ピーター・バラカンさんの声を朝・聴けなくなったのは残念だが、そのあとインターFMで今放送されているヴァンスKさんのDJはすがすがしく心地良い。
この人の語りには、無理強いや嫌味のない明るさと楽しさと優しさがある。
自ら演奏するウクレレ、そこにハワイのおだやかさが漂う。香ってくるようなものを感じる瞬間がある。
数少ない外国に行った経験の1つがハワイ。それも撮影という仕事。
実は、個人的旅行で海外に行ったことは一度もない。
ハワイ行きは、仕事の計画を何とか正当性を持って練り、周囲の説得を通して獲得出来た一週間の滞在だった。まだ仕事に対して熱い心を持っていた頃。
ヴァンスKさんの放送を聴いていると、あのときのハワイの鮮やかで優しい自然の色・おだやかな波の音・光の純度を想い出させてくれることがある。
ハワイというと、中心地は日本観光客ばかりで、”いったいここはどこ?”という、海外でやりたい放題連中のひどい状況を見た。
しかし、この一週間の旅は、そんな観光客用場所とは無縁のひとけないところ。
ほとんど人が居なかった場所たちには、その空間の広さ・空の広さを感じた。
家を借りて、そのオーナーの親族の家を巡り歩いて、撮影兼宿泊をした。
食事はみんなスタッフで買い出しをして料理を作って食べていた。
家の庭がそのままビーチになっていて、人っ子一人いない、というお家でも撮影と宿泊をした。
そこはマライア・キャリーがお忍びで休暇を過ごす家だとも聞いた。
着いた当初、色と光の世界に魅了されっぱなしだった。
デジタルカメラではない、愛用の街歩き用であるリコー・コンパクトカメラでシャッターを切り続けた。
毎朝自然の光と音で目覚める。そのとき驚いたのが、鳥たちが本当に歌うように/しゃべるように、朝日にうれしそうに鳴いている声だった。
今でも鳥たちがうれしそうな風景や声を聴くことはあるが、この朝の出来事は不思議な経験だった。
ただ、日に日に仕事が進み、家を転々としていく間に、疲れが出てきた。
幸せな楽園に居て、ほんとうは疲れなんかないはずなのだが。疲れというよりは恐れである。
来る日も来る日も、ひたすら空は青く、大きなヤシの木が揺れている。海は時間と共に色を変えては輝いている。バナナボートを漕ぐ人たちの姿が見える。
日が昇るのは早く、夜の方は8時を回ってからでないと暗くなって来ない。
ときおりスコールが通過するが、それも大した降り方でもなく、あっという間に元に戻る。基本的に”変化”というものが見えにくい。
次第にその楽園に怖くなっていった。四季もなくすべてが美しすぎることに対して。毎日毎日すべてが美しくおだやかであることに、奇妙なうずきを感じるようになった。
この永遠はいつまで続くのであろうか?そこから考えて行くと、過去から未来に向かって時を止めたその楽園ではずーっとこうだったし、今後もこうなのだという事実。
ハワイに移住される方も多く居るが、私がもし移住したら、すぐにボケてしまうだろう。そう分かった。
また、楽園は永遠に続くだろうが、その美しい世界で、人ひとりがいかにちっぽけな存在であることかと気付いた。
キミのことなんか気にしていないよ、とばかり大きくヤシの木は揺れ続け、見下ろされる自分。
髪を振り乱す巨大鬼のようなヤシ軍団。時計なんかじゃ時は測れるもんか、この永遠の楽園ではどうせキミなんか・もうすぐ死んでしまうんだからね、とカラカラとヤシは笑っていた。
そこから無性に日本に帰りたい、東京に帰りたい。そんなメランコリーな気持ちになった。
このハワイへの旅にどんな音楽を持って行っただろうか?と振り返る。砂原良徳さん・久保田真琴さん・・・・そうだった、と想い出す。吹き抜けの大広間、みんなで作ったご飯を食べながら、持参したCD「アンビエント・ハワイ」を掛けた。
音楽にうといスタッフの一人に「こういうゆるい音楽が好きなんですか?」と訊かれて笑った記憶がある。
日本に帰った後、セレクションCDを作った。しかしそれは1年半後、ハワイ熱がなかなか去らない中、2002年夏につくったもの。
今日、このクニのこの夏の異常さを離れてしまおう。
そんな気分になれた一日だった。
それはヴァンスKさんのおかげでもあるが、それだけでもない。このクニのねごとに付き合っているヒマはない。そう吹っ切れたからである。
尋常ではない今年の猛暑。帰り道、なじみのねこたちはペッタリコンとつべたいタイルに貼りついていた。余計な動きは余計なエネルギーを使う。今夜はカリカリはやめておいた。
どんな手段を用いても多くのなかまたちが、この暑さをしのいでくれることを祈る。
■アンビエント・ハワイ(久保田真琴・サンディー)■
今夜、汗かいて探したが、当時ハワイに持って行った「アンビエント・ハワイ」のCDが見つからない。そんな折、この探しているCDまでyoutubeにアップされている2015年。
出来たらちゃんとお金を払って、このCDを買って欲しいのが本音だが、今夜の暑さを少しでもしのげれば、と大事ななかまにだけ、暑中お見舞いとしてささげる。
リズムもビートも要らない世界にたゆたう快楽。