カトリック社会学者のぼやき

カトリシズムと社会学という二つの思想背景から時の流れにそって愚痴をつぶやいていく

イギリスの三枚舌と中東情勢 ーイスラム教概論22(学び合いの会)

2021-11-24 11:29:35 | 神学


 以下前回主要な要因として挙げた項目を順番に見ていきたい。

Ⅱ 中東問題の背景と経緯

【一】 オスマントルコ領の分割

 中世末から近世にかけて隆盛を誇り、ヨーロッパを圧倒したオスマン・トルコ帝国も18世紀には衰退した。第一次世界大戦では同盟国(ドイツ)側に加わり敗北する(1)。西欧列強はすでに大戦中にその領土の分割を図っていた。

①サイクス・ピコ秘密協定(Sykes-Picot Agreement)

 1916年5月、英仏露間で第一次世界大戦後のオスマン帝国の領土分割を約した秘密協定。サイクスはイギリスの、ピコはフランスの外交官の名前。3国それぞれの勢力範囲を定め、パレスチナを国際管理地域とした。この協定は、アラブ独立を約束したフサイン・マクマホン書簡、ユダヤ人国家の建設を黙認したバルフォア宣言と矛盾していた。やがてシリア・キルキア・メソポタミアが分割され、シリア・レバノンは仏の委任統治領、パレスチナ・トランスヨルダン・イラクが英委任統治領となる。


(サイクス・ピコ秘密協定)

 

②フサイン・マクマホン書簡(Husayn-MacMahon Correspondence)

 イギリスがアラブ独立を約束した協定。第一次大戦中、メッカの太守フサインはアラブ独立を条件にイギリス側につきオスマン帝国への軍事行動に同意した。イギリスに認めさせるため、エジプト高等弁務官マクマホンとの往復書簡(1915年7月~16年3月)を交わした。アラブ独立国家にはフサインはパレスチナを含むと考えたが、イギリスは含まないとした。さらにこの協定はサイクス・ピコ秘密協定におけるシリアにおけるフランスの権益に抵触した。

③バルフォア宣言 (Balfour Declaration)

 バルフォア英外相が1917年11月29日に在英ユダヤ人協会会長ロスチャイルド卿に当てた書簡形式の宣言。第一次世界大戦でイギリスはユダヤ人の財政援助に期待し、事実上ユダヤ人国家の建設を承認する内容の宣言だった。これはによるアラブ人国家の承認を含むフサイン・マクマホン書簡やサイクス・ピコ協定と矛盾するものであった。これはイギリスの「三枚舌」であり、以後イギリスの三枚舌外交と呼ばれるようになる(2)。


【二】 パレスチナ問題

 パレスチナ問題とは、パレスチナをめぐるユダヤ人とパレスチナ人との民族紛争のことをいう。
古代のユダヤ人によるローマへの二度にわたる反乱(ユダヤ戦争)により、2世紀前半にユダヤ人は国を失う。以後国を失ったユダヤ人にとり祖国復興は長年の念願だった。実に2000年近く世界中を流浪する。

1 イスラエル建国までの経緯

1881 シオニズム運動開始 ユダヤ植民開始 ロシア帝国でのポグロム(3)から逃れたユダヤ人がパレスチナに移民した
1897 ヘルツルが世界シオニスト会議を開催
1917 バルファオア宣言(ユダヤ人のナショナルホームつまり民族郷土の建設を英が了承)
1922 フサイン・マクマホン書簡で英はアラブ王国にパレスチナは含まれないとした
1939 マクドナルド白書(パレスチナ白書)で英はバルフォア宣言を事実上撤回する

 ここにイギリスはユダヤとアラブの両者に矛盾した約束をしたことで処理不能に陥り、第二次世界大戦後国際連合に処理を丸投げする

1947・11 国連総会はパレスチナ分割案を承認する アラブは拒否
1948・5 イスラエル国建国 翌日直ちにアラブ諸国はイスラエルに侵攻 中東戦争始まる(4)

 

(嘆きの壁で祈るフランシスコ教皇)


2 イスラエル建国と中東戦争

 中東戦争は大規模な戦争は4度戦われたとされている。

①第一次中東戦争(第一次パレスチナ戦争)
 イスラエルが独立宣言をした翌日、つまり、イギリスによるパレスチナ委任統治が終了した1948年5月15日、エジプト・シリア・トランスヨルダン・イラク・レバノンがイスラエルを侵攻。イスラエルが勝利する。

②第二次中東戦争(スエズ戦争)
 エジプトでは1952年に王政が倒れナセルが政権を掌握。ナセルは1956年スエズ運河会社国有化を宣言した。これに反発する英仏がイスラエルとともにエジプトを攻撃して戦争開始。米ソから批判されすぐに撤退。

③第三次中東戦争(六日戦争)
 1967年にナセルがティラン海峡封鎖を宣言。6月にイスラエルがエジプト・シリア・ヨルダンを奇襲した。エジプトからシナイ半島、ガザ、シリアからゴラン高原、ヨルダンからヨルダン川西岸を奪う。イスラエルの国土面積は倍増した。

④第四次中東戦争(10月戦争)
 エジプトのサダト大統領は第3次中東戦争で失った領土回復を目指して1973年にイスラエルを奇襲攻撃する。イスラエルは結局反撃に成功する。アラブ諸国は石油戦略でエジプトを支持し、第一次オイルショックを引き起こした。

 イスラエルは建国以来常に周辺のアラブ諸国の軍事的圧力にさらされている。イスラエルは国土は狭く日本の四国程度で、人口は934万人(2021年現在 イスラエル中央統計局)で小国(5)。だが安全保障体制は常に臨戦体制で軍事力は中東随一といわれる。核も保有していると言われ、アラブ諸国に対する軍事的優位を保っている。男子32ヶ月・女子24ヶ月の国民皆兵制で正規軍は17万と言われる(6)。



1 13世紀に生まれたオスマン朝は前近代のイスラム史上最強の世界帝国。15世紀にはビザンチン帝国を滅ぼす。16世紀にはメッカとメディナを支配下に置き、イスラム教スンニ派の超大国となる。18世紀末から西洋化改革を始めたが西欧列強の圧力と民族独立運動の中で解体し始め、1922年にスルタン制廃止とともに消滅した。
2 この「三枚舌外交」という表現は世界史の教科書でも用いられているので、よく使われる普通の表現らしい(『もう一度読む山川世界史』2020)。
3 普通はロシアやウクライナでの反ユダヤ暴動またはユダヤ人大虐殺を指す。ドイツのホロコーストの先駆とも言われる。
4 中東戦争 Arab-Israel conflict は1948年から1979年までの4度の大規模な戦争をさす。和平協議で紛争が沈静化した後も(1979年エジプト・イスラエル平和条約締結)、PLO(Palestine Liberation Organaization パレスチナ解放機構 パレスチナを代表する機関として認められている)やハマス(Hamas ガザ地区を実効支配するイスラム組織)などの非政府組織とイスラエルとの軍事衝突は続いている。2020年9月にはイスラエルとUAE,バーレーンが国交を回復し、今年(2021年9月)にはイスラエル首相がエジプト大統領と会談している。1979年以降ほとんど動かなかった事態が急変しつつある。敵の敵は味方なのかもしれない。
5 民族はユダヤ人が74%、言語はヘブライ語、宗教はユダヤ教が74%、共和制国家である。
6 自衛隊は24万人くらいだが対人口比では主要国では最低水準だという。

 

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