学び合いの会でのイスラム教概論は今日で最後となる。コロナ禍の中で中断もあったが、1年あまりよく学んだ(1)。この間アフガニスタンでタリバンが政権を奪い、アメリカ軍が撤退し、タリバンとIS(イスラム国、IS-K)との対立が深まるなど、イスラム教についてのわれわれの勉強もなかなか追いつかない。
今日はイスラム教と現在の中東情勢のとの関わりが紹介された(2)。複雑なテーマなのでどのような視点から、どのような枠組みで整理するかが問われれる。今日のS氏の整理は簡潔で時宜にかなったものであった。補足を加えながら要約してみたい。
Ⅰ 現在の中東情勢
1 混乱と不安定
一言で言えば、現在の中東は「政治的な混乱、社会的な不安定性」という言葉で特徴づけられよう(3)。その原因をイスラム教という宗教にだけ求めることはできないが、イスラム教との関連で眺めるなら、その歴史的・文化的・民族的背景を理解しやすくなる。
2 中東の主な紛争地
現在の中東の主な紛争地帯をあげてみる。提示の正確さよりその数の多さに驚く。
①パレスチナ・イスラエル紛争 ②イラン対米国・サウジ
③イエーメン(イランとサウジの代理戦争) ④シリア内戦
⑤レバノン ⑥イラク ⑦クルド民族 ⑧アフガニスタン
⑨リビア ⑩チェニジア ⑪スーダン ⑫アゼルバイジャン対アルメニア
3 混乱の主要な要因
これらの混乱の要因はいろいろ挙げられるだろうが、政治的要因に絞って整理してみる。
①旧オスマントルコ領の列強による分割
②イスラエル共和国建国(1948・5)とパレスチナ問題
③イランのホメイニ革命(1979・1)
④ソ連のアフガニスタン侵攻(1979・12)
⑤イラクのサダム・フセインの野望(イラン・イラク戦争 1980、クエート侵入、湾岸戦争)
⑥アルカイダによるアメリカ同時多発テロ(2001・9・11)
⑦「アラブの春」の民主化運動
⑧「イスラム国」
⑨クルド民族問題
⑩域外大国(米・露)の介入
これらの要因は個別の出来事ではなく、どれもが相互に関連している。中東問題の解決が難しいのはこの複雑性に起因しているようだ。以下上記の10要因について簡単に整理してみる。背景にあるのは、オスマン帝国の崩壊とイギリスの三枚舌外交、そしてホメイニ革命だ。この三点を見極めないと中東情勢は整理できない。
中東の範囲(出典 Wikipedia)
注
1 イスラムかイスラム教か、とか、イスラムかイスラームかとか、用語の使い方(表現の仕方)で立場性が問われたりするらしいので、ここでは難しい議論には入らない。
2 情勢という言葉も曖昧だが、situation の訳語と考えるなら、状況が固定しておらず変化しているという点を強調する言葉なのであろう。中東問題とは言うが、中東状況とはあまり言わない気がする。
3 中東 Middle East とはどの範囲を指すのかは時代とともに変わってきているらしい。地理的概念ではなく、地政学的・政治的概念とみた方が良いようだ。オスマン帝国の崩壊で生まれた地域を指す概念として登場したようだ。第二次世界大戦以前はイギリスの植民地地域(エジプト・シリア・イラクなど)を指していたようだ。インド・イラン・アフガニスタンを含まず、トルコは「近東」と考えられていたらしい。第二次世界大戦以後は、イラン・アフガニスタン・中央アジアをも含むようになる。現在はイスラム教が支配的な北アフリカ、西アジアを含めることもあるようだ。