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クラシックにおけるルディ・ヴァン・ゲルダー

2021年06月06日 | Classical

Maria Tipo / W.A. Mozart Piano Concert No.21, K.467, No.25, K.503  ( 米 Vox PL 10.060 )


ルディ・ヴァン・ゲルダーは、クラシックのレコードでもマスタリングの仕事をしている。私の知っている限りではVox社のレコードだけで、
それも数は少なく、ごく一部のタイトルだけで仕事をしたようだ。それらの音源はすべてヨーロッパでの録音で、それをアメリカへ持ち帰って
きて、ヴァン・ゲルダーにマスタリングを依頼したらしい。ただやっかいなのが、RVG刻印があっても全部が全部RVGらしい音かと言えば、
そうではない。まったく冴えないものもあって、玉石混淆なのはジャズと同じだ。

マリア・ティーポのこのレコードは英国盤やフランス盤もあるが、このアメリカ盤だけがRVGで、音が全然違う。
音圧高く、ピアノの音もオケの音も艶やかでクッキリとしていて、聴いていて圧倒される。他の国のプレスは平均的なVoxレーベルの
モノラルサウンドで、その違いは明白だ。録音、製造共にはっきりしないが、50年代後半頃だろうと思う。

興味の焦点になるのはもちろんピアノだが、ジャズの世界でモノラル音源のピアノに彼が施していた音とはまるで別物。
古い録音にもかかわらず、ピアノの音はクリアで明るく、きらきらと輝いている。とてもヴァン・ゲルダーのマスタリングとは思えない。
楽器の音作りの考え方がまったく違う。

それでも、クラシックの世界ではヴァン・ゲルダーなんて誰も有難がらない。理由は簡単で、その音がこのジャンルの音楽には
あまりマッチしないからだ。このレコードも音質としては素晴らしいが、これがモーツァルトの音楽にフィットしているかと言えば、
ちょっと違うよな、ということになる。ピアノ協奏曲の世界でモーツァルトを超える楽曲を書いた作曲家は結局現れなかったが、
この天上の音楽を表現するにあたってヴァン・ゲルダーのサウンドは適切かと言えば、まあ、違うのである。

レコードにしてもCDにしてもストリーミングにしても音がいい方がいいに決まっているが、じゃあ音が良ければ何でもいいのかと言うと
そうではないだろう。結局のところ、その結果として音楽がどう聴こえるかなのであって、それを下支えする要素として音質が最重要事項
ということだ。いくらヴァン・ゲルダーがエンジニアとして最高峰の1つだったとしても、モーツァルトの音楽への理解が足りなければ、
それはミスマッチなレコードになってしまう。ジャケットデザインを手掛けるデザイナーにしてもそうだが、音楽に仕事で携わる以上は
やはりその音楽への理解や愛情は欠かせないのだろうと思う。



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