石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

アザデガン油田開発で試される日本の資源外交(全4回・第3回)

2006-09-22 | OPECの動向

全文を「石油文化 2006年4号」に一括掲載しました

(これまでの内容)

第1回 アザデガン油田開発の実行を迫られるJAPEX

第2回 アラビア石油に代わる中東石油開発のビッグ商談

 

第3回 イランの石油と天然ガスに触手をのばす中国、インド

 イランの石油と天然ガスの埋蔵量は共に世界第2位である。石油はサウジアラビアに次ぐ1,370億バレルの埋蔵量を有し、天然ガスはロシアに次ぐ27兆立方メートルの埋蔵量がある(いずれもBP統計による )。その合計量は石油換算で3,060億バレルに達する資源大国である。生産量では石油は405万B/DでOPEC加盟国の中ではサウジアラビアの次に生産量が多く、世界でも第4位(1位サウジアラビア、2位ロシア、3位米国)である。

  石油或いは天然ガスを今後何年間掘り続けることができるかを示す数値は「可採年数」と呼ばれるが、イランの場合、石油の可採年数は93年、天然ガスのそれは100年以上もある。イランのエネルギー資源の潜在能力がいかに高いか理解できるであろう。世界の石油生産が頭打ちになりつつある、とするいわゆる「ピーク・オイル論」が囁かれ、生産余力がある国に対して熱い目が注がれている。特に近年経済成長が目覚しく、成長を維持するために大量のエネルギーを必要としている中国やインドはなりふり構わずに石油や天然ガスの確保に狂奔している。

  例えば米国に次いで世界第2位の石油輸入国である中国は、カザフスタンの国営石油企業に資本参加し、さらにナイジェリアの油田を買収している 。また今年4月には胡主席がサウジアラビアを訪問して、石油協力に関する幅広い協定を締結するなど、エネルギー安定確保のための積極的な首脳外交を展開している 。イランについても、2年前の2004年10月、イランのザンガネ石油相(当時)が北京を訪問し、エネルギー協力に関する広範な覚書を締結した。その中には年間1千万トンのLNGを25年間購入する協定があり、契約総額は1千億ドルと言われている。また国営石油会社SINOPECがヤダバラン油田を開発し、予想生産量30万B/Dの半量(15万B/D)を中国が引き取ることも約束された 。今年2月、同油田の開発契約が締結されたとの報道も見られる 。

  一方、インドは過去10年間に石油及び天然ガスの輸入がほぼ倍増しており、同国も世界中でエネルギーを買い漁っている。イランの天然ガスを輸入しようとする計画はその一つである。これはイランからパキスタンを経由してインドに至る全長2,800KMのパイプラインを敷設する総額70億ドルのプロジェクトである 。昨年7月にはインド・パキスタンの2カ国協議が行われ、また年末にはイラン・インド両国の実務担当者レベルが打ち合わせ、3カ国はパイプライン建設事業について合意に達した 。インドとパキスタンはカシミール問題を巡って古くから対立しているが、エネルギーを安定的に確保するために両国は手を結ぼうとしているのである。

  イランの孤立化を図る米国は、この計画に対しインドを強く牽制した。但し計画そのものを否定することが内政干渉と批判されることを恐れ、ブッシュ大統領も表立った反対はしなかった 。しかしインドにこの計画から手を引かせるため、ブッシュ大統領は今年2月の訪印時にウルトラCを放った。それはインドに民生用の核開発技術を供与することであった。核拡散防止条約(NPT)に加盟していないインドに核技術を供与することーそれは米国の明らかなダブル・スタンダード(二重基準)である。日本を含め欧米先進国の良識ある人々は多分唖然としたはずである。しかし超大国に対し面と向かって難詰する国はない。日本政府も当然のことながら沈黙するだけである。そして米国の思惑通りパイプライン・プロジェクト推進の声は急速にしぼんでいる。

  中国に対する米国の対応はインドとは異なっている。中国は米国と同じ安全保障理事会の常任理事国である。また経済的に見ても人口10億の巨大なマーケットは、金融・IT等の米国の先端産業にとって未知数の魅力を秘めている。米国は中国の政治体制や人権問題に大きな不安と懸念を抱きつつも中国との対決は避けている。米国が日本よりも中国を重視し、日本の頭越しに米中外交を進めようとしていることは間違いない。

  この結果、中国は米国に気兼ねなくイランの天然資源にアプローチできるのである。と言うよりも、イランに対する国連制裁を主張する米国に反対することにより、イランの中国に対する印象はむしろ良くなっているとすら考えられる。中国にとってイランとのエネルギー協力は、失うものは何もない。中国はますますイランの懐深くに入り込んで行く気配である。

  次回(最終回)では、対米追随外交をこのまま続ければ日本は全てを失う恐れがあること、そのためにもポスト小泉の中東資源外交に明確な姿勢を示す必要性があること、について私論を述べてみたい。

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