廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

グレン・グールドの原風景

2021年03月14日 | Classical

Rosalyn Tureck / Goldberg Variations  ( 米 Allegro ALG 3033 )


グレン・グールドが影響を受けた唯一のピアニストが、このロザリン・テューレック。グールドは若い頃はホロヴィッツに憧れて
あの正確無比なテクニックを身につけるべく練習に励んだが、バッハの演奏はこのテューレックをお手本にして発展させた。

テューレックは録音が少なく、公式録音はバッハしか残していないし、アメリカのピアニストということもあって、ドイツを中心とする
ヨーロッパが本場であるクシックの世界では亜流扱いで誰も見向きすらしない存在だったが、グールドが唯一影響を受けたことを公言したことで、
後年になって見直されることになった。そのせいで晩年になって録音をせがまれて残した演奏もあるが、さすがに衰えを感じさせる内容で、
聴いていて痛々しい。

ゴルトベルク変奏曲は各楽章を繰り返して演奏するのが一応正しいスタイルだが、グールドが繰り返しを省略して演奏したので、
その後は省略するスタイルの方が主流となり、大抵はレコード1枚に収まるようになった。でも、グールドの原点であるテューレックは
繰り返すスタイルで、このレコードは2枚組で箱に入れられている。録音は1947年とも1952年とも言われてるが、どちらが正しいのかは
よくわからない。彼女は1958年に英国HMVへ2度目の録音をしており、一般的にはそちらが彼女の演奏の代名詞になっているけれど、
レコードとしてはこちらの方がはるかに稀少だ。

彼女の演奏の特徴は聴けばすぐわかる通り、その異様なテンポの遅さにある。曲としての外形を崩すことを厭わず、語りかけるかのような
演奏に終始する。とても正当な解釈とは言えず、あまり相手にされなかったのは当然と言えば当然だが、グールドはここにこの曲の真髄を見た。
デビュー時の第1回目の演奏は流れるようなレガートで速いスピードで演奏したものの、最後の第2回目の録音は明らかにこのテューレックを
下敷きにしている。随所にまるでグールドによってコピーされたかのような、彼そっくりの演奏が出てくる。
この古いレコードの中には、謎めいたグレン・グールドという天才の原風景が残されているのがわかる。

このレコードはLP初期のアメリカでの製造なのでオートチェンジャー仕様になっていて、A面の裏がD面、B面の裏がC面という、
聴くには甚だ迷惑な作りになっているし、箱物だから取り扱いも厄介で、且つそもそも演奏が長いからすべてを聴くのに時間がかかる。
この面倒臭さを我慢してでもこういう古いレコードを敢えて聴くのだから、レコードマニアというのはやはり変わった生き物なのだ。


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