映画「ドライブ・マイ・カー」を観てきた。3時間の長編だった。中休みがあったが、年寄りにはつらい。観客はほとんど高齢者、しかも女性。村上春樹原作だからだろうか。わたしは村上春樹はほとんど読んだことがないので予備知識ゼロだった。2021年のカンヌ国際映画祭の作品賞など賞をたくさんもらった映画らしいという程度の知識だった。
映画が終わった直後の印象はこれは宗教映画なのではないか、というものであった。なにか宗教的なシーンが出てくるわけではないが、映像の余韻は宗教的だった。ストーリーとしては、妻に死なれた主人公の苦しみと立ち直りを描いているのだが、無神論者の宗教性みたいなものを描いているような印象を受けた。チェーホフの「ワーニャ伯父さん」が劇中劇だからかもしれない。この映画の評価は日本国内より海外で高いのはそのせいではないだろうか。登場人物3人とも殺人者(主人公・運転手・主役俳優)であり、3人とも苦しみから逃れようとしている。
映画の冒頭からセックスシーンが出てきて年寄りだらけの会場は一瞬シーンとなり、さてこれからどうなることやらと思わせたが、全体は二重・三重の劇中劇みたいで、シリアスなものだった。芸術映画と呼んでよいだろう。
ストーリーはよくはわからなかった。SNSにはいろいろあらすじの紹介があるようだが、原作を本で読んでから観る、という映画ではなさそうだった。短い発話と美しい映像を楽しむ、という映画のようだった。対話ではなく発話と言いたいくらい、言葉が断片的だ。発話と言えば、言語は日本語・英語・中国語、韓国語そして韓国式手話が入り乱れる。手話はきれいだった。説得力があった。だが、字幕だけではストーリーは追いきれない。
車が主役みたいで、赤色のSAAB サーブ900、ターボ車だ。車好きは楽しめるのではないか。ターボエンジンの音は良かった。広島から北海道まで一気に走り抜けるのだ。ほとんど広島での撮影だというが映像はきれいだ。瀬戸内海のようだ。
【SAAB】
よくわからない点もあった。映画の前半はだれもマスクをしていないが、終わり頃は登場人物はマスクをしている。撮影はコロナ禍にかかったのかもしれない。また、主人公をはじめ煙草を吸う人が多く登場し、違和感があった。今の時代にクルマの中でたばこを吸う人はいないだろう。煙草の煙がなければ絵にならないのだろうか。それに、ラストシーンは突然韓国のコンビニだ。主役の女性もなにか吹っ切れたように明るい。何を暗示させたいのかわからなかった。原作の短編集「女のいない男たち」を読んでくださいということなのだろうか。
ということで、男女の感情の機微、その変化に私はついていけなかったようだ。無粋と言われればそれまでで、村上春樹がノーベル賞をもらう前に少しは読んでおかねばと思った。