

Jimmy Cleveland / A Map Of Jimmy Cleveland ( 米 Mercury Records MG-20442 )
アーニー・ウィルキンスの編曲をベースに彼のフリューゲルホーン、ジェローム・リチャードソンのサックス、レイ・コープランドのトランペット、ドン・バターフィールドの
チューバらとの多管編成で臨んだ何とも爽やかな傑作で、私の密やかな愛聴盤になっている。アーニー・ウィルキンスがリヴァーサイドでやっていた編曲は泥臭くて重い重奏が
多かったが、ここでは楽器数が少ないこともあって響きが上手く整理されており、見晴らしがよく素晴らしい。重奏が前に出過ぎることなく各人のソロが充実していて、ジャズ
本来の良さも活かされている。
特に顕著なのが全体を覆う清涼感溢れる上質で独特な爽快さで、こういうメンバー構成ではなかなか想像にしくいことだが、初めて片面を通して聴いた時にはとても驚いた。
これと似たような雰囲気の演奏は他には聴いたことがないような感覚で、これはいい、と一人で小躍りしたものだ。
クリーヴランドのトロンボーンも柔らかくなめらかで遠くに伸びていくようなトーンで歌っており、この楽器特有の望郷的で倍音豊かな音色がとにかく素晴らしい。
トロンボーンもサックスなんかと同じで一人一人皆音色が違うが、この人の場合も誰とも似ていない独自のヴォイスを持っている。
1958年12月の録音だが、時代的にもハード・バップの爛熟期で誰もが無理な背伸びをすることなく落ち着いて演奏していることがわかるその正直さが私の心を打つ。
ジャズのレコードをたくさん聴いているとそれらの演奏の多くがその時代背景に否応なく翻弄されていることがよくわかってくるものだが、このアルバムには全体的に
各人の非常に澄み切った心持ちがにじみ出ているようなところがあって、それが冒頭にも述べた爽やかさにつながっているのだろうと思う。こういうことを感じられる
ようなアルバムはなかなかないと思う。
蛇足だが、このレコードは音もすごくいい。マーキュリー・レーベルのレコードの音質などは誰からも相手にされないが、このざらっとしたリアルな質感や程よい残響感が
もたらす奥行きの深みは筆舌に尽くしがたい。こういうレコードを聴いていると、ヴァン・ゲルダーの話などはどうでもよくなってくる。