小部屋日記

映画、音楽、本…好きなものに愛をこめて・・
コメント、TB大歓迎です!

告白/湊かなえ著

2010-05-25 | 

最近、映画をみてないので久しぶりに本の感想…


愛美は事故で死んだのではありません。
このクラスの生徒に殺されたのです。


第29回小説推理新人賞受賞。2009年の本屋大賞に輝く180万部を超えるベストセラー小説。松たか子主演で映画化。文庫になったので早速読んでみました。

あっというまに読めます。
娘を学校のプールで亡くした中学校の女性教師による生徒への告白からはじまる。教師、生徒、生徒の親、級友など6つの告白による構成で、はじめはダラダラ長いのかなと思ったら、人が変わるたびにどうなるのか知りたくなり、ひきこまれていく。
結果はわかってるんだけど、そこまで到達するまでに策略があったりそれぞれの心の葛藤があったり、どんでん返しもあります。ただ読んでいて楽しくないんだよね。
娘を殺された森口先生は普通なら同情するのに変に冷ややかだし、ひねくれた生徒Aは同情できないし、KYな熱血バカ先生は浮いているし、不愉快になってくる。どいつもこいつもみなひとりよがり、自分のことしか考えてない。
ほとんどの人物に共感できないんです。
でもおもしろい。

社会派小説ではなくて、エンターテイメント小説といっていい。
強引な展開と、ばっさり切り捨てていく感覚。ありえなくてもその光景が頭に浮かんでくるんです。
容赦しないラストは衝撃かも。
えぐいシーンや凄いバイオレンスシーンがあるわけでもないのに、ホラーのように背筋が寒くなった。
人間の闇は深い。自分を正当化するためには手段を選ばない。これが現実でなくてほんとによかった。
こんな人間ばかりだったら、社会の秩序はなくなるね・・・


映画では森口先生役の松たか子はぴったり。中島哲也監督は『嫌われ松子の一生』『パコと魔法の絵本』の方ですね。
どういう映像になるか楽しみです。
6/5公開

公式サイト

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別冊宝島1649 マイケル・ジャクソン 栄光と悲劇のキング・オブ・ポップ

2009-08-31 | 

宝島チャンネル

神に近づいたエンターテイナーのすべて
PART1 革命的エンターテイナーの「リアル」を求めて
PART2 スーパースターの超弩級人生劇場
PART3 マイケル・ミュージック大解剖
PART4 全アルバム徹底レビュー+エピローグ


宝島にしてはまじめにかかれているんじゃないかな。笑
裏話として、セガの「スペースチャンネル5」の日本人クリエイターと、ゲームマニアのマイケルの交流は興味深い。毎日その人のケータイに直接電話してくるほどの熱の入れよう。
マイケルは「キング・オブ・ポップとして子供たちに夢を与えたい!」と何度もいってたと・・。新しい企画もあったようで残念。

MJゴシップ・クロニクルで、1985年にアメリカのEBONY誌が予想した2000年のマイケルの合成写真と、実際のマイケルの姿は苦笑い
まわりも本人も予想できなかったね。。

[プロの目に映ったマイケルの凄味]や[マイケルを支えた偉人たち]は、専門家の視点としておもしろかった。
振り付け師のインタビューの中で、最後のリハ映像みて、お猿さんぽいリズムの取り方(笑)は昔と変わってないとか、マイケルのダンスは動物に影響された動きが多いというのは初耳。生活をともにした動物たちにもインスピレーションうけてたんだろうか。

全アルバム徹底レビューは、参考になります。
特にジャクソン5時代の曲はライターの思い入れが感じられて、資料としていいかも。

対談でラジオパーソナリティの女性が、ルックスが好きになった外人はマイケルがはじめてというのは、私も同じ。BADのPVみてこんなかっこいい外国人がいることに衝撃うけたもんなあ。
歌&ダンス、生き様、こんなにひきつけられるアーティストはもう出てこない。
エホバの証人についてのマイケルの語りもはじめて知った。
宝島らしい読み応えありました。

"Never Can Say Goodbye"
19歳のマイケル、気持ち良さそうに歌ってるにゃ



現代思想2009年8月臨時増刊号 総特集=マイケル・ジャクソン

2009-08-13 | 


人種・年代・性別・宗教・階級・・・・・・ すべての垣根を超え、世界を魅了した〈キング・オブ・ポップ〉はいかに生まれ、どんな夢を振りまいたのか? マイケル・ジャクソン――その波乱に満ちた生涯と作品の輝き、そして駆け抜けた時代の意味を探る。

マイケル追悼書籍、これが5冊目。もう止まりません
今まで読んだ中では、記事としてはシンコーミュージック、写真はLIFEがよかった。
現代思想の内容は、ジャンルのちがう29人の知識人がマイケルについて語る。
音楽評論家はもちろん、アメリカ文学者、文化研究、社会学、黒人史を研究されてる方など視点がみなちがって幅広い。
思った通り、数人の方の記事はイライラさせられる。
逆にマイケルが好きな人は文章に愛が感じられて、いい記事書いてますね。

マイケルがアメリカ先住民族に絶大な人気があったということははじめて知った。人種の壁を乗り越えていった偉大な人、尊敬すべき人だと。
NYで取材した筆者に「いい記事が書けますように」と声をかけてくれた黒人女性は清々しいね。

「BAD」がシュールな絵に符号するとか、マイケルの身体そのものが多文化国家アメリカのキメラ的成り立ちだとか(!)、高尚すぎて自分にはわかんない箇所も多かったっす。。
それぞれの記事の注釈に参考文献がのってるのは興味ある人もいるんじゃないかな。
1960年代に黒人になりすましてアメリカ南部に潜入した白人ジャーナリストの本は読んでみたい。
MJを語る時には人種、ジェンダーは必ずついてまわる。

内田学さんの記事は共感できた。
“Black Or White”の放映禁止になったパンサーダンスの意味、マイケルの人となり、“We Are The World”でマイケルが目指したものは説得力あった。
筆者が晩年に残した曲で感動させられたのがアルバムリリースされなかった“Beautiful Girl”という曲。調べたらアルティメットコレクションに入ってるのね。昨年タワレコでひとつみつけて、あの時買っておけばよかった。。。
バラードなんだけど、コーラスの最後の部分がいつも転調になるという楽曲。
Michael Jackson - Beautiful Girl



マイケル作詞作曲、力が抜けたような歌い方でなんともきれいな歌。
2001年のアルバム「Invincible」orその後の未発表曲らしい。デモにしては完成された作品でボツとは・・・。
こういう曲をもっと聞きたかったなー。

現代思想公式サイト

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マイケル・ジャクソン裁判 あなたは彼を裁けますか?

2009-06-07 | 

アフロダイテ・ジョーンズ (著)
押野素子 (翻訳)

史上最大のポップスター裁判の実態に迫る話題のベストセラー、遂に日本上陸!
もしあなたが、著名人の裁判で裁判員に選ばれたら…
メディア報道に流されることなく、正しい答えを導きだせますか?


2005年のマイケル・ジャクソン裁判で、かつて反マイケルの偏向報道をしてきた有名ジャーナリストが徹底取材を重ねて辿り着いた真実。

真実を知りたい人はぜひこの本を読んでほしい。裁判の証拠資料、謄本に基づいていて検察側、弁護側の証人の証言も詳しく書いてある。
裁判がすすむにつれ、検察側がいかにいいかげんな捜査をしてるかがわかる。
こんなくだらない裁判に躍起になる警察、検察、マスコミはバカじゃないの!と思った。
個人のライフスタイルまで踏み込んで、さらし者にしていいんだろうか・・。
検察側の証拠写真も載っていて、マイケルの顔がわざと写りの悪いものになってる。トホホ
世界遺産といってもいいスーパーアーティストを破滅に追い込もうとする悪意が許せないですよ。
アメリカのガセ情報をそのまま流した日本のマスコミも責任あるね。

まあ成人男性が他人の子どもと一緒に寝ることが奇異にみえるのもわからんでもないけど(子供たちがマイケルと寝たがった)、きちんと調べもせずに犯罪と結びつけるのは行き過ぎ。
告訴した少年一家がマイケルを貶めようとしたことが無罪判決(陪審員全員一致)につながったのね。

マイケルがなぜ子どもにこだわるのか?
天才でありステージしか知らないスーパースターのマイケルの人生哲学は、一般人には理解できないかもしれない。
でも彼が純真、優しい人間であることは間違いない。
マイケルのまわりには大人も子どもも金目当ての悪党ばかり、呆れますよ。
たかってくる人間がいかに多いか。

マスメディアの標的にされたマイケル。
でたらめを鵜呑みにすることは危険なことだね。
この裁判の陪審員たちは雑念を払い、証拠資料、証言に集中したという。
日本も陪審員制度がはじまったけども、人を裁くことは自分も試されることだと思った。

マイケルはたまにマスコミなどを批判する曲を書くんですが、アルバム「ヒストリー」の中にある「Tabloid Junkie」You Tube でも“情報を鵜呑みにしないでくれ”と歌ってる。
↓「They Don't Care About Us」という曲でもむかついてるね。笑 
Michael Jackson - They Don't Care About Us (Prison Version)


ミュージック・ビデオの監督はスパイク・リー。
歌詞に人種差別用語が含まれていたことで、話題になった曲(あとで謝罪)
2バージョンあって、プリズンバージョンはMTVで暴力的ということで放送されなかったバージョン。マイケルのパワフルな声がいい。エレキギターの部分は「Black Or White」みたい。



〈本〉P.S.アイラヴユー

2008-08-15 | 
セシリア・アハーン著 
林真理子訳

“君はひとりでは生きていけないとぼくに言ったね。でもきっと生きていけるよ、ホリー。ぼくは君の人生の中の一章にすぎない。これからいくつもの章が続くはずだ・・・・”
夫の死を受け入れられず、絶望にくれるホリーに届いた、亡き夫からの手紙。
それがすべての始まりだった。
 
(小学館公式サイト)

全世界で500万部ベストセラーの原作を林真理子が翻訳。
文庫本になって発売されたので、早速読んでみました。
著者は元アイルランドの首相の令嬢。先日、朝日新聞に彼女のインタビューが載ってましたね。21歳の時に書いた本作がデビュー作。いきなりベストセラーになり、現在5作を発表し、2作品の映画化が決まってるそう。
表紙がハーレクインロマンスのようで、普通ならぜったい読まないジャンルですが、映画化されたことと林真理子が翻訳ということで興味をもちました。

主人公ホリーは30歳で未亡人になり、悲しみにくれる毎日。仕事もやめてしまったので、貯えはどんどんなくなっていく。友人や家族の慰めも彼女にとっては苦痛になる。
そんなホリーのもとに亡き夫ジェリーから届いた10通の手紙。
そこには夫から妻へのメッセージ〈リスト〉が書かれていた・・

林真理子のあとがきでも書かれているように、著者のはじめての小説ということで、いらない会話が多いしシーンもある。
友人や家族の話がメインで、恋愛ものを期待するとアレッ?と思うかも。
悪くはないけど、コンパクトにすれば読みやすかったのに・・・
前半はまったりでも、後半はあっというまに読めました。
10通の手紙は、読んでるこちらもホリーのように1通ごとに期待してしまう。
手紙を読みながら“夫がそばにいる!”と涙するホリーには共感しちゃいます。
最後の10通目の手紙は泣けた・・

人生の中で大事な人を失うことは誰でも経験すること。ホリーのようになかなか立ち直ることができず、自己嫌悪に陥る人もいるでしょう。それは当たり前のこと。
ひとりの女性の再生物語でもあり、毎日が辛くても幸せだった思い出は心にしまい、勇気をもって前に進んでいかなければならない。
いざとなると支えになってくれる家族、友人は大事にしたいと思いました。
パーティーのシーンで、独身者は片身の狭い思いをするところは日本人にはわからないことだよね。ダブリンらしい情景も味わえます。


映画は10月18日全国拡大ロードショー (公式サイト)

ホリー役にヒラリー・スワンク、夫ジェリー役にジェラルド・バトラー。日本語版主題歌に、徳永英明の「小さな祈り~P.S.アイラヴユー」が決定。
この映画に感銘を受けた徳永自らが書き下ろしたオリジナル曲とか。
どんな曲なのか、早く聴いてみたいですねー。



「不動心」松井秀喜著

2007-10-23 | 


「心の構え」で挫折は力に変わる。

松井秀喜のファンなら、必ず手に取ってる本・・・
購入してサッと目を通したままでしたが、やっとしっかり読みました^^;
難しい言葉ではないので、すいすい読めます。
昨年の5月の左手首の怪我を境に今までの野球人生、松井本人の人生を綴った手記。
野球以外にも学べることが多く書かれてますので、ファンでない方でもおすすめですよ!
今後の人生についての糧になる本だと思います。


星陵高校、巨人軍、ヤンキース・・・
いつも光の中を歩いてきた松井。
でもわれらと同じ悩み、葛藤、弱さもみせるけど、周囲の人の励まし、教え、そして人との出会いによって、現在の人間松井が形成されたのです。

コントロールできることと、できないことを分けてる松井。
コントロールできないものの中には人間の心がある。
でも動かせることはできるはず。
「僕ががんばれば、ファンは励みにしてくれる」
この世でもっともコントロール不能な『人の心』を動かしたい。
出来ないことに気を病むのではなく、出来ることを精一杯やろう。


まじめすぎるけど(笑)松井の飾らない人柄が文章から伝わってきます。
率直だし、心がこもっている。

野球に関してはパワー、技術よりも大事なことは精神面、努力の継続。
そしてプロとしての心構えとこだわり。
過酷なメジャーの世界で生き抜くためにはどうしたらよいかの知恵ですね。


すべては野球のために費やされる人生の中で癒された、昨年の真夏のタンパ(フロリダ)の海の情景は、私もどんな海か観てみたいです。

「努力できることが才能である」
優等生ぽい発言を堂々と言葉にする松井は、並の人間ではない^^
周りに感謝し、謙虚であることの重要さを松井から教えられました。

※恋愛に関してはコントロール不能なところも松井らしいっす^^;


スティーブン・キングの本&映画

2007-07-15 | 
好きな作家スティーブン・キングの本と映画の紹介。

「トム・ゴードンに恋した少女」
スティーヴン・キング/著  池田真紀子/訳

モダン・ホラーの帝王スティーブン・キングの中編作。
物語はとてもシンプル。
過酷な自然に立ちむかう少女のサバイバルもの。
両親が離婚したばかりの9歳の少女トリシアは、森の中でひとりはぐれてしまった。
彼女の唯一の支えはウォークマンから流れる野球中継。
ボストンレッドソックスのリリーフピッチャーのトム・ゴードン(現フィリーズ)の大ファンなのだ。

食料もつき、虫と戦いながら体はぼろぼろ。失神もしちゃう。
歩くことも不可能と思えるのに、空想の中のトム・ゴードンが彼女を勇気づけてくれる。
喧嘩ばかりしていたママと兄が嫌いなはずだったのに、「ママに会いたい、兄に会いたい」と一人泣くトリシアの姿は痛々しいけど、子供の生命力の強さも感じます。
都会っ子のトリシアが、知恵だけで生き延びようとするところは読みごたえがありますね。

ホラーではないけれど、森の中にひそむ何かはキングらしい描き方(何者かは予想はつきますが・笑)
感動的な終わり方もよかった。
「一章」「ニ章」の代わりに、「試合前」「一回」「ニ回」となっているところがにくい。
自分がトリシアだったらと思うと、ゾッとしますよ。森なんてぜったい行かない!!
リアルな描写はさすがキングです。


「1408」(2007/アメリカ)


キング原作の映画が最近全米で公開!
ジョン・キューザック&サミュエル・L・ジャクソン主演のサスペンス映画「1408」が、6月22日~24日の全米週末興行成績2位に登場。
監督は、日本ではビデオスルーとなった「すべてはその朝始まった」のミカエル・ハフストローム。
超常現象を専門に手がけているライターの主人公が、幽霊が出ると恐れられている“1408号室”に宿泊する・・・・。

予告編↓



キングものは当たり外れが激しいけれど、このキャストはそそられます。
日本での劇場公開はあるかなあ。

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「奇術師」クリストファー・プリースト (著)

2007-05-28 | 
The Prestige
クリストファー・プリースト (著) 古沢 嘉通 (翻訳)

6月に公開される映画「プレステージ」の原作、クリストファー・プリーストの「奇術師」を読みました。
1995年度世界幻想文学大賞受賞作品。

長編のわりにはサクサクよめました。
映画化されるのも納得のおもしろさ!
若干映画は内容を変えてるのかなあ。
つくりはミステリー、ラストは幻想的で私は好きです。
現代から過去に戻り、また現代に戻る話。

舞台はイギリス。
語り手は現代に生きるアンドルーというジャーナリスト。
彼はずっと自分は双子の片割れではないかと感じていたが、自分には双子は存在していない。
取材でケイトという女性と出会う。
二人の祖先は“瞬間移動”を得意演目としていた、20世紀初頭の天才奇術師で、生涯ライバル関係にあった。
お互い認めあいながらも、憎みあっていた間柄。

アルフレッド・ボーデン、ルパート・エンジャ。
この二人の奇術本、手記から恐るべきイリュージョンバトルが明かされる。


まず手品という題材がおもしろい。
100年以上前から人間の移動などの奇術はあったのですね。
手品師は、人生の全てをかけて仕事してるのです。
ボーデンとエンジャはともに優秀なマジシャンだが、二人の間には諍いがたえないのだ。
まあネタの探り合いもあり、それが家族にまで影響をおよぼすと、だまってられなくなるのも事実。
アシスタントをスパイとして送り込んだり、卑劣なやり方。
奇術師は観客を惑わせたいという願望が強く、強迫観念にとらわれていますね。
名声を得るため、マジックにとりつかれた男たちの物語でもあります。
瞬間移動装置を開発するテスラという発明家が登場しますが、実在の人物とのこと。

エンジャの“瞬間移動”〈名付けて・・・閃光のなかで〉がとんでもないマジックなのです!!!!(@_@)
現実離れしてますが、ここから予想外な展開。
全体にイギリス的なダークな味わいで、原作者クリストファー・プリーストのほかの作品も読んでみたいですね。

映画ではボーデンを「バッドマン ビギンズ」のクリスチャン・ベール。
エンジャ(映画ではアンジャー?)を「X-MEN」のヒュー・ジャックマン。長身が舞台に映えて似合いそう
監督は「メメント」のクリストファー・ノーラン。
あとがき(2004年当時)によれば、主演はジュード・ロウとガイ・ピアースになっていたので変更されたのですね。
原作と見比べて観たいです。でも読まない方がよかったかな^^;

「プレステージ」公式サイト

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「ハンニバル・ライジング」読了

2007-04-12 | 

上、下巻 トマス・ハリス (著), 高見 浩 (翻訳)


ハンニバルシリーズ第4弾。前作から7年ぶりの最新作。
「羊たちの沈黙」が傑作だったので、それ以降シリーズはかかさず読んでます。
『ハンニバル』のラストはとても衝撃でしたねえ(映画では残念ながら変更されてました)
前作に比べて短いので、ボリューム感がなくどんどん読めてしまいます。
深く味わいながら読みたかった。

リトアニアの貴族の末裔として生まれたハンニバル・レクターの8歳から18歳までのお話。
いかにして「人間」から「怪物」になったのか。
第二次大戦によって家族を奪われ、特に妹のミーシャへの想いは強く、彼女の命を絶った人間たちへの復讐物語。

レクターの幼少期はかなり悲惨・・・
怪物になったのもわからなくはないが、もうひとつこちらに伝わってこない。
復讐される人間たちも、地獄におちるような人間ばかりでしたね。
レクターは、まだ人間らしい感情もあり序章にすぎない。
本格的な怪物になるのは、もっと後かも?

レクターの後見人、初恋の相手ともされる日本人女性紫夫人との心のつながり、レクターをおいつめようとする警部、大戦後のヨーロッパの殺伐とした様子など、アメリカが主な舞台だった過去のものと趣がちがいます。
特徴としては日本趣味があちこちに出てきます。
トマス・ハリスは日本文化をよく勉強してますねえ。
まさか和歌がでてくるとは思わなかった・・・

でもなぜ日本なのか・・・という気も^^;。
欧米人からみると、マイナーな事柄がでてくるので、原書では注釈があるのでは?
映像化すると、かなりキテレツなものを想像しますが、映画は大丈夫かな?汗
脚本をトマス・ハリス自身が担当してるせいか、プロダクションフォト、トレーラーを観ると、原作に忠実みたいです。

レクターの頭の中にある“記憶の宮殿”の成り立ちも出てきます。
青年になり、優秀な医学生で人体解剖に異常なこだわりを持つ。人間の体が美しく思えるのね。
絵心があり、いろんな分野に興味があるのはダ・ヴィンチを思い起こさせる。
天才と狂気は紙一重なのかもしれない。

全体に言葉足らずな印象でした。
寡作家のハリスなので、何年後になるかわからないけど、次回作に期待したいと思います。
映画はもうすぐ公開。
レクターを演じるフランス人俳優ギャスパー・ウリエルくんは熱演してるとのこと。
母国語でない英語にチャレンジしてます。楽しみ~♪



「ハンニバル・ライジング」公式サイト

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「生きながら火に焼かれて」

2006-06-30 | 

スアド/著 
松本百合子/訳


今日は久しぶりの本のお話。
少し読んだら気分が悪くなったほどの衝撃的な内容。
文庫化されたので購入しましたが、一気に読んでしまいました。
時代錯誤の因習、掟は21世紀の今でも世界に存在する。
女性に対しての男性による暴力、親がいとも簡単に女の子を殺すのです。
信じられませんが、これは一人の女性が命をかけて告発した真実の出来事です。

●ストーリー●
今から25年前の中東シスヨルダンの小さな村で生まれたスアド(仮名)は、幼い頃から働かされ、日常的に父親から虐待されていた。
17歳の時に恋をし、子供を身ごもるが、家族の名誉を汚した罰として義理の兄によって火あぶりにされる。
人道団体〈シュルジール〉で活動をしているジャクリーヌらによって奇跡的に救出され、ヨーロッパに渡る。
重度の火傷を負うが男性と結婚、子供にも恵まれるが、時折襲ってくる“鬱”と戦いながら、ジャクリーヌのすすめで本を出すことになる。
世界中の人たちにこの現実を知ってもらうために・・・


女性として生まれたばかりに奴隷として働かされ、家畜以下の生活を強いられる。
スアドの兄弟も14人いたはずが9人しかいない。
人知れず消えていく女の子、理由は家のためにならないから。
なんと生まれたばかりの女の子を母親が殺すのを目撃したスハド。
いつか自分も親によって殺されるのではないか・・・恐怖と隣り合わせの生活をしているのです。
驚くのは、成長するとともにスアド本人もここでは普通のこととして受け止めていることですね。
考える行為、選択する権利もない。
環境に慣れてしまい、女性は男性に服従するものと教えられてること。

そして年頃になれば恋もする。危険とわかっていてもこの思いは抑えられない。
だが不幸は訪れるのです・・・・その悪夢の中で未熟児で子供を産むのですが、運良く人道団体に助けられ、スアドはこの子供とともにヨーロッパに渡る。
子供は里親に預けられ、懸命に生きる彼女にすてきな男性が現れ、結婚そして二人の女の子が誕生。
第二の人生をおくるのですが、悲惨なやけどの跡、外を自由に歩けないストレス、そして火への恐怖で鬱状態に陥るスアド。

しかし、本を出版することになり、自分の忌わしい過去と向き合うことで、スアドの中で変化が生まれるのです。
「名誉の殺人」の数少ない生き残りとして、世界中の人たちにこの野蛮な行為を知ってもらうために勇気をもって彼女は証言したのです。
一生、魂の休まることはないだろうと思いますが、自分で運命を変えてやろうとする強さに感銘。

まるで中世の出来事のような、このような事件は現在も年に6,000件報告されてるそう。
これは明確な数字ではないですけど。
「名誉の殺人」(honor killing)と呼ばれる素行の悪い娘を家族が殺害する行為は、中東地域、アフリカ、インド、パキスタンなどに分布。
運良く世界中に逃げても親が追ってくることもあり(恐ろしいです・・・)
彼女らは息をひそめて暮らしているのです。
スアドももちろん名を偽り、顔も出せません。

あまりにも悲惨な行為に、憤りと地球上には我々の知らない因習がいっぱいあるということを知ったことですね。
そしてスアドは今は母親を許すことができるといっています。
今もあの土地にいたのなら、母親と同じことをするだろうと・・・
その土地が本来の常識を越えてしまうのでしょうね。

最後にスアドが言う。
自分を愛することができれば人も愛せる。
困難なことがあったら誰でもいいから人に話すこと。そして希望を持つこと。
スアドは日本での出版で来日をしています。
あとがきには日本のみなさんへの愛のメッセージが添えられていますよ。
いつかマスクをとったスアドが見られることを祈うばかりです。

人道団体シュルジール(本部:スイス)