総選挙のため、ほとんど読書できずにいましたが、「叙情と闘争、辻井喬・堤清二 回顧録」(中央公論新社)を読破。たいへん勉強になりました。
文学者として、経営者として、戦後史を私的に概括した興味深い論考でした。
辻井氏は最後にこう語っている。
僕の考えからすれば、平和憲法とその思想を高く掲げることによって独立国家への道を歩むしかないと思うから、その道は細く険しいのかもしれない。見方を変えれば、それはサンフランシスコ講和以後、我々に残された宿題なのかもしれない。憲法九条を変えて軍備を持ってしまうことは、吉田茂の残した宿題に正面から答える道ではないように僕は思う。そのような大きな課題への答えは明らかになっていない状態で昭和が終わり、二十世紀が終わったのだ。そうして、今始まっている世界的な大きな変化は、もしかすると産業社会の終わりへと続くものなのかもしれない。
長いトンネルに入った産業社会が、どんな地域に出るのかはまだ誰にも分かっていない。「雪国」ならいいけれども、異次元の世界かもしれない、と僕には思える。少なくとも、アメリカの一極支配はすでに終わりを告げたのだ。
そして自らの詩でこう終わっている。
もの総て
変りゆく
音もなく
思索せよ
旅に出よ
ただ一人
鈴あらば
鈴鳴らせ
りん凛と
人の生き方を指し示している。