怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

池谷裕二「脳は何かと言い訳する」

2012-12-21 20:11:56 | 
この本は脳にまつわる知識や考え方を述べたものです。
最近の脳科学に関する進歩は驚くべきものがありますが、この本には最先端の知見が盛り込まれています。ほんまでっかということがてんこ盛りです。その分体系だっていないきらいがありますが、読んで損はない本でした。

アトランダムに紹介していくと・・・
「海馬」は記憶を司るのですが、海馬で記憶を製造したら別の場所たぶん大脳皮質に保管される、そして記憶を思い出すためには海馬は重要ではない。海馬がなくても言葉はすらすらしゃべれるし、昔の記憶も思い出せます。海馬を取り除いた手術をした患者はまるで「博士の愛した数学」の主人公なのです。
ストレスをストレスと感じなくなるには「場馴れ」がある。「馴れ」を記憶の作用と捉え直すと「海馬」が関係してきます。海馬が活性化するとストレスへの順応が早くなります。海馬を発達させることによって次第に強いストレスに勝てるようになるのです。
脳は目の前にある事実ではなく、「思い込み」という色眼鏡を通した虚構を眺めている。料理の味は大脳皮質にある「第1次味覚野」がまず受け取って処理するのですが、「美味しそう」と思うときと「不味そう」と思うときでは、第1次味覚野での反応が違っている。情報が大脳に入ってくる開始点のところで既に情報にバイアスがかかっているのです。ではなぜ脳は思い込みをするのか、それによって脳は次々に入ってくる情報をすばやく処理しているのです。しかしそれは思考の「マンネリ化」とトレードオフになってしまいます。恐怖や不安はねずみなど下等な生物でも感じても楽しいという感情は大脳皮質の発達した比較的高等な哺乳類しかないそうです。大脳皮質は高次な知能を生み出すには重要だけれども、基本的な生命維持には必ずしも必要ではないということ。恐怖は生命を脅かすものをすばやく感知して身を守り、また未然に防ぐために必要。そのため快さよりも不快さのほうがより先入観が強く生じるのです。
ミシガン大学アベルソン博士の実験ではある刺激薬を点滴し直接体にストレスを与えるのだが、どんな副作用がおき気分が悪くなったときの対処方法を示すだけでストレスホルモンの上昇を80%も減らすことが出来るという。生じる可能性のあることを「予測」でき「回避」できることを知っているだけでストレスを克服できるのです。逃げ道、ストレスを解消する方法を持っていると思っていることが重要なのです。
ちなみに酒を飲むと意識の上ではストレスを発散した気分になるが、視床下部ではストレス遺伝子が活動し続けていて体は依然ストレスを感じ続けているという(和歌山医大上山敬司)。アルコールでは駄目だったのです。
ど忘れは大人の脳だけに特有な現象ではない。子どもも日常的にど忘れしている。ただ子どもと大人ではそれまでに蓄積した記憶量が異なる。100個の記憶から目的のひとつの記憶を探し出すのと1万個の中から検索するのでは、かかる労力や時間に差があるのは当然。ど忘れしたときはそれだけ自分の脳にはたくさんの知識が詰まっているということなのです。それに、ど忘れのときは確かに答えは出てこないけれども、その一方で正解が何かをちゃんと知っている。答えを探している自分と正解を知っている自分が脳の中に同時に存在しているのです。記憶がなくなっている訳ではないんです。よく考えると不思議ですよね。
脳の記憶は複雑なステップを経て達成されるのですが、「獲得」「固定」「再生」という工程に分かれます。ところが記憶を「再生」している最中に薬物で遺伝子の働きを阻害すると、思い出すだけなら遺伝子は必要ないからその場限りでは記憶力は正常に見えるけど、遺伝子のない状態で思い出された記憶は、それ以降脳から消えてしまった、つまり記憶の「再生」とは、記憶を再び固定しなおす「再固定化」のための重要なステップだったのです。中途半端な記憶の再生は正確な記憶を損なってしまうのです。再固定化を確実にするためにも復習は時間をかけて丁寧に。
記憶について言えば、海馬の性能は歳をとっても衰えていない、若者と同じ能力を歳をとってもちゃんと発揮できる。歳をとって何が変わるかというとθ波。θ波は面白いなと感じているか、知的好奇心を持っているかなどの注意力や興味に関係しています。θ波がないと見かけ上の脳の機能は低下します。マンネリ化するとθ波が出なくなり海馬をフルに活用しないように抑制してしまいます。
人には「恒常性維持」の本能から変わらないだろうという無意識の思い入れがあり、「選択盲」という「選んでしまったことに気づかない」性質がある。人は重要な選択をした後にもっともらしい「言い訳」を探して後悔していないと思いたがる傾向が強い。自己維持を守ろうという本能なんでしょう。
fMRIを使うと脳がどのように反応しているかが分かる。痛みに対して脳のどの部位が反応しているかが分かるのだが、他人の苦痛に対しても反応する。「同情ニューロン」というのだが、面白いことに活動するのは痛がる相手が恋人とか近親者の場合。見知らぬ他人の場合は反応しない。すなわち愛情診断に使える!ところで恋愛に根拠があるかというと人は「なぜ、その人を好きになったのか」と聞かれてどう答えるのでしょう。突き詰めていくと人は選んだ後に「言い訳」を言っているだけ・・正しい答えはひとつ「脳がゆらいだから」
水頭症の患者で正常の10%程度の脳でしかなかった患者でも人間として正常に判断したり行動したり思考したりできた。「脳の能力は10%しか発揮されていない」では脳って10%しか使われていないのか?脳の神経細胞1000億個のうち900億個は休んでいるのか?基本的には1000億個無駄なく使っています。身体能力が今の人間より10倍優れているような優秀な体に、今の私たちの脳が入ったとしたら、たぶん十分コントロールできると思います。現在の人体のような、それほど優れていない乗り物をコントロールするだけならば、10%使えば事足りる。その意味では「10%の能力しか発揮されえない」基本となるのは体です。
「金縛り」がなぜ起きるかというとレム睡眠の途中で起こった突発的な目覚めで、本人の意識状態はまだ夢の延長にある。往々にして幻想的で非現実的な幻覚が生じるのですが体のスイッチは「オフ」にしているので体が動かない。金縛り状態になってしまうのです。
睡眠というのは外部情報をシャットアウトするので情報の整理に集中できる格好の時間帯になる。睡眠には忘れかけた情報を呼び起こして記憶を補強する効果:「記憶力補強効果」があるのです。チューリッヒ大学のゴッツェリッヒ博士の研究では目を閉じてリラックスするだけでも睡眠と同じ効果が得られました。学習促進に必要だったのは睡眠そのものではなくて、環境からの情報入力を断ち切ることで脳に情報整理の猶予が与えられればいいみたいなのです。眠れなくてもベッドに横になるだけで睡眠と同じ効果があるのなら眠れないことをストレスに感じることはない。ただしテレビを見ながらの休憩は外界から脳を隔離していないので効果ないとか。
アルツハイマー病は脳の中にβアミロイドがたまってくると症状が出てくるとか。βアミロイドの蓄積は30歳ぐらいから始まるのですが、今の治療アプローチとしてβアミロイドを作る酵素をブロックするγセレクターゼ阻害薬、βアミロイドを分解する酵素「ネプリライシン」、βアミロイドを体外から投与して抗体を作るワクチン療法。近い将来にはいい対処法が見つかるかもしれません。
こうやってどんどん書いていくときりがなくて全部紹介しなくてはいけなくなりますが、まだまだ興味のあることはたくさんあります。決して難しく書いてありませんので、見かけたら手に取ってください。
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