まろの公園ライフ

公園から世の中を見る

生きている風景画

2012年12月04日 | 日記

番組のロケハンで神奈川県真鶴町に出かけた。
毎年、夏には家族で海水浴に出かける相模湾の漁師町である。
東京から電車で一時間半の旅だ。

東京は凍えるような寒さだったが
真鶴の海は12月とは思えない温かな風が吹いていた。
どんよりとした曇り空の隙間から光が差し込んで海がキラキラと輝く。

訪ねたのは真鶴半島の突端にある小さな美術館。
岬の下から遠く低く潮騒の音が聴こえる。
私が大好きな美術館である。



文化勲章受章者の洋画家「中川一政」の美術館である。
プレートの文字は画家自筆の書。
無骨で、力強くて、飄々としていて、味のある字だなあと思う。

この空間に入ると私はいつも胸が高鳴る。
日常から非日常の世界へ・・・
体全体が「絵を愉しむ」モードになってスイッチが入る。

中川一政は97歳の長寿を生きた洋画家である。
美術教育も受けず師も持たず、ほとんど独学で自らの世界を切り開いた。
大胆なデフォルメと力強い筆致で描く画風は迫力にあふれ
「絵は生きていなければならぬ」が口癖だった。
飛行機事故で亡くなった脚本家の向田邦子さんは大の中川ファンだった。
事故の直前、中川から念願の絵を贈られた時は大感激で
「願い続ければ夢は叶うんですねえ・・・」と大はしゃぎだった笑顔を思い出す。
以後、彼女の文庫本の装丁はすべて中川が担当した。



齢九十を超えて挑んだ「箱根・駒ケ岳」は100号の大作である。
前に立つと絵の躍動感に圧倒される。
一枚の風景画がただならぬエネルギーを発散している。



薔薇や向日葵も数多く描いている。
「このヒマワリはゴッホを超えている!」と言った人がいたとか。
確かにそう感じるほど花に「生命力」を感じる。

生前のアトリエも移築されている。
ついさっきまで画家がそこで絵筆を握っていたかのような
不思議な緊迫感が漂っている。
絶筆となったのもやはり「薔薇」だった。

今回、番組で取り上げるのがこの「福浦突堤」である。
中川が生涯のモチーフとして20年間も描き続けた地元・福浦の漁村風景だ。
私はこれほど「生きている」風景画を知らない。
どうしたらこれほどイキイキと躍動的な風景画が描けるのか・・・
実際の絵の「現場」を訪ねることにした。