廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

アルバム・タイトルに偽りあり

2020年03月28日 | Jazz LP (70年代)

Zoot Sims / Zoot At Ease  ( 米 Famous Door HL-2000 )


後期ズートの最高傑作はこれだろうと思う。時折、無性に聴きたくなる。捨て曲なし、とは正にこのアルバムのことだ。

私がこのアルバムを凄いと思うのは、ここで鳴っている音楽が持つ、ある種の独特の暗く殺気立った雰囲気だ。このアルバム・タイトルは内容に
合っていない。後期のズートは全体的にリラクゼーションの塊のような言い方をされることが多いけれど、私にはそうは聴こえない。
この人は若い頃はレイドバックしていたけれど、歳を重ねると独特の陰影を帯びた音楽をやるようになったと思う。ちょうど、チェット・ベイカーが
そうだったように。

特に、このアルバムはズート以外のメンバーもズートのそういうところに影響されて、かなりシリアスな演奏をしている。70年代に入ると、ジャズ
ミュージシャンたちの演奏もかなりロックの影響を受けて、それまでのありきたりの4ビートのノリでは演奏しなくなる。ここでの演奏はもちろん
主流派のそれだけど、感覚的には時代が変わりつつあるのがわかる。そういう全体の雰囲気がうまくブレンドされて、特別な内容になったのだと思う。
このピアノをブラインドで聴いて、ハンク・ジョーンズだとわかる人はいないだろう。

ソプラノの演奏もキレが良く、スピード感がある。主流派の古参がやる懐古的な演奏ではなく、みずみずしい感覚で素晴らしい。そして、それと
対比するかのようにテナーの音色が硬質でずっしりと重く、この見事なバランス感がアルバム全体が単調なものになるのをうまく回避している。

私は Al & Zoot の音楽は退屈だと思うけれど、コンビを解消して再びソロで吹き込むようになったステレオ期のズートがやった音楽は本当に
素晴らしいと思う。冒頭の "朝日のように" の疾走感は圧巻だし、 "InThe Middle Of The Kiss" はこの人にしかできない語り口で聴かせる最高の演奏だ。
ズートが吹く "Rosemary's Baby" の物悲しいメロディーを忘れることができる人なんて果たしているだろうか。

イージー感やリラックスとはおよそ無縁の、いい意味での緊張感に溢れる素晴らしい音楽を全身に浴びたい時には最高のアルバムだと思う。

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