロナ禍で世界の航空需要が冷え込んでおり、またUAE-イスラエル間の旅客・貨物便の需要が実際どの程度あるか不明である。協定はおそらく運航便数の枠決め程度の意味合いであろうと考えられる。

(続く)

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荒葉一也
Arehakazuya1@gmail.com
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