カトリック社会学者のぼやき

カトリシズムと社会学という二つの思想背景から時の流れにそって愚痴をつぶやいていく

ヒトゲノム計画 ー ポストゲノム時代のパラダイムシフト(3)

2019-11-07 17:44:53 | 神学

Ⅱ ヒトゲノム計画による新発見

 

ヒトゲノム計画はDNA塩基配列の意味の解明の第二段階に位置づけられるようだ(1)。

ヒトゲノム計画(Human Genome Project)とは、氏によると、「ヒトゲノムの全塩基配列(染色体23本 約32億塩基対)を解析するプロジェクトで、1990年に米国のエネルギー省と厚生省により予算30億ドルで発足し、15年間で計画を完了する予定だった。

セレラ・ジェノミクス社の商業的競争を受けて完了が加速され、ドラフト版(約90%)が2000年6月に公表された。1953年の二重ラセン構造の発見から50周年になる2003年に計画完了が宣言される。この「完全版」ではユークロマチン(全ゲノムの92%)の99%を99.99%の正確さで解読したという。

 ただし、氏によると、現在でも「全塩基配列を解読した」というのは誇張で、未シークエンス部分や非連続部分も大分残っているという。個々人のゲノムは違いがあるので、さらに解析が必要だという。

 重要なのは、このDNA配列解読の結果がもたらした「サプライズ」だという。氏は3点あげて説明された。

 

1 遺伝子の数は約2万しかない 全ゲノムの2%にすぎない (それまでは8万~10万と推測されていた)

2 ゲノムの約半分が繰り返し配列になっている

3 遺伝子以外の機能因子が発見された(短鎖ncRNA 長鎖ncRNAなど)(2)

 

 これらの新しい発見がどれだけ革命的意味を持つかはよくわからないが、研究者たちにとっては「驚き」だったようだ。現在は配列の意味の解明から機能研究を含めた配列の注釈 annotation 作業が進行中だという。データベース化も進んでいるようだ。

 

 このあと、氏は、トランスポゾン について詳しい説明を展開された(3)。最初は何を説明しておられるのかよくわからなかったが、どうも遺伝子の「進化」や「変異」がどのように起こるのかを問題にしておられるようだった。

 

1 ヒトゲノムの構成割合

 

 

 

 氏はこの二つの図を詳しく説明されたが、私にはそれを要約する力はない。ただ、わたしにも次のことは読み取れた。

 

1 遺伝子数は約2万強である

2 ゲノムには「繰り返し配列」と「独特の塩基配列」がある

3 LINEsとSINEsと呼ばれる因子または塩基配列がある(4)

4 「繰り返し配列」は大半がトランスポゾン由来の配列である

 

 この後、氏は、「Junk DNA」の説明に入られた。ゲノムの70%がRNAに転写され、遺伝子以外のJunk DNA領域に新しい機能が発見され、その多くが遺伝子発現の制御を司っているのだという。要は、変異や進化の話らしいがよくはわからなかった。

ただ、氏が、Junk DNAは、日本語でよく使われる「がらくたDNA」とは違い、訳語がおかしいと繰り返し強調しておられたのが印象的であった。Garbage(米)、Rubbish(英)の訳語としてはよくないという。分子生物学の世界ではきっと重要な問題なのであろう。

 

 次いで氏はトランスポゾンの詳しい説明に入られた。いろいろ細かい説明をしておられたが、ポイントは次の2点のようだ。

 

1 トランスポゾンがゲノムを変える

2 物理的環境や精神的ストレスは「活性LINE-1」を動かす可能性がある

 

 説明されてもよくわからない話なので、以下に氏の文章を少し引用してみる。

 

「トランスポゾンは、勝手に位置を変えたり増えたりする因子(利己的遺伝子)。ヒトゲノムのトランスポゾンの大勢は、原型に突然変異や挿入欠失が入ったもので、化石化して活性が無い、ある意味では一種の残骸と考えられている」

「ヒトゲノムには、80-100の活性を発揮できるLine-1がある。活性Line-1は,自己増殖でき、Sineをも増幅させる能力を持つ。他方、活性のあるものを押さえて活性無い状態にする、エピジェネティクスがある」

「活性があるレトロポゾンは、増幅してゲノムのいろいろな部位に挿入する。多数の繰り返し配列の存在で、ゲノムブロックの重複、逆位、欠失などが起こる」

 

 こう言われてもますますわからないが、要はレトロポゾンが動き回ると様々な変化を引き起こすと言うことらしい。「近くに同じレトロポゾンがあると、相同組換えの異常である「不等交叉」を招き、重複や欠失や逆位が起こることがある。これらを「構造変動 SV structural variation、コピー数変動 CNV copy number variation などと呼ぶ」そうだ。このSVやCNVは重要な現象らしい。

 

 また、「Line-1の挿入で起こる遺伝性疾患が報告されている。細胞のがん進展にLine-1の関与が報告されている。環境や摂取食物などで、活性Line-1を動かす可能性が検討されている」そうだ。ゲノムは動く、とはこういうことらしい。

 それにしてもかなり専門的な話のように聞こえたが、よくわからなかったのはわたしだけなのかもしれない。「環境とゲノムのせめぎ合い」の話は次回にまわしたい。

 

1 「ヒト」とカタカナ書きするときは、「人間」または「人類」を指すホモ・サピエンス Homosapiens の生物学上の名称だという。生物学上の分類ではヒトの範囲は広く、現生人類はそのひとつにすぎないらしい。

2 ncRNAとは non-coding RNA 非コードRNA のことで、タンパク質に翻訳されずに機能するRNAのことだという。

3 トランスポゾン transposon とは、ゲノム上の位置を転移する(transposition)する塩基配列のことで、「動く遺伝子」とか「転移因子」と訳されるらしい。

4 LINE は「長い 散在 反復 配列」、SINE は「短い 散在 反復 配列」とも訳されるようだ。何のことだかは私にはわからない。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする