カトリック社会学者のぼやき

カトリシズムと社会学という二つの思想背景から時の流れにそって愚痴をつぶやいていく

「イスラム国」(IS)は「妄想」だった ー イスラム教概論9(学び合いの会)

2021-06-29 20:41:29 | 神学


 6月の学び合いの会は参加者が多かった。15名はおられたようだ。喜ばしいことではあったが、小さな集会室は文字通り「三密」だった(1)。

 今回のS氏の解説は前回までとは少しトーンが異なり、イスラム教への批判的視点の強調が印象的であった。今回のテーマはイスラム法学が中心だったせいかもしれない。イスラム教は「イスラム神学」としてはほとんど発展せず、「イスラム法学」(2)として発展し、キリスト教の発展との違いが対照的であったからであろうか。

Ⅳ 共同体 ー ウンマ

1 ウンマとは何か

 ウンマ(umma)とは普通名詞で、「信仰共同体」のことをさすという。よく聞く用語だが、その指し示す範囲は時代と共に変化し、明確では無いようだ。部族・民族単位の信仰共同体だったり、事実上近代国家の範囲を指したり(つまり政治団体)、場合によっては地球規模のイスラム世界を指すこともあるようだ。地球すべてがイスラム化するまで、つまり世界全体が一つのウンマになるまで、ジハードは続くという言説も聞かれる(3)。
 S氏は、ウンマは「地球的運命共同体としてのイスラム世界」だと説明している(4)。

ウンマ(写真)

 

2 ウンマの本質

 ウンマの本来の思想では、人類はかって一つのウンマであったが、人々の争いにより、多くのウンマに分裂したという。神はそれぞれのウンマに預言者を遣わして啓示を与えた(アダム・ノア・アブラハム・イサク・ロト・ヨセフ・モーセ・ダビド・ソロモン・ザカリア・(洗者)ヨハネ・イエス)。特にイスラエルの子らに特別の恩恵を与えた。モーセには律法、ダビドには詩篇、イエスには福音書を啓示として授与した。これらが「啓典の民」である。すなわち、ウンマとは、神の使徒が遣わされた「単位集団」ということになる。

3 ムハンマドのウンマ

 ところが、歴史的に見れば、ウンマの最初の形態は、聖遷後のムハンマドの周辺に集まった小さな信仰共同体を指していたようだ。現在では、イスラム教では単にウンマと言えばムハンマドのウンマのこと、つまりイスラム共同体のことを指すという。だが、全イスラム教徒が一つの共同体として存在したのはイスラムの初期、発足からせいぜいアッバス朝(750-1258)の初め頃までのごく短い期間だった(5)。
 今日存在するのは、ムスリムが多数を占める国民国家群であり、統一国家としてのウンマは存在しない。つまりカリフは存在しない(6)。カリフ制復活は「イスラム国の妄想的願望」にすぎない。

4 ウンマの構造的特性

 ①ウンマに教会は存在しない 聖職者の階級制度は無い
 ②祭政一致、テオクラシーであり、イスラム教は在家の宗教である

 つまり、ウンマは今日では信仰共同体でありながら、政治的共同体たろうとしている(7)。この独特の特性の源は聖法(シャリーア)にあるようだ。次回にまわしたい。

アラビア語圏(出典 長沢英治監修『13歳からのイスラーム』)

 

 

1 当教会所属の方はわずか数名で、どういう関係の方々かは解らない。イスラム教への関心が高まっているのか、コロナ疲れの所為なのかはわからない。
2 「聖法学(シャリーア学)」として発展したと言うべきなのかもしれない。
3 ウンマには日本語では「共同体」という訳語が当てられ、それがもつ「結社的性格」が強調されない仕組みになっているようだ。キリスト教でも教会は「共同体」と呼ばれる。なお、イスラム教には「教会」は存在しないということになっている。
 中田孝氏は、ウンマは「ダール・アル=イスラーム」(イスラームの家)であり、「民族や領邦領域国家(近代国家)を超える」と繰り返し述べている(『イスラーム・生と死の聖戦』2015)。ムスリムは個別国家よりウンマにより強い忠誠心や帰属意識を抱いているということのようだ。
4 全世界をイスラム化することを目指しているという意味のようだが、現実的にも理念的にも説得的な説明ではない。キリスト教は「福音を全世界に宣べ伝える」使命を帯びているが、全世界をキリスト教化するのが目標だという言説は聞かない。
5 ウマイヤ朝(661-750)を倒した王朝。アブー=アルアッバース(在位750-754)を初代カリフに推戴した。事実上のイスラーム帝国の開始である。
6 2014年に国家樹立を宣言した「イスラム国」はカリフを名乗った指導者を持った。2021年時点でイスラム国(IS)は壊滅したことになっている。しかしメディアによれば、シリアなどには捕虜が1万人余おり、潜伏中の支持者は数万人の規模になるという。日本のメディアでは、「イスラム国」は「イスラム過激派集団」と呼称されることが多いが、この表現では「過激派」とか「集団」という名称の内実がはっきり伝わらない印象がある(藤原聖子『宗教と過激思想』2021 中公新書)。
7 ダール・アル=イスラームをイスラム法(シャリーア)が適用される領域、カリフ制をイスラム法が支配する政治体制とみなすなら、ウンマはより理念的な上位概念のようだ。国民国家が成立し、カリフ制が機能しない現在、ウンマはより重要な統合的概念になっているようだ。だからこそイスラム教の原理主義的性格が表面化しやすくなっているのかもしれない。

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