著者の上野泰也はみずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。私の記憶が確かなら日銀の政策委員に推薦されたのですが、自民党の反対で国会で承認されなかったと思います。
この本を読めば分かるように日銀の金融政策と円安誘導をデフレ脱却の切り札にしようといういわゆるリフレ派から見れば守旧派となるので、国会はなかなかうんといえないのでしょう。
この本は「VOICE」に連載したものに、「その後に起こったこと」を書き加えていて、予測が正しかったどうか検証もしているので説得力があります。
経済というのは根本的な話として人あっての経済なんだから人口の高齢化が進み生産年齢人口が減少していけば当然ながら一人当たりの消費量は減る。現在のデフレの原因が需要不足・過剰供給構造の慢性化に原因があるならば消費市場の規模が縮小傾向にある中でデフレ脱却は難しい。著者が悲観論者といわれる所以である。
日銀に市場への資金供給量をとにかく増やせという主張には、日銀調査統計局長の講演の中での「お金をばら撒けば魔法のようにデフレが一挙に消えてなくなるというほど、この世の中は単純には出来てはいない」という言葉を引いている。実物経済の需給バランスから乖離したインフレ状況を作り出そうということは(そもそもそんなことが簡単に出来るとは思えないが)大きな副作用を伴いかねない話となる。
よく言われることだが金融政策は紐みたいなもので景気を引っ張ることは出来ても押すことは出来ない。資金供給を増やすというのはフリーランチではない、その副作用を考慮しないといけない。
では著者はデフレ脱却のためにどうすればいいと思っているのか。その処方箋として
① 少子化対策の格段の強化
② 観光客誘致策の強化
③ 移民の受け入れ
④ 外国企業の誘致促進
藻谷さんが「デフレの正体」で同じようなことを言っており、いずれもその通りですが、少子化対策は即効性がない。女性・高齢者をもっと雇用するというのはいいですよね。移民の受け入れは受け入れる以上態勢が必要ですけど日本という同質社会では軋轢が多いのでは。
この他にも興味深い論点がいろいろ挙げられています。
投機筋とか投機とかはとかく悪の権化のように言われがちですが、著者のディーラー経験からみると「投機」とされる売買は、金融市場において十分な取引の厚み(十分な流動性)が確保され、円滑な価格形成が行われるための、いわば「必要悪」であると。もともと市場というのはそういう投機を織り込んで機能しているものということなのでしょう。
その面では市場を過信してはいけない、市場というものは不完全なものという意識が必要なのでしょう。意外なことにグリーンスパンについていささか弁護しているのは、非常に良好な経済環境の中からバブルが生じた場合にも、それが爆発して経済全体を揺るがす危機につながるよりも前に、信管を取り除くことができるのか。バブルが発生するタイミングは、中央銀行にとって理想的な経済環境(物価安定の下での持続的成長)を実現できた場面の中である。そこでバブルに焦点を当てて、あえて利上げに動くとしても、世論の抵抗は強く、現実問題として中途半端な利上げしか出来ない。バブル対応の難しさ人間がその本性を消し去ることが出来ないから、市場はそんな人間の本性がぶつかり合って成立しているのです。著者は日銀の白川総裁の言葉を何回か引用していて、高く評価していますが、なかなか冷静な意見というのは政治的には評価されないみたいです。
中国については、個人消費が成長のメインエンジンとならず、成長を支えているのは固定資産投資という「サイボーク(人造人間)」経済であり、中でも既存の設備稼働率が高くないにもかかわらず設備投資が暴走していて(投資効率、稼働率の低下)先行き楽観できない。統計資料の正確性に疑問符がつき、人口の面でも一人っ子政策の影響もあり急速に高齢化、少子化が進んでいる。中国恐れるに足らずということではないが、その前途は波乱含みであるということを頭に入れておく必要があるだろう。
というようにいろいろな人が言っていることであり特に新しいことはないのですが、わかりやすく論じてあり、すらすらと読むことが出来ますので、日銀の政策を考えるためにも一度頭の中を整理するためにも手にとって見たらどうでしょうか。
この本を読めば分かるように日銀の金融政策と円安誘導をデフレ脱却の切り札にしようといういわゆるリフレ派から見れば守旧派となるので、国会はなかなかうんといえないのでしょう。
この本は「VOICE」に連載したものに、「その後に起こったこと」を書き加えていて、予測が正しかったどうか検証もしているので説得力があります。
経済というのは根本的な話として人あっての経済なんだから人口の高齢化が進み生産年齢人口が減少していけば当然ながら一人当たりの消費量は減る。現在のデフレの原因が需要不足・過剰供給構造の慢性化に原因があるならば消費市場の規模が縮小傾向にある中でデフレ脱却は難しい。著者が悲観論者といわれる所以である。
日銀に市場への資金供給量をとにかく増やせという主張には、日銀調査統計局長の講演の中での「お金をばら撒けば魔法のようにデフレが一挙に消えてなくなるというほど、この世の中は単純には出来てはいない」という言葉を引いている。実物経済の需給バランスから乖離したインフレ状況を作り出そうということは(そもそもそんなことが簡単に出来るとは思えないが)大きな副作用を伴いかねない話となる。
よく言われることだが金融政策は紐みたいなもので景気を引っ張ることは出来ても押すことは出来ない。資金供給を増やすというのはフリーランチではない、その副作用を考慮しないといけない。
では著者はデフレ脱却のためにどうすればいいと思っているのか。その処方箋として
① 少子化対策の格段の強化
② 観光客誘致策の強化
③ 移民の受け入れ
④ 外国企業の誘致促進
藻谷さんが「デフレの正体」で同じようなことを言っており、いずれもその通りですが、少子化対策は即効性がない。女性・高齢者をもっと雇用するというのはいいですよね。移民の受け入れは受け入れる以上態勢が必要ですけど日本という同質社会では軋轢が多いのでは。
この他にも興味深い論点がいろいろ挙げられています。
投機筋とか投機とかはとかく悪の権化のように言われがちですが、著者のディーラー経験からみると「投機」とされる売買は、金融市場において十分な取引の厚み(十分な流動性)が確保され、円滑な価格形成が行われるための、いわば「必要悪」であると。もともと市場というのはそういう投機を織り込んで機能しているものということなのでしょう。
その面では市場を過信してはいけない、市場というものは不完全なものという意識が必要なのでしょう。意外なことにグリーンスパンについていささか弁護しているのは、非常に良好な経済環境の中からバブルが生じた場合にも、それが爆発して経済全体を揺るがす危機につながるよりも前に、信管を取り除くことができるのか。バブルが発生するタイミングは、中央銀行にとって理想的な経済環境(物価安定の下での持続的成長)を実現できた場面の中である。そこでバブルに焦点を当てて、あえて利上げに動くとしても、世論の抵抗は強く、現実問題として中途半端な利上げしか出来ない。バブル対応の難しさ人間がその本性を消し去ることが出来ないから、市場はそんな人間の本性がぶつかり合って成立しているのです。著者は日銀の白川総裁の言葉を何回か引用していて、高く評価していますが、なかなか冷静な意見というのは政治的には評価されないみたいです。
中国については、個人消費が成長のメインエンジンとならず、成長を支えているのは固定資産投資という「サイボーク(人造人間)」経済であり、中でも既存の設備稼働率が高くないにもかかわらず設備投資が暴走していて(投資効率、稼働率の低下)先行き楽観できない。統計資料の正確性に疑問符がつき、人口の面でも一人っ子政策の影響もあり急速に高齢化、少子化が進んでいる。中国恐れるに足らずということではないが、その前途は波乱含みであるということを頭に入れておく必要があるだろう。
というようにいろいろな人が言っていることであり特に新しいことはないのですが、わかりやすく論じてあり、すらすらと読むことが出来ますので、日銀の政策を考えるためにも一度頭の中を整理するためにも手にとって見たらどうでしょうか。