怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」山田昌弘

2020-12-19 06:54:16 | 
大変刺激的な題名ですが、確かに合計特殊出生率はいまだ低め安定していますし、最近のコロナ禍ではさらに下がるかも(著者もコロナ禍の影響は注目していて、少しあとがきで触れています)しれません。

山田昌弘先生はパラサイトシングルの言葉を造語、世に広めた人ですが、その頃より少子化対策についていろいろなデータに基づき分析、提言をしてきました。まあ、日本はありとあらゆる調査データがあるものだと感心していましたけど。
日本は合計特殊出生率で言えば、もう30年以上1.6を下回っている。さすがにこれではいけないと少子化対策なるものを行ってきているのだが、一向に成果は見えない。欧米諸国からは何と能天気な国かと思われ、少子化が止まらないなら(ドイツやイタリヤのように)移民を受け入れることをしないと国の将来どうなるという感想。一方東アジア諸国は日本を追いかけている面もあって、日本のようにならないためにはどうすればいいのかという関心が強い。どちらにしても結果から見れば当然ですが、日本は失敗したとの見立てです。
ではなぜ日本の少子化対策は成果を上げられなかったのか。
まず原因分析としては、要約すれば
①未婚化を問題にしてこなかったこと(当初は未婚化よりも晩婚化ととらえていたことと未婚化への政策対応が非常に難しいので触れたくなかった…個人的にもそこまで行政が踏み込んでいいのかという感覚はあります)
②経済的問題を軽視してきたこと(本気でやろうとすれば政策的には膨大な経費が見込まれ、かつ取り様によっては貧乏だから結婚できないのか、結婚差別的認識と言われかねない)
の2点。日本の少子化対策はこの原因にまともに対応していなく、そこにはいずれは世界は収斂するだろうと欧米モデルを日本に当てはめようとしたことにありそうです。
日本の少子化対策はモデルはスウェーデン、フランス、オランダなのですが、そこには日本と大きく違う家族観・価値観・慣習があります。
具体的には①子は成人したら親から独立するという慣習
②仕事は女性の自己実現であるという意識
③恋愛感情を重視する意識
④子育ては成人したら完了という意識
ところが日本では、生活上のリスクを回避すること、世間体を保つこと、子どもをよりよく育てることの優先順位が強い。子の自立意識が弱く、現実に18歳から34歳の未婚者の約75%が親と同居、親の家を出て同棲なり結婚して新しい生活を始めることは経済的に苦しくなる。さらに仕事による経済的自立が女性に求められておらず、仕事=自己実現という意識も弱い。このことは子育てと共働きの両立支援があまり効果ないことを示す。そもそも国の施策は大卒、大都市居住、大企業正社員のキャリア女性ではなく圧倒的多数のそれ以外の女性(大卒でなかったり、地方在住だったり、中小企業勤務や非正規雇用者)に届くものにしなければいけないでしょう。でもいろいろな審議会で委員になるのは高学歴エリート女性ですし、大きな声になるのはキャリア女性対象の施策ですけど。
現代日本の少子化の根本には経済格差が拡大しているにもかかわらず、大多数の日本の若者は中流意識を持ち続け、「世間並みの生活」をし続けたいと思っていることにある。今の若者の親世代は高度成長時代の生き残りで経済状況は比較易恵まれており、そこそこの資産を形成し、中流生活を送っており、そこにパラサイトしている若者も中流生活を送っている。でも若者一人で生活しようとすれば格差社会の中で非正規であればたちまち下流生活となる。将来を見据えた中流生活の保障がないので「男女交際」さえも始められない。
と言うことは、若者の将来の経済状況、中流意識を期待する意識、そのどちらかを大きく変える政策を取らなければ、少子化は解消しない。
今の若者をカテゴリー化すると結婚、出産を避ける層は「親が比較的豊かな生活水準を保っている」のに「自分が将来築くことができる生活は、親の水準に達する見通しがない」若者たち。この層が増えているのが少子化の原因との山田先生の見立て。
では少子化対策としての処方箋はというと
①結婚して子供を2~3人育てても、親並みの生活水準を維持できるという期待を持たせるようにする。
②親並みの生活水準に達することを諦めてもらい、結婚、子育てをする方を優先するようにする。
でも、どちらもちょっと考えただけでも難しい。格差拡大を阻止して、平等社会を築くのは政権交代どころか革命でも起きないと難しい。世間体意識を変えるということは具体的方策がなかなか思いつかないし行政が立ち入る範囲かという議論もある。
具体的な施策として、山田先生が挙げているのは地方自治体による結婚支援サービス。最近政府がAIを使ったカップリング事業に予算をつけたということですが、行政がやるべきかという議論はあるし、意識を変えるにはずいぶん迂遠な施策の気がします。
でも昔ながらのセミプロ仲人さんもいなくなり、見合いなどと言うことも絶滅危惧種となり、職場での出会いも減ってくるとなるととにかく結婚する若者を増やすには必要な一歩なんでしょう。とにかく婚外子が少ない日本では結婚する人を増やすのが一番の少子化対策と言うことです。
パラサイトシングル論以来の山田先生の持論を今の時点で集大成したものでしょうけど、豊富なデータの裏付もあって説得力があります。エッセンスだけの拙い要約になりましたが、詳しくはぜひ一読してもらえばと思っています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする