Cape Fear、in JAPAN

ひとの襟首つかんで「読め!」という、映画偏愛家のサイト。

『Cape Fear』…恐怖の岬、の意。

にっぽん男優列伝(172)小林桂樹

2012-11-07 04:29:43 | コラム
23年11月23日生まれ・2010年9月16日死去、享年86歳。
群馬出身。

映画小僧を自称する「ほんのちょっと前」まで、つまり中学生のころの自分は、北村和夫と小林桂樹(こばやし・けいじゅ)さんを同一人物だと思ってました。
文芸や社会派中心のひとと、喜劇を中心にしたひと―というちがいがあるのに、
さらにいえば『日本のいちばん長い日』(67)などで共演しているにも関わらず、そのことに気づかなかったのですねぇ。

そんな桂樹さんの映画キャリアは、250本を超えています。
大スターあるいは名脇役・・・この数からそんな俳優像を思い描きますが、桂樹さんはそのどちらともちがう。
主演もこなしつつ脇でも光りましたし、また、派手な演技は一切せず常に控えめ、それでいて印象は薄くならない―という、不思議な魅力を放っていました。

氏曰く「ふつうのひとというのも個性、平凡というのもひとつの個性だ」。

なるほど、これだけの出演数を誇ると、オファー受諾は必ずしも「シナリオを読んだあと」ではなかったはずですが、
「そうしたひと」を多く演じることによって、キャリア後半で辿り着いた哲学が「そういうこと」だったのでしょう、きっと。


個人的ベストは『黒い画集 あるサラリーマンの証言』(60)ですが、
最も愛された映画は、おそらく『社長シリーズ』(56~70)の秘書役でしょうね。





<経歴>

日本大学専門部芸術科(現・日本大学芸術学部)を中退後、当時、唯一「学歴」を問わなかった日活に入社する。

映画俳優デビュー作は、42年の『微笑の国』。
工員役でした。

同年には『将軍と参謀と兵』と『第五列の恐怖』で兵士役を演じ、地味ながら着実にキャリアを築きつつありましたが、世界中で戦争が起こっていた時代、桂樹さんもその波に飲まれ、翌年の冬に召集されたのでした。
復員後の復帰作は46年の『君かと思ひて』で、そんな激動の40年代フィルモグラフィをまとめて。

≪40年代≫

43年…『シンガポール総攻撃』『マライの虎』『重慶から来た男』
44年…『菊池千本槍 シドニー特別攻撃隊』
46年…『街の人気者』『絢爛たる復讐』『道院の花嫁』『狸になった和尚さん』『二死満塁』
47年…『踊子物語』『花咲く家族』『初恋物語』『いつの日か花咲かん』
48年…『運命の暦』『山猫令嬢』『親馬鹿大将』『死美人事件』
49年…『検事と女看守』『毒薔薇』『虹男』『花の日月』『人生選手』

桂樹さんの「時代」がやってくるのは、50年代。
東宝と契約したことで幸運が訪れ、森繁久弥主演『社長シリーズ』の秘書役に抜擢されたのです。

≪50年代≫

50年…『窓から飛び出せ』『私は狙われている』『復活』『密林の女豹』『鉄路の弾痕』
51年…京マチ子が素晴らしい『偽れる盛装』 『消防決死隊』『その人の名は云えない』『西城家の饗宴』『有頂天時代』『月よりの母』『めし』
52年…『群狼の街』『ラッキーさん』『息子の花嫁』『三等重役』『東京のえくぼ』『東京の恋人』
『続三等重役』『狂妻時代』
53年…『一等社員 三等重役兄弟篇』『吹けよ春風』『夫婦』『ひまわり娘』『プーサン』『幸福さん』『花の中の娘たち』『太平洋の鷲』『赤線基地』
54年…『若い瞳』『坊ちゃん社員』『続坊ちゃん社員』『かくて夢あり』『学生心中』『土曜日の天使』
55年…『初恋カナリヤ娘』『ここに泉あり』『サラリーマン 目白三平』『制服の乙女たち』『くちづけ』『続サラリーマン 目白三平』『青い果実』
56年…『へそくり社長』『見事な娘』『続へそくり社長』『夜間中学』『妻の心』『はりきり社長』『ある女の場合』『のんき夫婦』
57年…『御用聞き物語』『続御用聞き物語』『美貌の都』『サラリーマン出世太閤記』『大学の侍たち』『続サラリーマン出世太閤記』『次郎長意外伝 大暴れ次郎長一家』
58年…『社長三代記』『負ケラレセン勝マデハ』『続・社長三代記』『東京の休日』『結婚のすべて』『鰯雲』『続々サラリーマン出世太閤記』、山下清を演じた『裸の大将』
59年…『社長太平記』『続・社長太平記』『サラリーマン出世太閤記 課長一番槍』『新・三等重役』『日本誕生』

60年代前半は『社長シリーズ』の勢いに乗り、シリアスなジャンルにも挑戦し好評を得ますが、
後半は日本映画の変革期にあたり「オファーが少なくなった」とされています。
確かに、それにつづく70年代も出演作が激減、重鎮のキャラクターで「ちょこっと」出演することが多くなりました。

≪60年代≫

60年…『新・三等重役 旅と女と酒の巻』『黒い画集 あるサラリーマンの証言』『サラリーマン出世太閤記・完結篇 花婿部長No.1』『新・三等重役 当るも八卦の巻』『ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐』『サラリーマン御意見帖 出世無用』『サラリーマン忠臣蔵』
61年…タイトルで「怯んで」しまう『名もなく貧しく美しく』 『七人の敵あり』『別れて生きるときも』『社長道中記』『続・社長道中記 女親分対決の巻』、小林伍長を好演した『南の島に雪が降る』 『小早川家の秋』
62年…『椿三十郎』『放浪記』
63年…『江分利満氏の優雅な生活』『白と黒』
64年…『われ一粒の麦なれど』
65年…『侍』『けものみち』
66年…『女の中にいる他人』
67年…徳川侍従を演じる『日本のいちばん長い日』
68年…『首』
69年…『新選組』

≪70年代≫

70年…東條英機を演じた『激動の昭和史 軍閥』 
71年…『激動の昭和史 沖縄決戦』
73年…田所博士を熱演する『日本沈没』
75年…『男はつらいよ 葛飾立志篇』
77年…『八甲田山』

80年代に入っても出演作はありますが、
『連合艦隊』(81)、マッチ近藤真彦の父親を演じた『ハイティーン・ブギ』(82)、『ゴジラ』(84)、『そろばんずく』(86)、ヒロインの上司を好演する『マルサの女』(87)、『刑事物語5 やまびこの詩』(87)のなかで「桂樹さんらしい!」といえるのは『マルサ』くらいで、少し寂しいですねぇ。

90年代以降の作品に、『愛する』(97)、『母のいる場所』(2003)、『いつかA列車に乗って』(2003)、『恋する彼女、西へ。』(2008)など。

2010年7月に肺炎で入院、9月16日、心不全により死去。
享年86歳、映画の遺作は2009年の『星の国から孫ふたり』でした。

現代の俳優さんでいうと田山涼成が「それにちかい」感じがしないでもないですが、どうでしょうか、ちょっとちがうかなぁ。

…………………………………………

本館『「はったり」で、いこうぜ!!』

前ブログのコラムを完全保存『macky’s hole』

…………………………………………

明日のコラムは・・・

『にっぽん男優列伝(173)小林薫』

コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする