黒古一夫BLOG

文学と徒然なる日常を綴ったBLOG

何のために?

2007-12-19 06:23:48 | 近況
 昨日、ニュース番組のトップに取り上げられていたのは、ハワイ沖で自衛隊のイージス艦から発射された迎撃ミサイルが大気圏内を飛ぶ「敵」のミサイルを打ち落とすのに成功した、というニュースであった。
 このニュースを聞いた途端、何だか嫌な気持ちになった。このミサイル発射実験に使われた費用が数百億円で、イージス艦自体の値段が数千億円、発射されたミサイル一機の値段が十数億円、という途轍もない費用がこの「ミサイル・ショウ」(何故「ショウ」か? たぶん実戦的にはまだまだ不十分なこの「ミサイル防衛構想」は、本家のアメリカが計画予算を縮小すると行っている現在、アメリカの軍需産業にとってお得意様の日本に向けてPRするために必要な「成功」であった。)にはかけられているが、本当にこのミサイル実験が(百歩譲って)日本の「防衛」に役立つのか、と思ったからに他ならない。
 また、これは現在問題になっている防衛省汚職問題(守谷前次官をめぐる贈収賄事件)と同じように、「防衛機密」という隠れ蓑の内部で進行する日米軍需産業の「野望=金儲け」の現れなのではないか、と思ったからである。それに加えて、本当にイージス艦からのミサイルで、「仮想敵国」北朝鮮のロドンミサイルを打ち落とすことができるのだろうか、と思ったからである。現在僕らは、日本の防衛はもっぱら「仮想敵国」北朝鮮からの攻撃に対処するものと(政府やマスコミによって)訓育されている。
 しかし、考えてみれば自衛隊が発足した当時から今日まで、冷戦構造下ということもあって、「仮想敵国」は旧ソ連(現ロシア)、中国と、アメリカの極東戦略の「変化」に伴ってコロコロと変わった。そして現在は、北朝鮮。そもそも憲法第9条に違反する自衛隊は、「仮想敵国」なしでは存続し得ない、というような恐怖が政府・自衛隊関係者にはあるのかも知れないが、今は「拉致問題」などでもっぱら北朝鮮対策として防衛が語られるが、かつて「敵国」であったロシアや中国の、北朝鮮のものより性能が数段優れているミサイルに対して何も言わないのはどうしてなのか(たぶん、1兆円を超えると言われる今度のミサイル防衛計画では、性能の優れたロシアや中国のミサイルには対応できないからである)。ずっと昔になるが、80年代の半ば、旧ソ連の極東地域を訪れた際に、ソ連極東軍の副司令官が語った「我が軍の巡航ミサイルSS20は、日本国民をターゲットとしてはいないが、日本にあるアメリカ軍基地は狙っている」ことを、今でも忘れることができない。世界のミサイル事情は、北朝鮮のロドンなどは置き去りにして、精密なレーダーでも補足できない巡航ミサイル時代に入っているというのに、なぜ日本の自衛隊は未だ開発途上の「ミサイル防衛構想」に巨額の税金を注ぐ込むのか? 喜んでいるのは、日米の防衛産業だけではないのか?
 翻って、国内に目を向ければ、怠慢な厚生省仕事が招いた薬害肝炎に対する補償に国はお金を出し渋っている。難航している「消えた年金」問題にだって、今度のミサイル実験にかかった費用の何分の一を使っただけでも、簡単に処理できるのではないかと思うが、国民のためにはお金を出し渋り、軍需産業を潤すためにはいくらでも税金を投入する。国会を延長して「新テロ特措法」を何が何でも通そうとする、余りにアメリカを配慮した与党の姿勢と今度のミサイル実験は通底しているように思える。
 どこかおかしい。歪んでいる。僕らは、冷静に事の本質がどこにあるか見極めることが必要なのではないか。昨日は、つくづくそのように思った。