２月 １９日

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（　　雛飾る・古雛　　）



二年生雛飾らんと爪立ちに　　　　　　　　　　　　　栗田やすし



古雛が古き顔して春に逢ふ　　　　　　　　　　　　　細見綾子



母様のその母様の古雛 　　　　　　　　　　　　　　佐土井智津子



天井に水陽炎や雛飾る　　　　　　　　　　　　　　　都合ナルミ



冠失せし享保雛の面の艶　　　　　　　　　　　　　　小柳津民子



蔵窓の日にぬくもれり古雛　　　　　　　　　　　　　長江克江



吾が齢ともに添ひたる雛飾る　　　　　　　　　　　　小島千鶴



居間占めて白秋生家雛飾る　　　　　　　　　　　　　巽恵津子



雛飾る部屋に一揆の手斧あと　　　　　　　　　　　　鈴木真理子



三代の雛飾れり蔵屋敷　　　　　　　　　　　　　　　日野圭子



うつし世の影まざまざと古雛　　　　　　　　　　　　鈴木みや子



雛飾る部屋に一揆の手斧あと　　　　　　　　　　　　鈴木真理子



塩の道箱階段に享保雛　　　　　　　　　　　　　　　上田博子



菱餅のまだ柔らかく雛飾る　　　　　　　　　　　　　長谷川美智子



　　　　　　　

２月 １８日

　　　　　　　　　　　　　　＜　　苜蓿（うまごやし）・苜蓿（もくしゅく）・クローバー　　＞



男女たることに素直にクローバー　　　　　　　　　細見綾子



苜蓿や義肢のヒロシマ人憩ふ　　　　　　　　　　　沢木欣一



袖口でぬぐふハモニカ苜蓿　　　　　　　　　　　　河原地英武



クローバーの花に埋れし舟つなぎ　　　　　　　　　倉田信子



母と子が顔寄せて摘むクローバー　　　　　　　　　矢野愛乃



クローバーの土手やはらかや犬駆くる　　　　　　　奥山ひろ子



下宿へと発つ子に四つ葉のクローバー　　　　　　　安藤幸子



寝ころんでしろつめくさの冷たさよ　　　　　　　　関根切子



苜蓿や土手に古りたる農具小屋　　　　　　　　　　磯野多喜男



試験管にクローバ一本科化学室　　　　　　　　　　山　たけし



小刻みに揺るる苜蓿馬場の跡　　　　　　　　　　　砂川紀子



めぐり踏むグラバー邸の苜蓿 　　　　　　　　　　深見けん二



苜蓿やいつも遠くを雲とほる 　　　　　　　　　　橋本鶏二

２月 １７日

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（　　菜の花・花菜・油菜　　）



菜の花の転がつてをり汚れずに　　　　　　　　　　栗田やすし



菜の花がしあはせさうに黄色して 　　　　　　　　細見綾子



口能登や墓も花菜も砂まみれ　　　　　　　　　　　沢木欣一



花菜風甘し絣の糸干し場　　　　　　　　　　　　　都合ナルミ



岬みち海になだるる菜畑の黄　　　　　　　　　　　武藤光晴



風と会ふ花菜の迷路抜け出でて　　　　　　　　　　伊藤範子



見当たらぬ疎開せし家花菜径　　　　　　　　　　　上杉和雄



花菜より花菜へ渡る土橋かな　　　　　　　　　　　鈴木みすず



眩しさに母見失ふ花菜畑　　　　　　　　　　　　　安藤一紀



菜の花を載せて帰れり耕耘機　　　　　　　　　　　谷口千賀子



菜の花や山みな低き安房の国　　　　　　　　　　　栗生晴夫



鼻失せし地蔵を撫づる花菜風　　　　　　　　　　　八尋樹炎



花菜和へ利休好みの杉の箸　　　　　　　　　　　　日野圭子



花菜風水上バスの遠汽笛　　　　　　　　　　　　　菊池佳子



花菜咲き家に暗き間明るき間 　　　　　　　　　　岡本眸



北上は声なく流る花菜敷き　　　　　　　　　　　　山口青邨



旅に買ふ菓子のかるさよ花菜雨 　　　　　　　　　鷲谷七菜子

２月 １６日

　　　　　　　　　　　　　　　　　（　　蕨・早蕨・初蕨・老蕨・蕨狩　　）



子とゆくや崖跳び降りて初わらび　　　　　　　　　　沢木欣一



ティショット逸れし茂みに蕨の芽　　　　　　　　　　栗田やすし



酢のわらび夜学教師のひとり酒　　　　　　　　　　　細見綾子



ほつほつと生ふる蕨の背くらべ　　　　　　　　　　　鈴木みすず



蕨摘む鬼の雪隠見下ろして　　　　　　　　　　　　　国枝洋子



蕨採るポキンポキンと音させて　　　　　　　　　　　河村惠光



ボール探すキャディと摘みし蕨かな　　　　　　　　　山下善久



早蕨の小さき拳突き上げて　　　　　　　　　　　　　下山幸重



引売りの荷に裏山の初蕨　　　　　　　　　　　　　　中村たか



蕨摘む明るき湖を見下ろして　　　　　　　　　　　　描布光子



話し声みなこだまして蕨狩り　　　　　　　　　　　　安積敦子



丘にきて風のうごかす蕨摘む　　　　　　　　　　　 秋元不死男



出雲への峠晴れたり初蕨 　　　　　　　　　　　　　鷲谷七菜子

２月 １５日

　　　　　　　　　　　　　　　（　　木瓜の花・緋木瓜・花木瓜・草木瓜・更紗木瓜　　）



木瓜咲くや怠け教師として終る　　　　　　　　　　　栗田やすし



木瓜燃ゆるところ杜国の細き墓　　　　　　　　　　　細見綾子



降りつつむ雨の明るし更紗木瓜 　　　　　　　　　　水原秋櫻子



終活は遅々と進まず木瓜の花　　　　　　　　　　　　上杉和雄



聞き役に徹してひと日木瓜の花　　　　　　　　　　　岸本典子



風化せし寄せ墓白し木瓜の花　　　　　　　　　　　　武藤光晴



放哉の庵の跡や木瓜咲けり　　　　　　　　　　　　　小島千鶴



更紗木瓜枝にあまたのみくじ札　　　　　　　　　　　中根多子



一葉の露地にはみ出す木瓜の花　　　　　　　　　　　松本恵子



蛸壺にぼけの花さす乾物屋　　　　　　　　　　　　　河村恵光



噛み合はぬ父との会話木瓜の花　　　　　　　　　　　佐久間寿子



木瓜咲きぬ歯と飯茶碗欠けもせで 　　　　　　　　　　秋元不死男



木瓜咲いて天日近き山家あり 　　　　　　　　　　　　大峯あきら




　　　　　草木瓜





　　　　　更紗木瓜





　　　　　木瓜（桃）





　　　　　木瓜（白）

２月 １２日

　　　　　　　　　　　　　　　　（　　蓬（よもぎ）・餅草・艾草・蓬摘む・さしも草　　）



搗き終へし杵にほのかや蓬の香　　　　　　　　　　栗田やすし



西行庵十歩離れずよもぎ摘む　　　　　　　　　　　細見綾子



ふるさとの海は鳴る海蓬餅 　　　　　　　　　　　　藤田湘子



庭先の餅草摘める夕べかな　　　　　　　　　　　　矢野愛乃



道草を刈るや蓬の匂ひけり　　　　　　　　　　　　夏目隆夫



古里の土手やはらかし蓬の芽　　　　　　　　　　　菊山静枝



大利根の風をうなじに蓬摘む　　　　　　　　　　　横森今日子



身妊りし子とゆく土手や蓬萌ゆ　　　　　　　　　　吉岡やす子



初瀬川土手の餅草香り濃し　　　　　　　　　　　　廣島幸子



エプロンにくるむ蓬の匂ひ濃し　　　　　　　　　　玉井美智子



地震跡に山の日射しや蓬摘む　　　　　　　　　　　金原峰子



川上に鉄橋の弧や蓬摘　　　　　　　　　　　　　　鷹羽狩行



指先の傷やきのふの蓬摘み 　　　　　　　　　　　能村登四郎

２月 １１日（建国記念日）

　　　　　　　　　　　　　　　（　　建国記念日・建国祭・紀元節　　）



大和なる雪の山々紀元節 　　　　　　　　　　　　　　富安風生



建国の日なり榊の弓も見し 　　　　　　　　　　　　　百合山羽公



箸といふ文化が不思議建国日　　　　　　　　　　　　 林　翔



本棚のしなり気になる建国日　　　　　　　　　　　　 山下典子



常滑に香炉を買へり建国日　　　　　　　　　　　　　　新川晴美



路地裏に小さき日の丸建国日　　　　　　　　　　　　　小原米子



建国の日や連なりて飛ぶ鴉　　　　　　　　　　　　　　加藤純子



建国日黒装束の鴉かな 　　　　　　　　　　　　　　　青柳志解樹



紀元節小諸に住みて綿子著て 　　　　　　　　　　　　星野立子


がらがらと林鳴るなり建国祭　　　　　　　　　　　　 大牧 広

２月 ８日

　　　　　　　　　　　　　　　　　　（　　宝蓋草・三界草・仏の座　　）



首里はるか激戦の地に仏の座　　　　　　　　　　　栗田やすし



遠来のもののごとくに仏の座 　　　　　　　　　　　鷹羽狩行



雑草と言ふ草あらず仏の座 　　　　　　　　　　　　宇咲冬男



野に戻る父祖の畑や仏の座　　　　　　　　　　　　熊沢和代



仏の座長くる一向一揆跡　　　　　　　　　　　　　若山智子



仏の座神学生の墓の辺に　　　　　　　　　　　　　中野一灯



みちのくの残土覆へり仏の座　　　　　　　　　　　武藤光晴



仏の座抜いて窯場の土匂ふ　　　　　　　　　　　　篠田法子



塩田の跡に色濃き仏の座　　　　　　　　　　　　　鈴木真理子



赤土の畝の潰えに仏の座　　　　　　　　　　　　　中村たか

２月 ７日

　　　　　　　　　　　　　　　　（　　菫・菫草・壷すみれ・パンジー　　）



神宿る小さき棚田や花すみれ　　　　　　　　　栗田やすし



石山の裾の微風に花すみれ　　　　　　　　　　沢木欣一



屋根替への萱束干して山すみれ　　　　　　　　細見綾子



風木舎跡のすみれを師の墓へ　　　　　　　　　都合ナルミ



パンジーの鮮やか駅前ロータリー　　　　　　　福井喜久江



つぼすみれひつそり咲けり古墳山　　　　　　　松平恭代



土乾く風葬あとや島すみれ　　　　　　　　　　栗田せつ子



みどり子に兆す言の葉花菫　　　　　　　　　　小栁津民子



芦焼きの済みたる窪にすみれ咲く　　　　　　　森田とみ



罅深き猿蓑塚やすみれ草　　　　　　　　　　　奥山ひろみ



花すみれ将軍塚の裾に萌ゆ　　　　　　　　　　板谷芳子



すみれ踏みしなやかに行く牛の足 　　　　　　秋元不死男



かたまるとなくかたまりて花すみれ 　　　　　片山由美子




　　　　つぼすみれ

２月 ５日

　　　　　　　　　　　　　　　　　（　　犬ふぐり　　）



犬ふぐり海辺で見れば海の色 　　　　　　　　　　　　細見綾子



一花にも大空湛へ犬ふぐり 　　　　　　　　　　　　　深見けん二



当麻寺へどの畦道も犬ふぐり　　　　　　　　　　　　　下里美恵子



犬ふぐり戸口に石の子守り神　　　　　　　　　　　　　松本恵子



寅さんの座りし土手や犬ふぐり　　　　　　　　　　　　武藤光晴



犬ふぐり囲む馬琴の墓所　　　　　　　　　　　　　　　佐藤とみお



みどり児のかたこと楽し犬ふぐり　　　　　　　　　　　小栁津民子



牛の仔の大き泪目犬ふぐり　　　　　　　　　　　　　　井沢陽子



犬ふぐり大の字に寝て空眺む　　　　　　　　　　　　　渡辺慢房



病み上がり畑一面のいぬふぐり　　　　　　　　　　　　高橋幸子



犬ふぐり一つ見つけて百花ほど 　　　　　　　　　　　佐々木六戈



花一つ一つ眼ざめて犬ふぐり 　　　　　　　　　　　　深川正一郎