廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

寄り道としのシューベルト(2)

2021年02月13日 | Classical

Paul Lewis / F. Schubert Piano Sonatas  ( 仏 Harmonia Mundi )


ブレンデルに師事したポール・ルイスは、当然のようにシューベルトを録音している。ブレンデルが残したシューベルトの録音は
現代の金字塔と言われているが、私はイマイチのめり込めない。そこに感じる不満のすべてを解消してくれるのがポール・ルイスで、
私がシューベルトのピアノ曲を聴くことができるようになったのは、この人のおかげだ。以降、数多くの演奏を聴いてきたが、
未だにこの人の演奏を超えるものは見つからない。

そして、彼のおかげでシューベルト最後の作品であるピアノ・ソナタ第21番 D.960 の魅力に憑りつかれることになった。
この曲は技術的難易度は高くないが本当に上手く演奏するのは難しく、これまでに有名/無名を問わず多くのピアニストが挑戦してきたが、
成功していると思える演奏はさほど多くない。

ポール・ルイスの演奏は本当に自然で柔らかく、多くのピアニストたちが陥ってしまう不自然なアゴーギクやディナーミクは皆無。
聴いている間は、まるでヒースの丘に立って風に身を任せているような感じだ。そして、弱音が何と美しいことか。
完全に音楽をコントロールできていて、その間の取り方は魔法のようだ。

この曲は第1楽章のみが素晴らしく、以降の楽章は出来が悪いと言われることがあるけれど、この人が弾けばどの楽章も聴き惚れてしまう。
グールドとは違うタイプだが、音楽の支配の仕方、フレーズのすべてを歌わせる力量、打鍵の完璧さには同じ天才を感じる。
譜面に書かれた1音たりとも粗末に扱わないこの意志の強さなどはグールドそっくりだ。そして、そういうコントロールを施したのが
他の何物でもなく、シューベルトだったというところに驚きがある。グールドはシューベルトを評価せず、録音を残さなかった。

まだ、録音していない曲はたくさんに凝っているので、今後を楽しみにしたい。そう思わせてくれる、数少ないピアニストなのだ。


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