「sin xの級数展開」といタイトルでエッセイを書いたことがある。
現在ではTaylor展開によって、sin xをxのべき関数の和として表されることはすこし微積分を学んだ人なら知っている。
そして、その係数を求めることもまったく難しくはない。だが、歴史的にはNewtonがはじめて、その展開を求めたころはそういう方法は知られていなかった。
そもそも微積分学そのものがなかったのだから。それでいまではなんでもないことでも大いに苦心して計算をして求めたのであった。その求める方針については誰でも読める本としては志賀浩二先生の著書『無限のなかの数学』(岩波新書)がある。ところが、この本には方針は書かれているが、その計算はスペースの関係から書かれていない。
それで、以前に「数学・物理通信」1巻7号(2011.6)にその計算について書いた。ところがその後、2015年になって、やはり志賀先生の書籍『数学という学問 I ー概念を探る』(筑摩書房)を読まれたT. 吉泉さんが「ニュートンと三角関数の級数展開」というエッセイをインターネットに書かれている。そこでは吉泉さんはインターネットでも調べたのだが、よくわからなかったと書いておられる。
私たちの「数学・物理通信」はインターネットでも検索してくだされば、すぐに名古屋大学の谷村先生のサイトにあることはわかるのだが、吉泉さんも、そこまでは検索が行き届かなかったらしい。
もっとも吉泉さんはもっと広く、いろいろと議論をされているので、その議論が無駄になることはないのだが、同じことを試みる人が出てくることはあまり生産的には望ましくはない(個人の経験としてやってみたいという方には話は別だが)(注)。それでそのことを出版社を通じて志賀先生に伝えてもらうことにした。
別に志賀先生はすでにご存じの内容なので、どうでもいいことだが、私がしたような1週間ほど時間をとるというようなことは、もう他の人にしては欲しくはないという気持からである。
ちなみの吉泉さんのサイトはcup.sakura.ne.jp/math/triangle.htmである。
志賀先生の本の書き方が上手なので、ついそれに引き込まれてしまう人がでるのだろう。それが、わるいとは一概に言えないだのが。
(注)実際、この「sin xの級数展開」を「数学・物理通信」で発表した際に、N先生(京都大学名誉教授)からご批判をいただいたことを私は忘れてはいない。