廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

エリントンの誘いを蹴って

2019年12月14日 | Jazz LP (Capitol)

Miles Davis / Birth Of The Cool  ( 米 Capitol T-762 )


23歳のマイルスがすべてを賭けて制作したこの音楽、昔聴いた時はピンとこなかったけれど、そもそも子供にその良さなど理解できるはずもない、
れっきとした大人のための音楽である。

ギル・エヴァンスやジェリー・マリガンと真剣に議論を交わし、レコーディングに入る前にライヴハウスで十分に演奏し、満を持して録音に臨んだ。
その最中にデューク・エリントンに呼ばれ、彼の楽団に加入するよう誘われた。でも、この音楽に賭けていたマイルスはその誘いを固辞する。
憧れのエリントンからの誘いでも、毎日同じ音楽を演奏する生活は彼にはできないことが分かっていたからだが、それでも、進行中のこの音楽を
仕上げたいという気持ちも本当だったのだろう。

そこまでして作り上げたこのアルバムは、安易なラージ・アンサンブルによる軽音楽などとは似ても似つかぬ充実した内容に仕上がっている。
デューク・エリントン、フレッチャー・ヘンダーソンからクロード・ソーンヒルへと繋がる音楽の系譜を、最小限のアンサンブルで演奏することが
狙いだった、とマイルス自身が述べているように、音楽教育をきっちりと受けた人らしい正統派の音楽作りがされている。その上で凝った構成や
スリリングな展開を施しており、非常に聴き応えのある音楽になっている。

低音部のサウンドカラーは如何にもギル・エヴァンスだし、リー・コニッツのソロも初々しい。おそらく初めて録音公開された "Israel" を聴けば
ビル・エヴァンスがこの曲をどうやって発展させたかがわかり、彼の音楽観がよくわかる。ビ・バップのけたたましい喧騒感が漂っていた40年代の
終わりに、このサウンドは見る人が見れば驚異だったろう。マイルスが何か新しいことを始める時は形を壊したり外縁部へ出ようとは決してせず、
逆に常に本流のより中心へ回帰しようとする。その本能のようなものが、既にここに現れているのが一番興味深い。

SP録音の割には音質は悪くなく、ワイドレンジは広くはないものの50年代後半のキャピトル・モノラル録音と言われても違和感のないサウンドだ。
さすがはメジャー・レーベルである。こういう時に頼りになる。

柔らかいとかマイルドという表面的な部分しか見えないうちは聴かないほうがいい。少し時間を置いて聴くともっと違った印象になるだろうと思う。


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