怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「日本人の勝算」デービット・アトキンソン

2019-12-07 08:11:19 | 
デービット・アトキンソンさんの新著では、人口が減少していき、高齢化が進む日本の将来への強烈な危機感とそれでも日本が生存していける戦略があることを示しています。

今までも人口減少と高齢化する日本に対していろいろな提言をしているアトキンソンですが、この著書では118人の外国人エコノミストの論文やレポートをもとに、ターニングポイントにある日本経済を維持・成長させるためにはどうすればいいか考察しています。
これからの日本が確実に迎える人口減と高齢化に対する危機意識は強烈です。日本は少子高齢化と人口減少問題を同時に考えなくてはいけない唯一の先進国であり、それは強烈なデフレ要因となる。そして唯一なだけに世界のエコノミストの分析も対策提言もほとんどないのです。
デフレ対策としての金融政策は効かなくなっていて、人口減少下では需要は減少し、供給過多になるので、量的緩和は効果はない。高齢化についても同様に効果はない。
人口減少と高齢化の中で、今の日本の社会保障水準を維持するためには、GDPを維持する必要があるのだが、そのために必要なことは継続的な賃上げ。では、それをどうやって実現するのか。
それには先進国中最低レベルの労働生産性(世界第28位、イタリアが34位で、スペインが32位)を上げること。実は日本の労働者の人材評価は世界の一流で世界的な評価機関の評価では、日本の労働者の質は世界第4位。生産性と人材評価との差は今まで通りの行動原理を替えようとしない経営者の問題。政府が政策として高生産性・高所得資本主義に転嫁し、企業を主導する必要がある。
まずは供給過剰を解消するために輸出振興を。よく誤解されているが日本は貿易依存度が低く、輸出額の対GNP比では世界第117位。輸出と生産性との間には強い相関があり、海外の例を見てみると輸出する企業は輸出しない企業よりも生産性が高い。輸出を増やすことは生産性向上のきっかけになりうるのです。因みに観光客の増は観光を外国人に売ることなので輸出と同じこと。その面では観光戦略はデフレ対策になる輸出振興です。
世界各国で行われた分析によると生産性と企業規模は強い相関関係がある。人材評価が低いスペイン(45位)、イタリア(34位)と比べて4位の日本がなぜイタリア、スペイン並みに生産性が低いのかと考えると小企業に働く割合がスペイン、イタリアとあまり変わらないから。生産性向上のためには企業規模を拡大のメリットは大きいのです。人口減少下では企業数減少は必然的な現象であって、後継者不足とか人出不足で消えようとする中小企業を守ろうとするのではなく企業統合促進策が必要となります。個々の企業を見ればいろいろあるにしても全体としてみれば中小企業の経営能力は低く、新しいテクノロジーや技術を活用していない。
現在欧州を中心に生産性を向上させる効果が最も期待され、実施されている経済政策は、継続的な最低賃金の引き上げ。最低賃金と生産性の間には強い相関関係があります。その理由として次の6点。
1;もっとも生産性の低い企業をターゲットにできる
2;効果は最低賃金で働いている上の層にも波及する
3;消費への影響が大きい
4;就職する意欲を高め、雇用を増やすことも可能
5;弱体化した労働組合に代わって、労働分配率を向上させることができる
6;生産性向上を強制できる~経営者は利益を確保するためには生産性を高める必要がある
因みにイギリスの最低賃金導入と継続的な引き上げの分析では、失業への影響はなく、生産性が向上している。
よく言われる韓国の最低賃金引き上げの失敗はその国の経済の実情を踏まえた適切な方をしなかったということ。
これから人口減少と高齢化を迎える日本としては企業が賃上げに向かうことが必要であり,se畏怖として、全員を動かすためには継続的な最低賃金引き上げが、日本経済に好循環をもたらす要石になる。
人件費コストの上昇は規模の経済を利かすために企業統合して規模を拡大する必要が生じます。労働者の給料を上げることによりデフレ圧力も緩和できます。
まあ、女性活躍もできるし、格差社会を是正し、地方創生をもたらし、少子化対策にもなりうるというといささか「風が吹けば桶屋が儲かる」的になっている感もありますけど。
もちろん最低賃金の引き上げだけでは不十分で人材育成トレーニングが必要で、過剰になる大学のキャパシティを活用して再教育改革をすべき、これは理にかなっています。
今までの論の重なりも多いのですが、まとめたものとしては非常に読みやすいので一読してみてください。私は京都から城崎への特急列車の中で読み切れました。
写真に写っているもう1冊、宮部みゆき「この世の春」は最近文庫本になって広告が出ていました。宮部みゆきの本には、人間のどうしようもない負の部分が重要な背景になっていて、それが物語に奥行きを出しています。読み出したらやめられません。
コメント
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