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チェット晩年の傑作

2017年01月03日 | Jazz LP (Enja)

Chet Baker / Strollin'  ( 西独 Enja 5005 )


1980年代のチェットは、少なくともディスコグラフィー上では、音楽家として最盛期だったのではないかと思えるほど、作品が質・量ともに充実している。
そのタイトルの多くは欧州でのライヴを録音したものではあるものの、やつれた容姿とは裏腹にとても精力的に活動していた様子がきちんと記録されている。
自身で作曲をすることはなかったけど、どんな曲であってもすべて自分の音楽に変えてしまうその腕前は他の誰よりも際立っていた。 例えそれがワンパターン
であったとしても、その魅力には抗えないものがある。

このアルバムは1985年ドイツのジャズ・フェスティバルにギターとベースを加えたトリオで出演した際の録音だが、あまりの出来の良さにのけ反ってしまう。
コアなマニアには知られた存在のフィリップ・カテリーヌの凄腕ギターがソロのパートで冴え渡る。 まあ、上手いのだ。 ジャズ・ギターの奏法だけど、
ロックのスピリットを感じる。 そして、チェットのトランペットもとてもきれいでしっかりとしたトーンで吹かれている。 必要最小限の楽器構成にも
関わらず、なんと豊かな音楽になっていることか。 ギターとベースのタイム感が絶妙で、ダレるところが一つもない。 "Love For Sale" にロック
っぽいアレンジを施しており、斬新でカッコいい。 なんだか、晩年のマイルスの音楽みたいだ。 かと思えば、"Leaving" のような静謐で寂寥感に
包まれたバラードも聴かせる。 完璧な演奏だと思う。

更に、このレコードは音が抜群にいい。 ECMとはまた違う方向の音の良さに酔わされる。 クリアーな音場感の中で、3つの楽器のあまりに生々しい音が
部屋の中に3次元のホログラムのように音像を結ぶ。 以前、CDで聴いた時にはこんな風には聴こえなかった。 これにはちょっと驚いた。

これは間違いなく傑作。 晩年のチェット・ベイカーの凄さを垣間見ることができる。 内容とマッチしたジャケットの意匠も見事で忘れがたい1枚。



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