廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

凛として鳴るピアノ・ソロ

2018年06月23日 | Jazz LP (70年代)

Paul Bley / Axis ( Solo Piano )  ( 米 Improvising Artists Inc IAI 37.38.53 )


迷いの生涯だったのかな、と思う。 一般論としての「人生は迷いの連続」というような話ではなく、この人の音楽の軸はどこにあったのだろうといつも
思うけれど、結局のところはよくわからない。 そのカタログを見ると、常に何かを探して彷徨っていたような無軌道とも思えるような軌跡が描かれている。

このアルバムの中にも様々な季節のシークエンスが幾度となく出てくる。 A面の "Axis" という自作の大曲もピアノの弦を弾くノイズから始まるけれど、
次に現れるのは2コーラスのブルース・ラインで、その後はフォーク調の断片も混ぜながらの現代的なインプロヴィゼーションになっていく。
様々な心象風景のようなものが現れては消えて、を繰り返しながら、やがて曲はクローズする。

B面はガーシュインの "(I Loves You,)Porgy" で始まるけれど、こちらも時々ブルースやフォークタッチなフレーズを持ち出しながら瞑想の森に入っていく。
まるで、後でちゃんと帰って来れるよう、目印の白い小石を道端に置いていくかのように。 

バップ系としてスタートしながらもフリーへ行ったり、電化へ行ったり、耽美系へ戻ったり、モンク風だったり、と振れ幅の大きい作風の中で、彼自身の
ピアニズムはどこかに置いてきぼりのまま進んでしまっているような印象があった。 普通、楽器を演奏する人は誰もがその人だけの音色やスタイルを
持っていて、一聴すればすぐに誰の演奏かがわかるものだが、この人のピアノにはそういうものが希薄というか、聴いてすぐにこれはポール・ブレイだと
わかるようなところがなく、どうもピアニストとしての魅力に欠ける人だと思っていた。

でも、そういうあっちに行ったりこっちに行ったりしている最中に、ふと何気なく残されたこの静謐なピアノ・ソロは彼のピアノが寂し気でありながらも
凛として鳴っていて、心を持っていかれる。 初めて彼のピアノをまともに聴いた、という気持ちにさせられた。


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