Art Lande / The Eccentricities Of Earl Dant ( 米 1750 Arch Records S-1769 )
週末の仕事帰りに拾った安レコ。 アート・ランデは数年前にECM盤を聴いたはずだけど、内容を全然憶えていない。 あまりピンとこなかった
んだろうと思う。その時の雪辱をはらすべく持ち帰ってきた。
ソロ・ピアノによるスタンダード集だが、副題に Improvisations という言葉が使われていて、フォルムを大胆に崩した抽象画を目指したような
感じらしい。どんな演奏が展開されるのだろうと楽しみに聴き進めていくと、あちこちに古いラグタイム調のフレーズが出てくる。
楽曲の主旋律もストレートに挟まれて、前衛的な演奏なのかと思いきや、そういう音楽にはなっていない。 手法的にはモンクのアプローチに
似ていて、それをもう少し推し進めた程度の崩し方だった。案外伝統的な古い音楽の感覚が抜けきらない人なんだな、ということがよくわかる
演奏だ。
そう思いながら裏ジャケットを見ると、テディ・ウィルソン、パウエル、ピーターソン、モンクらに捧げる、という本人の記述があり、そういうこと
なのか、と腑に落ちる感じだった。 偉大な先人たちの音楽の洗礼を受けた自分が、1977年当時の心情でソロ・ピアノを弾きました、という作品
なのだ。
聴く前から前衛チックな音楽を期待して入ったから最初の感想としては肩透かしを喰らった感じがしたが、そういう先入観を排して再度聴き直して
みると、もっとこの演奏の良さがわかってくる。 芯のある硬質な音で表現される楽曲は、例えば "I've Grown Accustomed To Her Face" で
見られるように、どんなに構造を崩してみてもその楽曲が元々持っている魅力が損なわれることはないし、そういう音楽としての魅力が演奏の
振れ幅の大きさを許容するのだ、ということもわかってくる。 そういうことがわかっているからこそ、ジャズ・ミュージシャンはギリギリの
ところまで枠を拡げようとし続けるんだなあと思う。
それに、このレコードはなかなかしっかりとしたいい音で鳴る。 残響でごまかそうとせず、ピアノの音に何も手を加えずに録ったものを
できるだけそのまま再生しようとしている感じだ。 70年代に入るとピアノの音が少しずつよくなってくるのを実感するけど、これもそういう
1枚かもしれない。
ECM盤では先鋭させようという感じがみなぎっているが、いい感じで自然体。聴いた後はザイトリンに近い印象は残りました。でも印象は薄いなあ。