石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

「OPEC+(プラス)」の減産強化は持続可能な路線か?(下)

2019-12-13 | OPECの動向

(注)本レポートは「マイ・ライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0488OpecDec2019.pdf

 

*「OPEC+(プラス)の協調減産量」(http://menadabase.maeda1.jp/1-D-2-35.pdf)参照。

 

 会議の前評判では追加減産幅は40万B/D程度[1]、期間は6か月またはそれ以上と言われていた。しかし実際には追加減産は50万B/Dに増え、逆に期間は現行120万B/D減産体制の期限である来年3月末までの3か月間とされた。サウジアラビアは減産強化を強く主張しており、一方、ロシアは減産強化に懐疑的であったと言われる[2]。5日のOPEC総会ではかなり長時間の議論が交わされたが結論が出ず、翌6日のOPEC+閣僚会議でようやくまとまったと報道されており[3]、3月末まで、50万B/Dの追加削減はサウジアラビアとロシアの妥協の産物と見て間違いないであろう。

 

 それではこの追加減産によってOPEC+が期待するような原油価格のアップが実現するのであろうか?確かに会議直後にBrent、WTI原油価格は2%ほど急騰している。しかし今後高値が継続するかと言えば、問題はそれほど単純ではない。OPEC+の内外に価格アップの足を引っ張る要因がいくつか見られるからである。

 

 最大の外部要因は米国のシェールオイルの増産である。生産量ベースでは米国はすでにロシア、サウジアラビアを上回る世界一の石油生産国である[4]。さらに米国は昨年75年ぶりに石油の純輸出国となっている[5]。米国産の石油が国際市場をかき回す時代に入ったのである。米国原油が純粋に経済原理だけで取引されるとは考えにくい。世界の覇者を目指すトランプ大統領は石油を交渉の切り札として、ロシアあるいはサウジアラビアをけん制する道具に利用するであろう。

 

 最近ではOPECの市場支配力が弱まり石油は買い手市場である。価格には下向きの圧力が強い。サウジアラビアは財政均衡のために原油価格として75ドル/バレル以上を期待しているがその目標は遠い。ブラジルなどOPEC+、米国以外の産油国も増産を志向している。敵は石油だけではない。オーストラリア、カタールなどが相次いでLNGの増産を目指し、さらに地球温暖化問題では石油が目の敵にされつつある。

 

 減産強化の足を引っ張る動きはOPEC+の内部にもある。イラク及びナイジェリアは減産割り当てを遵守しない状況が続いている[6]。ロシア[7]も厳冬期の生産削減の難しさ、あるいは自国生産量にはガス・コンデンセートが含まれているのでこれを差し引いた生産量で評価してほしいなどと弁明に明け暮れている(コンデンセート問題はロシアの言い分に一理はあるが[8])。

 

 結局重荷を負うのはサウジアラビアである。1月以降の減産枠210万B/Dのうち、サウジ一国で4割強の89万B/Dを負担することになる。ただサウジアラビアは現在ムハンマド皇太子が脱石油を目指したVision2030政策を推進している真っ最中であり、資金がいくらあっても足りない状況である。アラムコの株式売却はそのためであったが、海外での上場の思惑がはずれ資金不足気味であることは間違いない。石油価格が低迷し減産割り当てを続ければサウジアラビアは野心的なプロジェクト推進どころか、国家財政すら脅かされる羽目になる。

 

今後の原油価格に明るい見通しが持てない中でサウジアラビアはチキンレースを強いられている。OPEC+の減産強化が果たして「持続可能なゴール(Sustainable Development Goal, SDG)」なのか?今回のOPEC+協調減産強化はOPEC+の盟主サウジアラビアの耐久力が問われているとも言えよう。

 

以上

 

本件に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

前田 高行

maeda1@jcom.home.ne.jp



[1] Russia yet to finalize stance before OPEC+ considers deeper oil cuts

2019/12/3 Arab News

https://www.arabnews.com/node/1593421/business-economy

[2] Russia vows cooperation with OPEC to keep oil market balanced

2019/11/21 Arab News

https://www.arabnews.com/node/1587331/business-economy

[3] 「減産50万バレル拡大で合意」

12/6日付日本経済新聞

[4] 拙稿「BPエネルギー統計2019年版解説シリーズ石油編」参照。

http://mylibrary.maeda1.jp/0474BpOil2019.pdf

[5] US just became a net oil exporter for the first time in 75 years

2018/12/6 The Peninsula

https://www.thepeninsulaqatar.com/article/06/12/2018/US-just-became-a-net-oil-exporter-for-the-first-time-in-75-years

[6] 「イラク原油生産量の推移」 http://menadabase.maeda1.jp/2-D-2-09.pdf 参照

 「ナイジェリア原油生産量の推移」 http://menadabase.maeda1.jp/2-D-2-10.pdf

[7] 「ロシア原油生産の推移」 http://menadabase.maeda1.jp/2-D-2-20.pdf

[8] Russia vows cooperation with OPEC to keep oil market balanced

2019/11/21 Arab News

https://www.arabnews.com/node/1587331/business-economy

 

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石油と中東のニュース(12月13日)

2019-12-13 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

・OPEC12月レポート:貿易低迷は年内で終焉、来年は経済回復の見通し。来年のOPEC石油需要2,958万B/D。 *

 

*OPEC石油生産の推移(2017年1月~2019年11月)

OPEC全体:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-2-04.pdf

サウジアラビア:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-2-05.pdf

 

(中東関連ニュース)

・イスラエル、組閣交渉失敗で3度目のやり直し選挙を3月2日に実施

・駐米サウジ大使Reema王女、フロリダの狙撃現場を訪問。 **

・UAE Gargash外務担当国務相、カタールとの関係回復に厳しい姿勢

・サウジアラムコの株価続騰、時価総額2兆ドルを超える

・アブダビ、ハンガリーWizz AirとUAE5社目の合弁格安航空設立

 

**駐米大使Princess Reema bint Bandar Al-Saudは元駐米大使Bandar bin Sultanの息女。

スルタン家系図」参照。

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