Joe Henderson / An Evening with Joe Henderson, Charlie Haden, Al Foster ( 伊 Red Record RR 215 )
最初に驚かされるのは、演奏の前にこのレコードの音。 我が家の部屋の中で演奏されているみたいな音でビビってしまう。 ヘンダーソンの管の
鳴りっぷりがあまりにリアル。 チャーリー・ヘイデンの弦のビリつきがリアル。 久し振りに「原音再生」という言葉を思い出した。
スピーカーから溢れるように流れ出す音の粒子の細かさや濡れたようなみずみずしさが他の音盤とは違う。
ヴァンガードのライヴと同様のピアノレストリオのライヴだが、一番の違いはベース。 チャーリー・ヘイデンはオーネットとやっていた頃と
比べると明らかに演奏のキレが落ちているけれど、それでも持ち味である重低音を重く響かせ続けるところは健在で、これがベースらしくて
実に気持ちがいい。
この演奏を聴くと、ロン・カーターのベースラインが如何に音程が甘くて、フレーズの腰の高さが音楽を軽いものにしているかがよくわかる。
尤も、ヘイデンのソロパ-トは相変わらず面白味がなく、ここはカーターと大差はないように思う。
音質の張りの良さとベースの重量感とアップテンポの曲で固められているというところがヴァンガード録音とは違うため、こちらのほうが生き生き
している印象を与える。 ただ、これはヴァンガードでの演奏が評判になったからこその同様のフォーマットであり、前作よりも演奏がこなれている
のはある意味当たり前かもしれない。 前作はトリオ形式の感触を探るようなところがあったけれど、こちらではそういう用心深さは見られない。
ヘンダーソンの音には張りと艶があり、フレーズにも自信が漲っていて、このテナーサックスとしての説得力の強さはマイケル・ブレッカーなんかを
連想させる。
とてもナチュラルな現代的モダンジャズで、何の力みもなければ野心も感じない。 自分の中から滾々と湧き出てくる何かを無心でテナーの
フレーズに置き換えていくような純度の高い演奏で、これを聴いていると60年代に彼がやっていた新主流派と呼ばれたあの音楽は一体何だった
のだろうと考えてしまう。これを聴いた多くの人がジョー・ヘンダーソンの復活を確信したのは間違いなく、晩年の傑作としてこれからも
静かに語り継がれていくのだろう。そういう "本物感" を実感するレコードだった。