怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

小田嶋隆「上を向いてアルコール」

2023-10-03 08:34:06 | 
コラムニストの小田嶋隆さんは30代にアルコール依存症で治療を受け、以来酒を断っている。
アルコール依存症は完治は難しくて、アルコール依存症の人が酒をやめている状態というのは坂道でボールが停まっているみたいなもので、断酒中のアルコール依存症に過ぎない。
それでも小田嶋さんは断酒治療を始めてから酒を飲んだことは一度だけみたい。その時は後悔しつつそれ以来怖くて二度と飲んでいない。
アルコール依存症に関する本というのはなだいなだを始めとして医師が書いたものはたくさんあるのですが、アルコールをやめて生活を再建した人が書いたものはあまりないような印象です。これはアルコール依存症が完治することがないという厄介なものだからだと思います。アルコール依存症を克服したと思っていても1杯のお酒からアルコール漬けの世界に舞い戻ってしまう例はたくさんあるそうで、余裕をもって体験談を書くのは難しい。その面ではこの本は結構稀有な記録かもしれません。

なんでアル中になるかとよく問われるのですが、酒を飲みだすのはただ何となくで、仕事のストレスとか離婚した時のショックとかいろいろ言うけれどそれは後付けの理屈。
まあ、理由もなく飲みすぎてアル中になりましたでは説明にならないのですが、実際はそんなもんかもしれません。酒を飲めば現実逃避できるかというと逃れられない。酔っていると言うことにして弁解はできますけど、嫌な気分の時に酒を飲んでももっと嫌な気分になるだけ。
じゃあどうして飲み続けてアル中になるのかというと依存症になりやすい体質があるとか。遺伝的なアルコール分解酵素の有無とか組あわせでないかともいわれているのですが、これは必ずしも定説ではありません。
30代になって酒を飲んでいろいろ不都合な事実が頻発し来るのですが、アル中は否認の病で客観的な証拠が揃っているのにオレはアル中ではないと言い張る。毎日は飲まないとかこの間1週間は抜いたとか言って自分は違うと思っている。病状がかなり進んで連続飲酒の後に何も食べられなくなり水も飲めなくなるので病院に点滴に通っていた。点滴をすると脱水症状が改善して水を飲めるようになると体調が落ち着いて、すぐに飲んでいる。
それでも連続飲酒発作を繰り返しながらついに幻聴が聞こえるようにまでなり、評判のいい心療内科にかかり公式にアルコール依存症という診断をもらう。このままだと40になれば酒乱、50で人格崩壊、60になるとアルコール性脳委縮で死ぬと言われる。.
その時医師からあなたはインテリのようだからもしかしたら治るかもしれないと言われ治療が始まる。
どうしてかというとアルコールをやめると言うことは我慢し続けるとか忍耐を一生続けるとかいう話でない。酒にない人生を一から設計し直すと言うことで、えらい人工的な営為であり、知性のない人間ではできないこと。
音楽を聴くとか、小説を読むとか全部酒がある場面酒を飲みながら楽しんでいるのだが、飲まないで聞く音楽の楽しみ方を自分で考えなくてはいけない。これは考えるだけでも結構大変。酒を飲んでいた頃に付き合っていた人とは関係は消滅してしまう。酒をやめてからの人格と言うか集団の中の関係性、立ち位置を再構築しなければいけない。小田嶋さん曰く酒をやめるってどんな気持ちかというと酒をやめた男の気持ちが知りたければ翼を亡くした鳥に話を聞いてみれば教えてくれると思うよと答えている。
アル中治療の最初は薬物療法ですが、ソフトランディングさせて、それからが本番。
それでもさすがインテリの小田嶋さん、何とか酒を断ち切れのいいコラムを書き続けてきた。それでもこうしてアル中時代のことを客観的に書けるまでには20年の時が必要でした。
ところで小田嶋さんほぼアル中時代にもコラムを書いていたのですが、酒があるので書けたのか?太宰治、永井荷風、檀一雄、開高健、中島らもと斗酒をも辞さない酒徒として知られているのだが、酒を飲むことは文章を書くことの助けになるのかと言うことについては明快に否定している。酒がアイディアをドライブさせるなんてことはあり得ないと。赤塚不二夫が一番働いていい仕事をしていた時にはそんなひどい酔っぱらいではなかったのだが、いい作品を作ったおかげでお金が入ってきて生活がぶっ壊れて酔っ払いになったと言うのが話の順番。太宰治は心がきれいすぎるから傷つきやすくアル中や薬物依存になったと言うのはふざけた話で、太宰治が傷つきやすかったのは心が汚かったから。そう言われると明快ですっきりします。
私はもう50年以上酒を飲んでいますが、一応今でも休肝日は週二日入れていますし、最近ではめっぽう弱くなって自己規制してしまいますが、これは体質的に依存体質になりにくかっただけかも。
一応自分的には依存症を否認していますが、この本を読んで改めて自己チェックしなければと思う次第です。

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