カトリック社会学者のぼやき

カトリシズムと社会学という二つの思想背景から時の流れにそって愚痴をつぶやいていく

改革派の三日月 ー 岩島師教会論19(学びあいの会)

2020-11-27 11:11:43 | 教会

 岩島師の教会論の紹介の後、S氏はドイツの宗教事情について話をされた。ドイツで駐在員生活をしたことがある氏の話はおもしろかった。参加者のどなたもドイツには観光旅行では行ったことがあるので話はそれなりに盛り上がった。そこでの話題を少し紹介しておきたい。いわば宗教改革後のドイツの宗教地図の話だ。

 この29日の日曜日から教会では新しい「暦年」が始まる。いってみれば「新年」が始まる。待降節第一主日だ。主日は「B年」に替わる。週日は「第一周年」となる。今年(2020典礼年度 2019年11月30日から始まっていた)は突然新型コロナに襲われ、思わぬ一年になった。勉強会の参加者の顔ぶれにも変化が起きた。宗教改革の話どころではないと言われればそれまでだが、淡々と日常生活を積み重ねていくことの重要性をかみしめている。

「改革派の三日月」

 この地図は1600年頃のルター派の領域と「改革派の三日月」と呼ばれる改革派の領域を示している。当時はまだ神聖ローマ帝国の領土は現在のドイツよりも広かったようだ。改革派が北ヨーロッパで三日月のように伸びていることがわかる。

 


「ヨーロッパ全体の宗教地図」

これはヨーロッパ全体の宗教分布の地図。①はプロテスタント、②はカトリック、③はオーソドックス を示しているようだ。かなりきれいに分かれているのが印象的だ。

 

「ドイツの宗教地図」
 ドイツはどうだろう。現在は、ドイツでは大雑把に言えば、北はプロテスタント(ドイツ福音主義教会(ルター派、改革派など)、南と西はカトリック、旧東ドイツ圏は無宗教がマジョリティーといえようか。地図で見るとこんな感じか。

 

 

 ドイツの宗教地図を考えるとき、まず、ドイツはキリスト教国だという当たり前の事実を確認しておく必要があるようだ。ルターの生まれた国だからなんとなくプロテスタントの国だろうと思いがちだが、実はカトリックとプロテスタントは現在はほぼ半々の割合のようだ。統計によって異なるようだが、大体人口の28%がカトリック、27%がプロテスタント(ほとんどドイツ福音主義教会)で、人口全体でいえばキリスト教徒が過半数ということになる。

 人口は2019年時点で8302万人。6700万人くらいのフランスよりも多い。無宗教の人も多く、統計にもよるが大体37%くらいは無宗教のようだ。教会離れも進んでいて、神を信じている人は2019年現在で55%で、15年間で11%も減少しているという。東ドイツではわずか26%だという。難民・移民も増えており、人口比は12%前後という統計もある。宗教事情はさらに複雑さを増しているのであろう。

 この教会離れは、世俗化が進む現代の傾向だろうが、ドイツでは特に「教会税」の徴収が大きな原因になっているという説も強いようだ。

 ドイツの教会税の話はよく知られているが、教会税はドイツだけではないようだ。スウェーデン・デンマーク・スイス・オーストリア・フィンランドなどヨーロッパ各国にみられるようだ。教会税といっても、各人が税務署に自分の宗教を申告して、それをもとに課税されるようだ。所得税の8~9%らしいが、ドイツは州によって違いがあるらしい。州といっても連邦州は16もあるようだから税率は州によってさまざまなのであろう。9%を教会のために払うというのは負担が大きい。教会員をやめて税金を払いたくないという人が増えるのもわからなくもない。

 教会は国家から(税金から)経済的に支援されるので、財政的には豊なようだ。ドイツの司教区が強く、教会も立派なのもうなずける。プロテスタントの牧師はいわば特別職の国家公務員(1)みたいなもので、国から給与をもらっているようなものだ(2)。

 州の違いといえば、祝祭日が州によって異なるのも日本とは異なる。もちろん全国共通の祝日はあるだろうが、カトリックの州とプロテスタントの州では祝祭日が異なるようで、なんともわかりづらい。たとえば、復活祭やクリスマスは全州共通のようだが、6月11日の聖体祭はバイエルンなどカトリックの州で、10月31日の宗教改革記念日はブランデンブルクなどプロテスタントの州での祭日のようだ(ちなみに11月1日は諸聖人の祝日(万聖節)でカトリック)。

 こういう違いは宗教改革の影響と一概に言い切ることはできないのだろうが、ドイツがいかにキリスト教国かということを示しているようだ。「ライシテ」の原理がまだ生きているフランスとの違いを感じる(3)。

1 特別職の国家公務員で身近なのは、自衛官などの防衛省職員や裁判官などの裁判所職員。消防団員は非常勤の特別職の地方公務員。消防署員は地方公務員のようだ。警察官は地方公務員だが、警察庁は国家公務員だという。
2 日本で、僧侶や神官が国から経済的援助を受けるなんて考えられるだろうか。政教分離原則が極限にまで徹底している日本ではすぐに政教分離に反するとかいう話が出てくるのではないだろうか。 現代の日本では、政教分離の憲法規定を錦の御旗に掲げる法学者と、宗教習俗論を唱える宗教学者の争いの中でがんじがらみにされて、バランスの取れた議論ができなくなっているようだ。ドイツと日本の宗教事情は歴史的背景の違いなので比較してもあまり意味はないのかもしれない。
3 ライシテ laicite とはフランスの政教分離原則のこと。フランスはこの意味ではキリスト教国ではない。
 統計上はフランス国民の7~8割はカトリックということになっているが、実際に教会に行っている人の割合は一割以下らしい。ほとんどの人はイースターとクリスマスにだけ教会に顔を出す程度のようだ。日本の仏教徒がお彼岸にだけお寺参りするのと同じみたいだ。
 学校でイスラム教徒のスカーフは禁止される。もちろんキリスト教徒のロザリオも禁止だ。教室に十字架はない。「ライシテ憲章」が生きているようだ。
 2015年には、シャルリー・エブド襲撃事件が起こる。ムハンマドを風刺する風刺画がイスラム過激派のテロリストに事件を起こさせた。今年2020年には、イスラム教過激派に感化されたとみられるチェチェンからの難民によるフランス人教員の殺害テロ事件がおこる。表現の自由か、無宗教の自由(信教の自由)か。フランスはまだ答えを持っていないようだ。
 わたしは詳しい事情は分からないが、個人的意見としては、フランス革命の伝統をつぐ風刺画はフランス国内では大事にされるべきだろうが、なにも外国のイスラム教のムハンマドを風刺しなくともよいのではないかと思う。
 といっても、このパリの教師殺害事件は、1991年に『悪魔の詩』を訳した五十嵐一さんが研究室で(おそらく)イスラム教徒に殺害された事件を思い起こさせる(同僚だった)。両方の事件とも、「ファトワー」と呼ばれるイスラム教の宗教令に触発されたのではないかと言われているが、イスラム教は殺人を禁じているにもかかわらず、無念でならない。

 

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