石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

(連載)「挽歌・アラビア石油(私の追想録)」(24)

2013-11-08 | その他

1:8:1の法則
 次の出向先は本社内の雑務や福利厚生施設の維持管理或いは海外に勤務する社員に新聞雑誌食料品などを送るサービスを行う子会社の社長であった。社長とは言っても社員わずか10数人の零細企業であり、要するに総務課、厚生課業務のアウトソーシング部門である。

 人事部から打診を受けた当初は異動を拒否した。一つの条件を提示されたからである。条件とは筆者より3歳年上の男性社員(仮にMとする)を引き取ること、と言うものであった。本体で持て余した社員を子会社が面倒を見ることはいずこの会社でもやっていることであり珍しいことではない。但しMの人格が問題であった。本人は東京の一流私大を出てアラビア石油に入社したのであるが、仕事は全くできない上に酒癖が悪い。会社は酒にはかなり寛容で社員の間では仲間の酒の上の奇行乱行を武勇談と称して面白おかしく話す風潮すらあった。本稿第4回で「エンリン」こと遠藤麟一郎氏に触れたが、そのような例が社内には少なくなかったのである。

 Mはいわゆる縁故採用であった。祖父も父親も大学教授であり、特に祖父は旧帝国大学の有名な法律学者であった。アラビア石油を設立する時に創立者の山下太郎が彼の祖父に法務上の相談に乗ってもらっている。山下太郎は財界・政界・学界を問わずとにかく大物が好きであり、また彼らに取り入るのが上手な「老人キラー」であった。従って大物の子弟を率先して入社させた。それは元総理の息子であったり、株主である有名製鉄企業副社長の息子であったりした。筆者が途中入社した時には彼ら大物子弟は殆ど会社を辞めて別な世界に飛び立っていたが、Mのようにどうしようもない人間は会社に残っていたのである。

 「社員は能力に応じて1:8:1の割合に分けることができる。」この法則とも言えない法則は以前社員1万名を超える会社にいた頃先輩から聞かされた言葉であり、その意味するところはつぎのようなものである。つまり全社員のうち一割は優秀で会社の成長を引っ張る人材である。そして八割の社員はごく普通のサラリーマンであり文句を言いながらも日々の仕事をこなし会社を支える社員である。そして残る一割は箸にも棒にもかからない役立たずの社員ということになる。

 その頃の日本の企業は完全終身雇用制であり、如何にお荷物であっても社員を辞めさせることはできなかった。特に当時のアラビア石油は業績が良かったためお荷物社員でも抱え込むことができたのである。ただそのような社員が無害なお荷物であるならば周囲は多少我慢すればすむ。しかしMは酒席で暴れるだけでなく、会社ではまじめに仕事をする他の社員を軽侮し会議になると無責任な言辞を弄するから困る。アラビア石油本体ならまだしも社員10数人の子会社にそのような人物を抱え込めばどうなるか。「朱に交われば赤くなる」ではないが仕事に悪影響が出る。

 特に社長を除く社員は全て子会社採用プロパーであるから、Mのような仕事を全くしない出向者がいるとプロパー社員の不満を抑えられない。筆者はそう考えて人事部長に対して、もしMの引き取りが条件であるなら異動は受けられない、と申し立てた。人事異動に文句をつけたのは後にも先にもこの時だけである。実はMは人事部長と同期入社である。部長が裏でどのように問題を処理したかは知る由もない。結局彼はこちらの要求を呑んでくれたのである。

 こうして総務・福利厚生業務のサービス子会社に異動した。しかしこのポストも結局わずか一年でまたまた人事部から新たな異動命令が下った。今度の辞令はジェトロに出向、リヤド事務所長を命ず、というものであった。

 蛇足ながらMは筆者が子会社に異動した3ヶ月後に退職した。その後、体を壊し60歳代で亡くなったことをOB会事務局から知らされた。

(続く)

(追記)本シリーズ(1)~(20)は下記で一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0278BankaAoc.pdf 

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 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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