川端裕人のブログ

旧・リヴァイアさん日々のわざ

世田谷区の学童保育の「今」を説明してみる

2005-11-05 08:32:30 | 保育園、小学校、育児やら教育やら
IMG_5165ぼくは世田谷区に住んでいます。息子は、学校が終わった後、いわゆる「学童クラブ」で夕方の六時まで過ごします。「いわゆる」と書いたのは、今、世田谷区の学童クラブはなくなってしまい、単にその「機能」だけが残っているだけだからです。そして、その「機能」すら、今、次第に危ういものになりつつあります。

このエントリでは、そのあたりの事情をまったく知らない人に、説明することを試みます。
ぼくは学童の保護者会の役員をしている関係もあって、よく人に説明する羽目になるのですが、本当、それが難しいんです。そこで、自分の頭を整理するためにも書きます。
興味のある方は是非、ご覧下さい。

まず「機能」しか残っていないということを説明します。そのためには、BOPというものについて述べなければなりません。
BOPとは、Base of Playing、「遊び場基地」の略です。
少子化にともなう「全児童対策」が全国的に重視されているきょうこのごろ、放課後の子供の遊び場として学校を開放するのがかなり一般的になっており、それを世田谷区ではBOPと呼んでいるわけです。
横浜市の放課後キッズクラブ、名古屋市のトワイライトスクールがなどに相当するものです。

BOPと学童クラブは本来別のものです。
BOPは放課後の遊び場。大人の指導員がいて、安心して遊べる場所。
学童クラブは、生活の場。もちろんそこでみんな遊ぶわけですが、BOPにきている多くの子供のように、家に帰れば誰かがいるわけではなく、誰もいないから学童クラブにるわけです。保育園の小学校低学年版というわけですね。当然、BOPと学童クラブでは、指導員に求められるものも違ってきます。
ただ、学童クラブが学校の施設の一部を使って運営されている場合(世田谷区はそうなっています)、「同じ場所」(放課後の学校)を使って子供たちが時間をすごす、という意味では同じであり、そこからややこしいことが始まりました。

ここ数年で、世田谷区のBOPはすべて新BOPというものになりました。
同じ場所を使っているBOPと学童クラブをまとめて、新BOPと呼ぶようになったのです。
この時点で学童クラブは消滅しました。
新BOP内学童クラブと呼ばれることはあるのですが、公式の書類には使われていません。あくまで「新BOP内の学童クラブ機能」として残っているのみ、なのです。

なぜ、こんなことになったというと、やはり財政的な問題と考えられます。
全国的には、時代柄、学童クラブを増設していく動きにあり、実際に多く自治体が学童クラブを増設しています。
そんな中、待機児童をなくし、できるだけ多くの子供たちを受け入れる受け皿として、「全児童対策」を、学童クラブにまで拡大してしまううごきが出てきたわけです。

同じ場所を使うのだから、指導員を同じにして、安くあげてやろう。
それを思いついた人は、とてもよいアイデアだと思ったのでしょう。学童クラブにくる子供と、放課後スクールに来る子供は、家庭の状況も違いニーズが違うのだということを無視して強行することで生じるさまざまな歪みは、この際、無視してでも是非実現しよう。
そんな流れで、川崎市、品川区、江戸川区などでは、すでに、学童クラブと全児童対策の放課後スクールが統合されました。
現在、自治体の中で、このアプローチをするところは、主流ではないとしても、かなり多くのところが検討している模様です。

世田谷区の場合は、この統合の「途上」にあります。
学童クラブは消滅したとはいうものの、学童登録児童の専任指導員は残っている(区の正職員である常勤指導員として二人)という点で、川崎、品川、江戸川などとは違います。ただ、今後、さらなる統合に向けて、区は歩みをすすめる方向にあります。

夏休み前、来年度(平成18年度)より、学童登録児童の専任指導員をなくし、それどころか常勤指導員もなくし(ややこしいですが、現時点では専任指導員=常勤指導員と考えて結構です)、非常勤指導員のみの体勢にするという方向性を、区は打ち出しました。
その後、世田谷区の学童保護者会からなどの意見を吸い上げ、「常勤指導員を来年度は一人残し、再来年以降のことについては再検討」という素案を出してきました。

それはないだろう、というのが、我々学童クラブ保護者会の考えです。
というのは、本来違う、目的であるBOPの中に学童クラブを吸収して、扱いが同じになると、そこを生活の場にせざるをえない「学童児」へのケアが行き届かなくなります。

たとえば……学童児は、毎日、来ます。来なければなりません。もしも、来るはずなのに来なかったら、保護者に連絡し、捜索しなければなりません。でも、それって結構、労力が必要なのです。
専任指導員が二人いる今の状態でも、すでに守られていません。
ぼくもうっかり、子供の予定を申告し忘れて(学童に行かずに直帰しておでかけの時)しまうことがあったのですが、一時間くらいたってから思いだし「きょうは直帰です」と電話をしたことがあります。その間、専任指導員はまだ出欠を把握していなかったわけです。
また、身の回りの保護者では、「連絡を忘れても電話かかってこないし、わざわざこちからちゃんと予定を申告するのも面倒になってきた」などと本末転倒なことを言う人もいるくらい。
実はこれは学童クラブ時代にはきちんと徹底されていたことなのです。専任指導員の数が減り、目が行き届かなくなったとのこと。
これは当の指導員たちも自覚していて、「いつもきちんと来る子がこなかったら電話するが、逆にしっちゅう来ない子の場合、きょうもまたそうだと思って、電話しない」みたいなことになっている模様です。
また、帰宅時間もルーズになる傾向にあります。ぼくはまだ子供を学校に迎えに行っているのですが、時間通りに行ったのにすでに子供が校門の外までランドセルを背負って出てきていることが何度もありました。
なんか、危険なかおり、しませんか。

常勤の専任指導員がいなくなると、すべての指導員が非常勤か、アルバイトになります。
非常勤は、正職員ではないですが、区の職員ではあります。ただ、著しく給与は低く、五年ごとの再契約が必要なので「一生の仕事」にはなかなかなりません。実際、定着率は非常に悪いのです。三年目くらいまでに半数以上が転職します。年度途中の転職も珍しくありません。
そこで、別の心配が発生します。
非常勤のみの体勢になった場合、年度の途中でだれかが辞めても、代替えの職員がすみやかに見つかるだろうか、ということです。実は、今の段階でも非常勤指導員はいるわけですが、去年、年度途中でひとり非常勤職員がやめた際、その代替えは結局見つかりませんでした。今後もますます「非常勤不足」に陥る可能性が高いわけで、規定の指導員数を満たせない場所もたくさん出てくる心配があるのです。

ほかにも、「目が届かなくなる」ことによる、不安はつきません。児童間のトラブル、怪我などなど。
世田谷区で、学童クラブが独立していた頃と比べて、どれだけ怪我が増えたなどという数字は手にしていませんが、学童クラブ独立時代を知っている保護者の実感としてトラブルは増えているといいます。これで「完全統合」されてしまった時にはどうなるのか、保護者は不安をつのらせています。
ちなみに、すでに学童クラブを完全統合している川崎市では、統合直後の七ヶ月間で、骨折が33件、縫合を要する裂傷が25件、角膜剥離、脳しんとうによる意識障害など、174件もの大きな事故が起きました(http://www.jcp.or.jp/akahata/aik2/2003-11-20/15_01.html)。その後、体勢が改善されたのかもしれませんが、少なくともいい噂は一度も聞いたことがありません。

さらにもう一点。
世田谷区は、学童クラブを児童館事業の一環として位置づけて、保育料を取らない全国的にも少数派の自治体です。学童児の保護者の多くは、有料化になってもいいからきちんとした体制で子供を見てほしいと思っているかもしれないわけですが、区の方針としては「有料化」をかたくなに拒否、「全児童対策事業の中に学童クラブを吸収統合」という方向しか選択肢にはないようなのです。
全児童対策とは、子育て支援の一環のはずなのですが、世田谷区の方針では、少なくとも両親がともにフルタイムで働いているような家庭にとっては、受けられる支援が薄くなることにほかならないのです。

さらにさらにもう一点。
新BOPには、保護者会がありません。子供たちが遊びに行きたければ行く、行きたくなければいかない。そういう性質のものなので、あえて保護者が集まってなにかをしようというような雰囲気になりにくいわけです。なにしろ、気に入らなければ、行かなければいいのですから。
というわけで、新BOPに来る子供たちについて心配する保護者会は、なぜか学童クラブ保護者会ということになっています(ここには「学童クラブ」という言葉が生き残っています)。
ぼくは今、副会長をやっていますが、学童クラブの保護者会のつもりが、実は新BOP全体の心配をしなければならないようなこともよくあり、それ自体、歓びとしつつも、なんか変だぞと捻れた感覚を持つもの事実なのです。


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26 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして。学童クラブの役員をしているものです。 (sasa)
2005-11-06 22:56:18
うちの学校は、今年新BOP内学童クラブになりました。
保護者も子供たちも指導員も、まだまだこれからという時に「見直し素案」が出され困惑しています。
それをきっかけに、9月30日にあわてて保護者会らしきものを作りました。
保護者の中には、理解してない方も多くて説明に苦労しています。
このページはかなり分かりやすいので資料として使わせていただいてもよろしいでしょうか?
もちろん、おおやけにしているページですので、活... (本人)
2005-11-07 06:45:58
逆に、文中に間違いやミスリーディングなところがあれば、ご指摘下さい。検討の上、修正します。
ありがとうございます。 (sasa)
2005-11-07 21:59:01
見直し素案で盛り上がっているのは、環八の外側だそうです。確かに昨日わんぱくクラブに集まったのは環八の外側でした。
4年前、長女が1年のときを思い出すと、指導員の方の励ましでどんなに救われたかわかりません。
前の学童のママたちと連携しつつ、少しでも良い方向に向かうと良いのですが・・・。。
そうなんですか……カンパチの外……。 (本人)
2005-11-08 04:43:55
温度差があるのってなぜなんでしょうか。たまたま?
温度差があるのは、子供が増加しているのが環八の外 (sasa)
2005-11-08 07:49:39
だそうです。三茶のあたりは学童人数が30人前後。
常勤の数は1名で変わらないと言う安心感があるのでしょう。19年度は常勤廃止になるかもしれないのに・・・。
うちの学校は常勤2名でも大変そうです。
5クラスの学年もありますし、来年も増えるでしょうから問題は深刻です。
ああ、なるほど。 (本人)
2005-11-08 12:21:40
それはたしかに温度差が出てきますよね。
どうやら、われわれは目の前のものにしか反応できない生き物のようで。ぼくなんかも、保育園の民営化など、一歩引いたところから見るのみになっていて、心苦しくも、しかし、仕方ないなあな気分です。

それはそれとして、5クラス、ですか。
想像を絶しますね。本当に現時点においても大変なはず。事故がおこらないことをいのるばかり。
エントリー拝見しました。 (プラナリア)
2005-11-11 01:05:27
自分もこの件に関してエントリーを上げていましたので、TBさせて頂きます。よろしく!
プラナリアさんのエントリ読ませていただきました。 (本人)
2005-11-11 07:51:10
ありがとうございました。
ほんと、悩みが多いです。困ったものですねぇ。
おひさしぶりです。 (sasa)
2005-11-14 14:42:57
昨日、PTAの広報委員の方たちと「BOP見直し案』の取材をかねて話あったのですが、BOPを人任せにするのではなく親たちが介入して盛り上げていけるといいね!
となりました。
自由に遊べるというのは、建前で友達がいなくてつまらない。を、学年を越えて楽しめる企画を考えていきたいとも思っています。

BOPのお母さんたちの得意なもの、料理、英語、勉強・・・。できるときに出きる人がスタッフになれたらいいですよね~。

学校より企画が通りやすいBOPです。
有効利用しなければ、もったいないですよね!
ああ、それは建設的で良いアイデアですよね。 (本人)
2005-11-14 17:11:47
今ぼくが感じているのは、安全面(出欠の確認などを含む)の体勢は譲れないものとして学童クラブ児(いや、もっと広く留守家庭一般)について厚くしてもらうこと。
こと「指導」に関しては、BOPになることによって、留守家庭ではない保護者のかかわりも期待できるわけで、そうすると、「地域で育てる」コンセプトにもより近いものがありますし、新しい「指導の形」ってのはイメージできなくはないんですよね。

ただ、安全面だけとは、ダメです。目に見える穴はふさいでおかないと、なにか起きた時に大後悔です。
安全面の穴を指摘されつつ強行してしまうと、区もより大きな責任をかぶることになるし、再考してもらう余地は十分にあると思うのでがね。

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